南雲提督の冴えたやりかた 第三話 The Glorious Nagumo Task Force
米軍の雷撃機達は追尾する零戦の銃撃を躱すため、海面すれすれの低空を転舵を繰り返しながら射点につこうとしていた。
その必死の戦闘も空しく、最後の一機が操縦手が撃たれたのかいきなり機首を下げ、南雲が座乗する空母赤城の遥か前方で波間に波紋を残して姿を消した。
ミッドウエイ現地時間9時20分過ぎ、米機動部隊から放たれた攻撃隊の内ホーネット雷撃隊TBDデヴァステイター雷撃機15機が第一機動部隊に接敵した。
この時点で第一機動部隊上空を守る戦闘機は、補給中の機体を除く18機が警戒にあたっており、さらにミッドウエイ空襲から帰投した戦闘機の内16機が発艦作業を終え、艦隊上空で集合中だった。
ホーネット雷撃隊は戦果を得ることなく、直掩機によって全機が撃墜される。
9時50分、続いて飛来したエンタープライズの雷撃隊14機が攻撃に入ったが、この攻撃も多数の未帰還機を出して失敗に終わった。
さらに米雷撃隊の攻撃は続き、10時10分にはヨークタウンから出撃した雷撃隊が戦闘に参加、しかし戦闘機6機と雷撃機12機からなる攻撃隊も、20機を超える零戦との戦闘で全滅に近い損害を受ける。
米機動部隊から飛来した雷撃機部隊の攻撃が続く中、帰投収容した第一次空襲隊各隊への対艦攻撃武装の搭載が続けられ、米軍機の攻撃の間隙を縫って第4次攻撃隊(敵艦隊に向けての第2次攻撃隊)が出撃する。
この攻撃隊は各空母に収容したミッドウエイ空襲隊の内、状態の良い機体から選んで集中整備と補給を行ったもので、一航戦の艦爆18機と艦戦9機、二航戦の艦攻18機と艦戦6機で編成されていた。
それ以外の収容した機体は、燃料弾薬を降ろして艦内に格納され、第4次攻撃隊出撃後から修理と整備を開始している。
米軍雷撃隊との間で起こった一連の戦闘と第4次攻撃隊の発艦作業の結果、第一機動部隊の陣形は大きく崩れてしまう。
二航戦の飛龍はヨークタウン雷撃隊に集中的な攻撃を受け、その回避のため、第一機動部隊の他の空母と距離が開いていた。
残りの3空母や護衛の艦も隊列が乱れており、いったん米軍の攻撃が収まった機会に、隊列を組みなおすため集合するよう各部隊に命令が下される。
南雲は腕時計で時間を確認する。
時計の盤面は10時15分を示していた。
『もうすぐ敵降爆が艦隊に届く時間か』
南雲は艦橋から散雲に覆われた空を見上げていた。
突然灰色の雲を突き破り一条の炎を引きながら青灰色の機体が海面に向かって墜ちていくのを、その目が捉えた。
南雲が航空参謀に出した指示により、艦隊上空に高度を取って陣取っていた十数機の戦闘機部隊は、雲上を飛行し接近するエンタープライズとヨークタウンの急降下爆撃機隊を米軍に先んじて視認した。
第一機動部隊を発見するより前に戦闘機に襲撃された米軍攻撃隊は、組織だった攻撃が叶わず戦闘機に追い回されながらの爆撃となってしまう。
戦闘機による迎撃を回避しながら行われた米軍機の爆撃は、時間にして20分を超えて続いた。
この攻撃には急降下爆撃機47機が参加したものの、半数近くが爆弾投下前に撃墜された。
また爆弾を投棄して逃走した機体も多く、攻撃隊の規模に対して戦果は過少なものだった。
この戦闘で第一機動部隊は空母加賀と蒼龍が被弾する。
加賀には1000ポンド爆弾1発が命中し格納庫内で炸裂、飛行甲板は損傷によって一時使用不能となった。
蒼龍には1000ポンド爆弾と500ポンド爆弾がそれぞれ1発命中し、飛行甲板や格納庫に甚大な被害が生じ大破戦闘不能となる。
赤城にも至近弾が1発あったが、若干の浸水こそあったものの戦闘能力に影響はなかった。
米軍機動部隊による第一機動部隊への攻撃が始まって間もない午前9時半頃、第三次攻撃隊62機(機体の故障のため艦爆と艦戦各1機が引き返している)は先行していた十三試艦爆の誘導を受け第16任務部隊に接敵する。
第16任務部隊はエンタープライズ、ホーネットの2空母を中核にそれを護衛する6隻の巡洋艦と9隻の駆逐艦で輪形陣を構成していた。
米軍は接近する第三次攻撃隊をレーダーで捕捉したが、これを燃料不足で引き返してきたホーネット爆撃隊と一時的に混同したため、迎撃対応が混乱してしまう。
間近に迫った攻撃隊に対し艦隊上空で待機していた直掩戦闘機F4F18機がこれに向かったが、ほぼ同高度での制空隊との戦闘は零戦に軍配が上がる。
第16任務部隊は飛行甲板で待機中のF4F10機の発艦作業を進めるとともに格納庫内のF4Fの発進準備を急いだが、戦闘機部隊の発艦中に九九式艦爆が攻撃を開始する。
空母エンタープライズは飛龍隊の13機による爆撃で、250キロ爆弾の直撃弾4発至近弾2発を受け大破発着艦不能の損害を受ける。
同時間帯、ホーネットも蒼龍隊12機の爆撃により命中弾3発至近弾3発を受け、更に僅かな時間差で襲ってきた一航戦の12機の九七式艦攻から放たれた9本の魚雷のうち3本が命中、機械室と缶室が損傷と浸水のため航行不能となった。
午前11時25分、第一機動部隊の第四次攻撃隊が第17任務部隊に対して攻撃を開始した。
空母ヨークタウンは帰投してきた攻撃隊の残存機の収容中だったため直掩戦闘機の増援ができず、第17任務部隊は直掩にあたっていた十数機のF4F に迎撃戦闘を委ねるしか手立てはなかった。
20分ほど続いた日本軍の攻撃が止んだ時、戦場には重油で黒々と尾を引く航跡で円を描き大小の爆発を続ける、黒煙と白い水蒸気に覆われたヨークタウンが残されていた。
米海軍第16任務部隊は大破航行不能となった空母ホーネットを自沈処分し、残存艦はエンタープライズを護衛して戦場を去っていった。
損傷により故障していた舵機の修理を終えたヨークタウンも護衛の艦艇と共に速度16ノットで戦場からの離脱を図ったが、赤城と飛龍から出撃した第五次攻撃隊18機により再び被弾被雷し航行不能となる。
翌6月5日午前2時過ぎ、ヨークタウンの応急修理を終え6ノットの艦隊速度で退避中の第17任務部隊は、戦艦霧島、榛名、重巡利根、筑摩、軽巡長良と駆逐艦4隻からなる第一機動部隊挺身攻撃隊に捕捉され、ヨークタウンと重巡ポートランド駆逐艦3隻を喪失、残存艦艇の殆んども大小の損傷を受け壊滅した。
6月6日ミッドウエイ島上陸作戦を敢行した陸海軍部隊は、多大な損害を出しながらも同島の占領に成功する。
しかし
・機動部隊の捕捉撃破によって米海軍空母の活動が沈静化したことによりミッドウエイ島の前哨拠点としての価値が低くなったこと
・ミッドウエイ海戦による損耗で日本海軍の空母航空戦力が弱体化しハワイ攻略の可能性が絶望的になり同島を維持する必要性が希薄化したこと
・日本から遠く米軍の一大拠点ハワイに近いという地理上の制約から、同島の維持防衛は困難であるこ
南雲は海軍部内に於いてこれらの要因を列挙して、同島の早期放棄を主張しその実現に一役買うことになる。
戦後連合艦隊司令長官にまで昇りつめた海軍大将南雲忠一は、真珠湾攻撃やミッドウエイ沖海戦での勝利、数次のソロモン海航空戦やトラック防衛戦での活躍、そして絶対防衛圏の早期構築に尽力したこともあり、名将智将の名を不動のものとした。
特に第一次ミッドウエイ空襲の失敗や米軍機動部隊の待ち伏せを予測したかのようなミッドウエイにおける際立った作戦指揮は、南雲に「未来を知る将軍」や「参謀要らず」といった異名をもたらした。
南雲提督の冴えたやりかた
南雲忠一の冴えたやりかた
南雲のただひとつの冴えたやりかた
たったひとつの冴えたやりかた
ヽ(^o^)丿




