記憶を飛ばしていた間の会話
「乾杯。人生に一度しか体験できない初体験を奪った変態長が、しっかりと今日の酒代を払えよ」
「乾杯。声が大きいぞ! これでも一応この町を守る騎士で――――」
「ナニが守るだよ。率先してバンバン奪ってんじゃねーか。乙女の花園を勝手に盗掘しやがって」
「へ、変な事言うなよ!!」
私の声よりよっぽど大きい声で叫ぶ盗掘隊長。私の言葉にあたふたする所に懐かしさを覚える。親友もこんな反応をする男だった。
「⋯⋯盗掘を仕返してやる」
「お、俺に何する気だよ?!」
オドオドし始めた。面白い。
「ほら飲めよ。素面だと痛いかもしれないだろ?」
「え? どこが痛くなるんだよ?」
「さあな」
――チュンチュン――
「ん⋯⋯暑っ⋯⋯ん? 何だこれ?」
目を覚ますと、夏なのに湯たんぽみたいな物が胸の上にあったので投げ捨てようとしたら湯たんぽではなかった。
「⋯⋯これは腕だな。寝相の悪い⋯⋯っておい、誰の腕だよ?! ってまたかい!」
今日も隣に盗掘者がいた。
「まぁいいか。一度も二度も変わらない。さて今日はどうすっかな? どこで親友探しをするか⋯⋯とりあえず商業ギルドに行ってみよう」
ロゼリーはベッドから抜け出し、服を身に着けて部屋を後にした。
朝の王都はひんやりとしていて気持ちがいい。夏の間は皆が早めに起きて買い物や掃除、洗濯を行う。何故ならば日中は暑いからだ。朝の涼しい時こそが一番町に活気がある時間帯である。
「あ~また飲み始めてからの記憶がないなぁ。それに宿屋には一週間分の宿代を先に払ったのに全く使ってないじゃん」
二日連続で男の部屋で起きるとは。これじゃあ元婚約者を欲に塗れた淫行男だなんて批判できないよな。 まぁ終わった事だし、どうでもいいけど。
「そういえばちゃんと掘れたかな? 覚えてないけど。まあいいか」
ロゼリーは宿屋に戻って身支度を整えて商業ギルドに向かった。
「え? じゃあグロリア家が行っていた商会は戦時中に倒産していたのですか?」
「そうですね。もう二十年弱前の話ですが、グロリア家自体が無くなりましたし、後を継ぐ者がいなかったみたいです」
冒険者ギルドで聞いた話と一緒だな。ならば本当にグロリア家を継いだ親友の兄が亡くなったのか? でも親友だって商売には詳しかったはず。実家の危機には動くはずだ。
「この書類を見るとグロリア家当主は死亡、そして同時期に弟も戦死していますね」
「え? 戦死?」
何で? あんなにも真面目で強かったのに戦死? あり得ない。
結局それ以上の事は分からなかったので商業ギルドを後にした。
気が付くと今日も噴水のある公園に来ていた。
「まさか親友が亡くなっていたなんてな⋯⋯」
てっきり妻と子供と一緒に幸せに暮らしているとばかり思っていた。それはそれでムカつくけれど、酒の一杯でも酌み交わせたらいいなと思ってここまで来たのに⋯⋯
「はぁ⋯⋯これからどうしょう⋯⋯」
もうやる気が失われた⋯⋯
「お~い! お~い!」
ロゼリンとして産まれて、いつの日か親友に会いに行くのを楽しみに生きてきたのになぁ。
「お~い! おい!」
「⋯⋯おいおいうるせぇよ! 声がデけぇんだよ! 人が悩んでいるのに!」
今朝まで一緒に過ごしていた盗掘者が公園にやって来た。こいつはいつ仕事をするのだろうか。
「勝手に出て行くからだろ? 朝食は一緒に食べようって言ったじゃないか」
「言ってない」
「全然進歩がないなぁ。今は女の子になったんだし、もう少し言葉遣いを直さないと駄目だぞ」
「⋯⋯は?」
『今は女の子になった』だと? どういう事だ?
「あれ? 飲み過ぎて記憶を飛ばしたか? 昨日自分で言っていたじゃないかロゼリーに生まれ変わったってさ」
「え?」
酔った勢いで話してしまったのか。
「でも嬉しかったな。わざわざ俺に会いに来てくれるなんてさー」
「はあ?!?!」
何言ってんだよコイツ。お前になんか会いに来てねーよ。何様だ?
「な! フェリックス!!」
「えぇぇぇぇ??」
――二人が記憶を飛ばした一日目の夜の出来事――
「酔ってぇきたなぁ」
「あぁ、何か食うかぁ?」
安ワインをガポガポと飲んで酔った二人は軽食を頼んだ。
「腸詰~」
「おいぃ? パンを千切って並べるなよぉ?」
「食いやすいだろぉ。お前の分もぉ千切るぞぉ」
「手洗ったのかよぉ?」
「朝洗ったよ~」
「もう夜じゃねーかぁ。フェリックスは汚いなぁ」
「親友は細かいなぁ~」
いつの間にか前世の様に親友、フェリックスと呼び合い、盛り上がり、泥酔しながら店を出た。
この時の記憶をノルベルトは少しだけ覚えていた。
――二日目の夜――
「安ワインも飽きたなぁ」
「じゃあ変えるかぁ? 蒸留酒くださいぃ」
昨日と同様に酔っぱらった二人。
「あ、ねずみがいるぞぉ? 飼おうぜぇ」
「お前にお世話ができんのかぁ?」
「親友の家で飼うんだよぉ」
「知らないおっさんは駄目だぞぉ?」
「ハームスさんだよぉ」
店主が二人に蒸留酒二杯と水二杯を持ってきた。酔っているロゼリーは蒸留酒を二杯とも奪い、ノルベルトは水を二杯飲んだ。
「やっぱ親友はぁ生きてんじゃんかぁ」
「ん? 俺は生きているぞ? 俺はいつから親友になったんだ?」
酔いが深まったロゼリーと酔いが少し覚めてきたノルベルト。
「親友は親友だろぉ~馬面のルーカスだろぉ?」
「はぁぁ?! 何で知ってるんだよ?!」
「馬臭いからだぞ~」
「へ? 俺って馬臭いの?」
酔い過ぎて言っている意味が分からなくなってきたロゼリー。
「親友に会いに来てよかったわ~」
「お前は誰なんだよ?! ルーカスの何なんだよ?!」
「俺が死んだのもぉ誰も覚えていないよなぁ~フェリックってヤツがいたのもぉ。やっぱそんな物だよなぁ~」
「フェリックス?! お前はフェリックスなのか?! 生まれ変わって俺に会いに来てくれたのか?」
「zzzz」
「寝るなぁ! 乾杯だぁ!」
「んあ? そうだったぁ盗掘するんだよなぁ。寝ちゃ駄目だぁ」
こうして二日目の夜は過ぎていったのだが、勿論ノルベルトはしっかりと覚えており、ロゼリーは全く覚えていないのだった。




