表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜監査官だった俺、貧乏第八王子に転生したので王宮の無駄手順を全部“昼寝できる仕組み”に変えます  作者: 花守りつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/55

夜薬補助便は、本人が飲んで寝床へ戻るまで厨房代表で閉じられません

薬瓶の底に、丸い冷たさだけが残っていた。


 夜薬補助便、処理済み。

 受取人欄、厨房代表。

 本人投薬確認、後日まとめ。


 きれいな三行だった。けれど、瓶を置いた木皿の縁には、小さな歯の跡がある。誰かが苦くて飲めず、もう一度持ち直した跡だ。


「殿下、厨房代表って誰ですか」


 テオが首をかしげる。


 ミナは薬棚の前で、布に包まれた小瓶を三本並べた。一本だけ、冷たい輪が大きい。夜のあいだ、寝床まで戻らず、どこかの台で待たされた瓶だ。


「代表は、名前ではありません」


 僕は配送表の下に、低い板をもう一枚置いてもらった。ルカが青字で欄を分ける。


 一、薬を受け取った人の名。

 二、本人が飲んだ場所。

 三、飲んだあと寝床へ戻れたか。


「これ、マラさんの休憩札の横に置いていいですか」


 ニルが釘を握っていた。昨日、自分で打った前掛けの釘の隣だ。


「夜薬は、飲んだ人の体へ届いてから完了です。厨房の机へ届いても、まだ途中です」


 薬棚の奥から、小さな咳が聞こえた。


 ミトだった。母のマラが休憩へ入ったあと、洗い場の端で眠りかけていたが、熱が下がらない。厨房代表の受領印だけなら、ミトはもう薬を飲んだことになる。


 でも、ミトの手にはまだ瓶がある。


「苦いです」


「苦いままでも、飲むかどうかは本人が読める場所で決めます」


 ミナは蜂蜜湯を匙一杯だけ作った。テオは入口灯を寝床まで届く角度に変える。ニルは低い釘へ「本人投薬確認」と書かず、「ミトが読んでから」と書いた。


 ルカが、厨房代表の行を赤く消さなかった。


 消すと、誰が代表にされたのか分からなくなるからだ。青い保留札を重ね、「本人未飲・寝床未帰着」と追記する。


 ミトは小瓶を両手で持ち、蜂蜜湯を一口だけなめてから、薬を飲んだ。顔をしかめた。けれど、飲み終わると自分で瓶を低い板に戻した。


「……ミト、飲みました。寝床に戻ります」


 その声を聞いてから、ミナが毛布を直す。マラは休憩札の場所から立ち上がりかけたが、僕は首を振った。


「マラさんの休憩も、まだ完了していません。付き添いはニルとテオで足ります」


 代表ではなく、名前で動く。


 テオが灯りを持ち、ニルが空瓶を持ち、ミトが寝床へ戻る。足が床板を三つ鳴らしたところで、ルカが最後の欄へ小さく書いた。


 ――本人飲了。寝床帰着。厨房代表欄は未使用。


 ミトの息が少しだけ深くなる。マラの前掛けは釘で乾き、薬瓶は低い板で冷えすぎない場所を得た。


 夜薬補助便は、瓶が減ったから終わったのではない。


 飲んだ子の名が呼ばれ、寝床へ戻る灯りが残り、休む人の休憩札を奪わなかったから、ここまでで一つだけ終わった。


 けれど、配送表の端に挟まれた薄い紙が、灯りで透けた。


 ――厨房代表欄、明朝以降は北塔生活窓口代表へ統合予定。


 代表という言葉が、今度は僕たちの窓口へ向いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ