北塔生活窓口は、第八王子が眠ってからでなければ閉めません
搬出箱が差し戻されると、廊下に夜の鐘が鳴った。
北塔生活窓口の低い席には、白布と粥椀と入口灯が戻っている。サラとピムの帰着待ち札も、読める者を自分で選ぶ子の空白札も、青い保留糸で右側に結ばれたままだ。
そこへ今度は、箱ではなく閉門札が来た。
「夜間閉鎖手順。祝灯式準備のため、未処理札は一括保管。入口灯は消灯。窓口は閉鎖済みへ変更」
係の声は、眠る前の子どもには少し硬すぎた。
前世の監査室でも、閉鎖という言葉は便利だった。窓口を閉めれば、残った問い合わせも、未返信も、誰かの帰り道も、翌朝の束に混ぜられる。けれど、束に入れたからといって、帰っていない人が帰ったことにはならない。
「入口灯は消しません」
テオが柱の前へ立った。背は低いのに、灯りの影を両腕で抱えるように守っている。
「サラが夜に戻ったら、ここを見つけるんです。閉鎖済みの窓口では、ただいまって言えません」
係は未処理札の束へ手を伸ばした。
「帰着待ちは、夜間保管箱へ移す決まりだ」
「保管箱では、粥の匂いがしません」
ミナが粥椀を俺の前に置いた。湯気は少し細くなっていたが、まだ温かい。
「殿下が食べて、眠って、それから読む席です。食べる前に閉めたら、この席は読了席ではありません」
ルカは閉門札の余白へ、短い明細を書いた。
生活影響明細。
一、ノエル本人、食事未了。
二、ノエル本人、睡眠未到着。
三、入口灯、夜間帰着待ちとして使用中。
四、サラ・ピム・空白札、本人または選んだ者の読了待ち。
五、北塔生活窓口、夜間帰着待ち。
「閉めるなら、誰が食べ終わり、誰が眠り、誰が帰ったかを書いてください」
ルカの字は、昨日より少しだけ太い。自分で守る場所がある人の字だった。
係が困ったようにエリネを見る。エリネは命令書を奪わなかった。ただ、窓口札を一枚外し、裏返して掛け直した。
表には、閉鎖。
裏には、夜間帰着待ち。
「北塔生活窓口は、閉めません。第八王子殿下が眠るまで、そして帰着待ち札が明かりを見失わないまで、夜間扱いです」
「王宮の窓口を、七歳の昼寝で止めるのか」
「七歳が眠れるまで閉めない窓口のほうが、王宮には足りませんでした」
エリネの声は静かだった。
俺は粥を一口飲んだ。麦の粒が舌に残る。帳簿の数字ではない、朝まで体を動かすための重さだった。
「監査で一番よくないのは、終わっていない仕事に済み印を押すことだ」
俺は昼寝札を自分の膝へ戻した。
「食べた。次は眠る。俺が起きるまで、この札は誰にも貸さない。サラとピムの札も、帰ってきた人が座って読めるまで教材にしない」
テオが入口灯の油を足した。ミナが椀を下げず、空になった場所へ小さな水杯を置いた。ルカは明細の最後に一行だけ足す。
「次に読む時は、本人が起きて、席に座ってから」
その一行を見て、俺はやっと眠くなった。
低い席の横に敷かれた白布は、昼寝には少し狭い。でも、北塔で初めて、俺の眠る場所が誰かの余りではなくなった。
目を閉じる直前、入口灯の向こうで夜番が小さく言った。
「……この札、閉じなくてよかったですね」
誰のことかは、まだ分からない。
けれど、灯りは消えていない。
北塔生活窓口は、閉鎖済みではなく、夜間帰着待ちのままそこにあった。




