表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜監査官だった俺、貧乏第八王子に転生したので王宮の無駄手順を全部“昼寝できる仕組み”に変えます  作者: 花守りつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/55

祝灯式搬出箱は、保護教材札を北塔の席ごと運べません

低い読了席は、一晩で少しだけ北塔のものになった。


ミナの粥椀を置く跡が白布に丸く残り、テオの入口灯は左の柱に低く掛かっている。サラとピムの保護教材札は、帰ってきた時に座って読めるよう、席の右側で青い保留糸に結ばれていた。


そこへ、祝灯式準備課の搬出箱が来た。


箱は三つ。どれも金縁の黒札が貼られ、台車には赤布が巻かれている。先頭の札には、きれいな字でこう書いてあった。


「教材準備済み。低台部材、保護札、補助灯、椀置き布。祝灯式説明席へ搬出」


椀置き布。


前世の監査室なら、備品名が変わった瞬間に、誰の昼食が消えたか分からなくなる。いま目の前では、子どもが座って読む場所が、来賓に見せる説明席の材料にされようとしていた。


「粥椀は、箱へ入れません」


ミナが先に動いた。彼女は白布の丸い跡へ椀を戻し、箱の蓋を閉めようとした係の手を見た。


「これは教材ではありません。殿下が読めるまで温かいものを置く席です」


「椀は代用品を支給する」


「代用品では、昨日ここで読んだことを覚えられません」


テオは入口灯を外さなかった。台車の横へ立ち、両手で灯りの鎖を押さえた。


「帰る灯りは、台車に乗せない。サラが戻った時、ここが暗かったら札を読めません」


係は眉をひそめた。


「祝灯式の説明経路を塞ぐな。搬出許可は出ている」


「許可に、誰の席が動くか書いてありますか」


俺が聞くと、ルカがすでに帳面を開いていた。彼は箱の黒札の下へ、白い紙を一枚貼った。


生活影響明細。


一、ノエル本人の昼寝札を置く席。

二、サラ帰着待ち札を読む席。

三、ピムの読める者選択待ち席。

四、入口灯。夜に帰る者の目印。

五、粥椀。読了前の食事。


「この五つを動かすなら、誰がどこで読めるかまで書いてください」


ルカの声は小さかったが、箱の黒札よりはっきりしていた。


係は紙をはがそうとした。けれど、エリネが台車の車止めを足で踏んだ。


「搬出経路は、生活影響明細が未添付です。祝灯式準備課へ差し戻します」


「王宮行事を止める気か」


「子どもが帰って読む席を、行事の足にしないだけです」


俺は低い席へ手を置いた。昨日は、温かい粥を飲んでから紙を読んだ。怖い字でも、座れる場所があれば少しだけ読める。だから、この席はただの板ではない。


「教材準備済みは、子どもが読めた後の言葉だ」


俺は黒札の上から、青い保留札を重ねた。


「まだ帰っていない人の札と、まだ眠っていない俺の昼寝札を、準備済みにしない」


ミナが椀を押さえ、テオが灯りを守り、ルカが明細に三つの名前を書いた。サラ。ピム。読める者を自分で選ぶ子。


箱の中へ入るはずだった横板は、北塔の低い席へ戻った。白布は椀の下へ戻り、入口灯は柱へ戻り、台車だけが赤布を揺らして廊下に残った。


その時、エリネが搬出箱の承認欄を見て、息を止めた。


黒札の右下。昨日見つけた焼き印と同じ油の匂いがする部署印。


「教育区画標準高さ、読了代理承認室」


七年前、子どもが読めない高さを標準と呼んだ部屋。


今度はその部屋が、読めるようになった席を、準備済みの箱へ入れようとしている。


俺は青い保留糸をもう一本、箱の取っ手へ結んだ。


「この箱は、席が本人に読まれるまで動かない」


低い入口灯が、黒い搬出箱の影を、台車の下へ押し戻した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ