代理保護者印は、七歳児の昼寝を読んでいません
代理保護者。
その欄に押された灰色の古い印は、俺の七歳の身長よりよほど堂々としていた。
王宮の書類は、ときどき人間より態度が大きい。
「教育卿室保管印です」
使いは、まるでそれで終わりだと言いたげに言った。
終わらない。
保管印は保護者ではない。少なくとも、夜に布団を掛け直してはくれない。
「質問する」
「またですか」
「この印は、俺が昨夜何時に寝たかを知っているか」
使いの眉が寄った。
「保護者確認欄です。睡眠時刻とは関係がありません」
「七歳児の生活確認で睡眠と関係ないなら、それは保護者ではなく倉庫番だ」
ミナが息をのみ、ルイは薪札を抱え直した。
ロイだけが水桶の横で小さくうなずいている。子供は正直だ。寝ていない時の体の重さを、よく知っている。
俺は測定票の裏面を机に広げた。
代理保護者印。
祝灯式菓子試作費。
測定石管理。
従者評価再確認。
同じ形の保管印が、四つの違う仕事に押されている。
前世の監査でも、こういう印はだいたい危ない。何にでも押せる印は、何にも責任を持っていない。
「印を三つに分ける」
「印は分けられません」
「押した責任は分けられる」
俺は炭筆で、裏面の空いたところに三本の線を引いた。
誰の生活を確認したか。
何を許可したことにしたか。
確認していない生活影響はどこに残すか。
「保管印が測定石をしまった。これは物の確認だ。祝灯式菓子試作費を動かした。これは金の確認だ。従者評価に使った。これは人の朝飯と寝床を動かす確認だ」
使いの喉が鳴った。
「同一部署の権限です」
「同一部署でも、腹は一つずつ鳴る」
俺は自分の腹を押さえた。
昼寝前の軽い空腹は許せる。だが、誰かの手続きミスで子供従者が空腹になるのは許せない。俺の昼寝の質にも関わる。
「ミナ」
「はい」
「昨日、俺が寝る時、火鉢は残っていたか」
「……ルイが最後の薪を割ってくれました。朝まで保つか分からなかったので、私とロイは交代で起きていました」
ルイの肩が小さく跳ねた。
ロイは水桶の縁を見たまま、唇を結んでいる。
「では、代理保護者印は三人の睡眠を確認していない」
俺は一つ目の欄に書いた。
睡眠確認なし。
「殿下。従者の睡眠は」
「俺の生活に含まれる。七歳児の周りで子供が徹夜しているなら、その七歳児もまともに寝ていない」
前世で学んだ。
上司だけ早く帰れても、部署が燃えていれば翌朝の机は地獄になる。
今世では、俺が一番先に昼寝するために、周りも寝られる仕組みを作る。
二つ目。
食事・水・寝具への罰的転用、未承認。
三つ目。
生活影響明細が未添付のため、代理保護者印は北塔生活条件を承認したものとして扱わない。
「これで、保護者欄は完了しない」
俺は青い保留札を、灰色の印の上ではなく横に貼った。
印を隠してはいけない。隠すと、あとで誰が何を混ぜたか分からなくなる。
「原本の印は残す。責任経路を追うためだ」
「教育卿室の印に、殿下が追記を」
「俺の生活を読まずに俺の保護者になった印だ。俺の昼寝くらい読んでもらう」
ルイが、遠慮がちに手を挙げた。
「あの、殿下。じゃあ、昨夜の交代番も書いていいですか」
「もちろん」
ルイは薪札の裏に、ぎこちない字で書いた。
ルイ、一刻目。
ミナ、二刻目。
ロイ、三刻目。
ロイは少し顔を赤くしながら、自分の名の横に水桶の小さな絵を描いた。
ミナは配膳板の写しに、朝粥三十杯の行をもう一度足す。
紙の上に、夜の眠れなさが形を持った。
これが生活影響だ。
偉い言葉ではなく、誰がいつ起きていたか。誰が水を守ったか。誰の朝飯が薄くなりかけたか。
「暫定規則を出す」
俺は新しい札に書いた。
代理保護者印は、七歳児本人および北塔従者の睡眠・食事・水・寝具を確認していない。
確認者本人の名、確認時刻、生活影響明細が揃うまで、保護者承認として扱わない。
それまで北塔の夜間薪二束、朝粥三十杯、水桶朝夕二回を保留ではなく生活維持予約分として維持する。
「夜間薪二束ですか」
ロイが目を丸くした。
「一束では、また交代で起きるだろう」
「でも、いいんですか」
「俺が眠れない。重大な損害だ」
三人が同時に笑った。
笑い声は小さかったが、北塔の冷えた部屋には十分な暖かさだった。
使いは札を見つめ、唇を薄くした。
「この追記は、教育卿室へ報告します」
「写しを持っていけ。原本はここだ」
「原本を北塔に置く根拠は」
「生活影響を受ける場所だからだ。王宮の棚は、夜中に薪を足さない」
使いが返す言葉を探している間に、扉の外で金具が鳴った。
古い鍵束の音だ。
入ってきた下級書記が、灰色の布に包まれた小箱を抱えていた。
「教育卿室より、北塔倉庫の旧鍵箱をお預かりして参りました。代理保護者印と同じ保管印で、開封承認済みとのことです」
俺は昼寝予定の札を見た。
見なかったことにしたい時刻だった。
小箱の封蝋には、測定票の裏と同じ古い灰色の印が沈んでいる。
「次は、誰が北塔の倉庫まで俺の保護者になったことにしたのかを読む」
七歳児の昼寝は、今日も王宮書類に負けそうだった。




