性別など些細な事
「おい。何をやっているんだ?」
「この詐欺師で泥棒で盗掘者な男を懲らしめている!」
「?! だ、団長?! フェリックス止めろ! マジで!」
「何だよ? じゃあ私の勝ちな!」
攻撃を止めるとそこには筋肉ムキムキなおっさんがいた。何故だろう? どこかで見た事がある感じがする。
「どうしてここで部外者とノルベルト・リンヴァリー隊長が戦っているのだ?」
「この男は詐欺師で泥棒で変態盗掘者なんです!」
「そんな事していないだろ?! フェリックスの勘違いだって!」
「全財産を奪っただろ!! 昨日私の宿屋から!」
「そんな事はしていない! 話を聞け!!」
「うるせぇ馬顔! ずっと楽しみにしてた破瓜の瞬間を返せ!」
「話を聞けよ単細胞!! 今俺の尻にお前の氷が刺さってんのはどうなんだ? あ゛?」
「お前ら煩い!!!」
――ゴツン――ゴツン――
「ウゲェエエエ!! 鋼鉄ジジイの鉄槌いぃ!! 頭が割れたぁ!!」
「誰が鋼鉄ジジイだ!! なるほどお前は本当にフェリックスだな! 儂の事をそんな風に呼ぶ馬鹿野郎はフェリックスしかいない!」
この筋肉ジジイ⋯⋯この痛みで思い出した。このジジイはフェリックスの所属する部隊長をしていたジジイだ。些細な事ですぐに拳骨を脳天に落とすし、敵からの攻撃を鋼鉄の鎧を着ているみたいにすべて弾くから鋼鉄ジジイだ。
「一ずつ解決しろ。まずは詐欺師とは何だ?」
「はい。親友に会えて喜んでいたら、宿屋においていた全財産の入っていた荷物を親友に奪われました。詐欺でしょ?」
「で、ノルベルトよ、それは本当か?」
「違います。昨日フェリックスのいない間に宿屋から家に運び込みました」
ほらやっぱり。勝手に荷物を盗んでいた。 何が運び込んだだよ? 言い方を変えただけじゃんか。
「家とは? どうしてフェリックスの荷物を運んだのだ?」
「フェリックスは家を探していたので俺が家を借りました。そこに荷物を運んでおきました」
へ? 家を借りた? いつの間に?
「うむ。それをフェリックスは知らなかったのだな?」
「知らなかったです。家もどこにあるのか分からないし」
何も言われなきゃ泥棒だと思うじゃないか。私は悪くない。
「は? 昨日家に帰って寝たじゃないか。それに俺は昨晩きちんと話したぞ」
「え? 今朝私が起きたあの家か? 何も聞いていないぞ」
全くの初耳だが昨日も酔っていただろうし、私が覚えていないだけかも。
「ノルベルトの説明不足が原因だが、フェリックスの全財産は盗まれていなかった。では次。変態盗掘者とは何だ?」
「この男が私の処女を勝手に奪ったんです! 本当に痛いのか確かめたくて楽しみにしていたのに!」
「お、おい! 変な事言うなよ! 皆が聞いてるんだぞ?!」
この場には変態長の部下が揃っていた。皆が変態長の醜態を楽しそうに聞いていた。
「⋯⋯ノルベルト。同意のない関係は紳士ではない」
ほら! やっぱり親友が悪いんだ!
「待って下さい! 無理やりではなくてあれは――――」
「だが、フェリックスとてノルベルトを責めるのは違う」
へ? どうして? いつの時代も閨関係の責任は男側にあるんじゃないの?
「なぜならフェリックスは昔、酔ってルーカスの尻に無体を働いたからだ」
「⋯⋯え? 嘘だろ?」
隣にいる親友を見ると苦虫を噛み潰した様な恥ずかしそうな顔をしていた。
「よってお互い様である。以上。そしてフェリックスは魔法で破壊した訓練場を直せ」
「あぁぁ」
冷静に周りを見ると、平だった訓練場がボコボコになっていた。
「そして罰として二人で北の森に行って大型魔獣を五体狩れ。いいな?」
「「⋯⋯はい」」
ロゼリーは魔法で訓練場を直し、親友と共に北の森に向かった。
「いつまでも宿屋じゃ落ち着かないだろ? 昨日は休みだったから家を借りてフェリックス⋯⋯じゃなくて、ロゼリーの荷物も引っ越しを済ませておいたんだよ。中身には一切手を付けていないから安心しろ」
「⋯⋯そうか。それはすまなかったな」
荷物に関してはもういい。それよりもフェリックスは昔、酔ってルーカスの尻に無体を働いたという話の方が気になる。本当なのだろうか。だがどう切り出したらいいのか分からない。
「いや、俺に会いに来てくれたと聞いて少し舞い上がってしまったらしい。勝手に暴走し過ぎた」
「それは私もだ。それで、その⋯⋯本当なのかと⋯⋯」
全く覚えていないのだが、事実なのか? ならフェリックスも少しは脈はあったのだろうか。
「大き目の家を借りたんだ。これで一緒に住めるだろ? おっさんは駄目だけどハムスターも飼えるし、どうだろうか?」
「うん。そうだな。いいと思う⋯⋯その⋯⋯」
今聞かないと時間が経つ程聞きにくくなってしまう。今聞かなくては。
「目の前でフェリックスが俺を庇って亡くなって、俺は我を失ったよ。でもまたこうして再会できたのだから今度は勝手にいなくならないで欲しい。だから――――」
「うん。そうだな、朝出かける時は一言伝えるわ。それで⋯⋯さっきの話だけど⋯⋯」
よし聞くぞ!
「ロゼリー結婚してくれ!」 「俺が親友の尻を掘ったって本当?」
「「⋯⋯」」
⋯⋯同時に爆弾発言が放たれたのだった。
いつも親友はカッコよくキマらないし、ロゼリーも無神経で話も聞かないし、諸突猛進だった。
二人はまた森の中で喧嘩をし、また安ワインを飲んで一緒に帰って寝るのだった。
そしてその後のロゼリーは⋯⋯
「フェリックス! お前暇だろ! 騎士団に入れ! 生まれ変わっても全く進化のない根性を叩き直してやる!」
「うるせぇ! 剛鉄ジジイ! 無駄に年だけ取って進化してねーのは一緒じゃねーかよ! 頭なんか退化させて――――」
――ゴツン――
「痛ってぇぇぇ!! ハゲ鋼鉄ジジイ!!」
ジジイ曰く、時々過去生の記憶がある人間が産まれる事があるらしい。だからジジイは驚かなかったそうだ。
そして⋯⋯
「ロゼリー! こいつはハムスターじゃないぞ! 尻尾が長いじゃないか!」
「親友は細かいなぁ。そいつはごみ漁りをしてたんだよ。食べ物に困っていたんだよ? 可愛そうじゃないか」
「じゃあコイツはドブネズミだ! 捨ててこい!」
なんて事があったり⋯⋯
「ロゼリーさん! 毒草と蜂の駆除のクエストを受けてもらえませんか? 貴族の邸宅で大量発生してしまって困っているらしいのですが、駆除できる人がいなくて⋯⋯しかも毒蜘蛛や毒蛇にドブネズミも出るそうなので⋯⋯」
「あー無理っすね。私妊娠してるっぽいので。産休っす」
「えぇぇ?! お、おめでとうございます?!」
そして更に⋯⋯
「ロゼリン! この馬鹿娘! お前がどうしてトラム王国の騎士をしているんだ?!」
「あ、ジジイだ。今日はトラム王国騎士団とベール王国騎士団の合同練習があるから、わざわざベール王国に来たんだよ」
「か、勝手な事ばかりして! 騎士など辞めて帰ってこい! 結婚しろ!」
「はぁ? もう結婚してるぞ? ほら、見学席に息子もいる。お~い! ここに爺がいるぞ~お小遣いくれるから来てみな~」
「は~い」
「は?! な、何だと?! へ? 孫?! この子が⋯⋯?」
「⋯⋯じいさん、よわそうだね。へんなの」
「ガハァ!!」
なんて事もあった。
そして⋯⋯
「今回は、俺が先に逝くよ」
「そうか。だがもし⋯⋯また生まれ変わったら、また一緒にいてくれるかい?」
「当たり前だ」
「同性でも?」
「勿論だ。性別など些細な問題だ」
「⋯⋯そうか」
今度はノルベルトが先に逝ったが、その数日後にロゼリーも82歳で旅立った。
旅立つ二人の周りには沢山の子供達や孫がいて前世とは違い、ベッドの上で大往生遂げたのだった。




