冒険者ギルドと騎士団詰所
「はぁはぁ⋯⋯ここまで逃げれば大丈夫だろう」
変態長の部屋から急いで逃げて来た。別に悪い事をしたわけじゃないけど。それにもう18歳だし?
「貴族の淑女ならアレだけど、今は平民だからいいか」
酒飲んで記憶を飛ばして、男の家で起きただなんて失態は忘れよう。どうせ親友は家庭を持っていてロゼリーの男性経験など気にしないだろうし。
「よし! 今日から親友を探すぞ!」
気分を入れ替えて親友探しを始める事にした。
朝の王都はすでに活気があって人々の暮らしが安定している事が分かる。フェリックスが最後にこの道を通った時は戦争をしていたから町に活気が無かったし、道を歩く人の表情が無かった。それに町に色も無かったし、商品も無かった。
「うん。今の方が断然いい」
ロゼリーは清々しい気分で昨日の宿屋に戻った。
部屋で体を清めてから服を着替えて、汚れた服を手洗いしておく。それを窓の側に干しておけばすぐに乾くだろう。
「むむむ⋯⋯流石にただ服を脱いで寝ていただけじゃなかったかぁ⋯⋯」
まぁ大人同士ですしね。
体が痛いとか歩けないなんて事もないし、まずは冒険者ギルドに向かった。
トラム王国王都支店。重い木製のドアを押して中に入ると筋肉だらけの脳筋共が詰まっていた。朝だし彼らは今日のクエストを選んでいるのだろう。
さて、今日私がここに来た目的はクエストではなく地図を見る為だ。
「グロリア男爵領はどこら辺だ?」
トラム王国の地図を眺める。親友の家はグロリア男爵家だった。きっと戦争が終わってから騎士を辞めて、グロリア領に戻って家業を手伝っているに違いない。商売をしていると言っていたらからな。
「ん⋯⋯無い。この地図は新しいよなぁ⋯⋯」
町で安い地図を買うと古くて道が変わっていたり町の名前が違っていたりするのだが、ギルドにある地図は常に最新の物となっている。だからギルドまで確認に来たのだ。
このまま見ていても見つからないし、分からない事は聞くしかない。
「すみません、グロリア領はどこですか?」
隣にいたベテランそうな冒険者に聞いてみた。
「グロリア男爵領か? もう十年以上前に無くなったんじゃなかったか? 領地は王家に返還されたはずだよ」
「⋯⋯え? 本当に?」
どういう事だ? 何があったのだ?
「確か大きな負債と後継者がいなかった事が原因じゃなかったか?」
「⋯⋯そうですか」
あの頃は戦争をしていたから商売に影響が出たのだろうか。だが後継者がいないとは? 親友の兄はどうしたのだろう? 確か婚約者がいたはずだし、結婚していれば子供だって産まれていたかもしれない。それに弟である親友だっていたのに。
まぁ金銭問題で親友の兄が爵位や領地を失ったとしても、親友は平民として生きているのかもしれないな。でもそうなるとどうやって親友を探したらいいんだろう? 単純にグロリア領に行けば会えると思っていたわ。
「親友だったら今、どんな仕事をして過ごしているかな?」
一番可能性があるのは騎士だよな。でも今の騎士団にはいないみたいだし、剣の腕があるから冒険者もあり得るか。後は剣を教える方? 騎士学校の教師とか? でも商売にも精通していたはずだから商人かもしれない。
よし、まずは騎士団に行って聞いてみよう。退団した日やその後について教えてもらえるかもしれない。ロゼリーは騎士団詰所に向かった。
――その頃のノルベルト・リンヴァリー――
「失礼しました。ふぅ⋯⋯」
ベール王国遠征での報告書を提出し、今日から三日間の休暇を得たノルベルトは、今朝ベッドに残されていた水色の髪の事が気になっていた。
「やっぱりあれは夢じゃなかったんだ。もう一度部屋に戻って何か手がかりが無いか探してみよう」
ノルベルトは自分の部屋に向かいながら昨日の出来事を思い出す。
昨日王都に帰還して、騎士団へ報告に戻って、いつも通り王都の景色を眺めに行ったら、ベール王国から来た女性冒険者に付き纏いをする変質者扱いをされて⋯⋯それから行きつけの店の安酒を飲みに行って、またベール王国から来た女性冒険者に会って、変質者扱いされて⋯⋯一緒に酒を飲んだ気がする。
あれ? じゃあ夜を共にしたのは彼女だったのか⋯⋯? そういえば彼女の髪は綺麗な水色をしていた気がする。いやでもあれはフェリックスだったし⋯⋯。変だな、どうして俺はフェリックスが女になって帰って来たと思ったのだろうか?
「彼女に会ってみよう。そうしたら何か分かるかもしれない」
ノルベルトは部屋に戻り、ベッドに落ちていた水色の髪の毛がやっぱり実在する事を再度確認してから冒険者ギルドに向かった。
――その頃のロゼリー――
「すみません、少々お尋ねしますがルーカス・グロリアという騎士はもういらっしゃらないですか? あぁ私は友人だった者で――――」
「お調べいたしますね。少々お待ち下さいませ」
適当に話を作って名簿を確認してもらえる事になった。
木製の少し軋む椅子に腰を下ろして待つ。何も変わらないこの騎士団の受付も懐かしい。昔はここで給料の受け取りをしたものだ。
『給料出たし娼館でも行くかぁ~!』
『いいな!』 『酒飲んでからだろ!』 『まずは美味い飯でも食おうぜ』
『おいお前ら! 戦時中なんだから無駄な事に金を使うなよ!』
『無駄? ふ~ん? じゃあ今夜は親友が俺のお相手してくれるんだな!』
『な、何のだ?』
あの時の親友のオドオドした顔は面白かったな。
「すみませんが見つかりませんでした。ここには10年分の書類しかありませんので、もしそれ以前に辞めた騎士ですと、もう書類は残っていませんね」
「そうですか⋯⋯ありがとうございました」
親友は10年前にはすでに騎士を辞めていた。次はどこに行こうか⋯⋯そうだ冒険者ギルドに聞いてみよう。冒険者として活動していた可能性もあるし。
ロゼリーは今日も微妙な味のパンを買って噴水のある公園で食べ、冒険者ギルドに戻る事にした。




