祝灯式搬出箱は、保護教材札を北塔の席ごと運べません
低い読了席は、一晩で少しだけ北塔のものになった。
ミナの粥椀を置く跡が白布に丸く残り、テオの入口灯は左の柱に低く掛かっている。サラとピムの保護教材札は、帰ってきた時に座って読めるよう、席の右側で青い保留糸に結ばれていた。
そこへ、祝灯式準備課の搬出箱が来た。
箱は三つ。どれも金縁の黒札が貼られ、台車には赤布が巻かれている。先頭の札には、きれいな字でこう書いてあった。
「教材準備済み。低台部材、保護札、補助灯、椀置き布。祝灯式説明席へ搬出」
椀置き布。
前世の監査室なら、備品名が変わった瞬間に、誰の昼食が消えたか分からなくなる。いま目の前では、子どもが座って読む場所が、来賓に見せる説明席の材料にされようとしていた。
「粥椀は、箱へ入れません」
ミナが先に動いた。彼女は白布の丸い跡へ椀を戻し、箱の蓋を閉めようとした係の手を見た。
「これは教材ではありません。殿下が読めるまで温かいものを置く席です」
「椀は代用品を支給する」
「代用品では、昨日ここで読んだことを覚えられません」
テオは入口灯を外さなかった。台車の横へ立ち、両手で灯りの鎖を押さえた。
「帰る灯りは、台車に乗せない。サラが戻った時、ここが暗かったら札を読めません」
係は眉をひそめた。
「祝灯式の説明経路を塞ぐな。搬出許可は出ている」
「許可に、誰の席が動くか書いてありますか」
俺が聞くと、ルカがすでに帳面を開いていた。彼は箱の黒札の下へ、白い紙を一枚貼った。
生活影響明細。
一、ノエル本人の昼寝札を置く席。
二、サラ帰着待ち札を読む席。
三、ピムの読める者選択待ち席。
四、入口灯。夜に帰る者の目印。
五、粥椀。読了前の食事。
「この五つを動かすなら、誰がどこで読めるかまで書いてください」
ルカの声は小さかったが、箱の黒札よりはっきりしていた。
係は紙をはがそうとした。けれど、エリネが台車の車止めを足で踏んだ。
「搬出経路は、生活影響明細が未添付です。祝灯式準備課へ差し戻します」
「王宮行事を止める気か」
「子どもが帰って読む席を、行事の足にしないだけです」
俺は低い席へ手を置いた。昨日は、温かい粥を飲んでから紙を読んだ。怖い字でも、座れる場所があれば少しだけ読める。だから、この席はただの板ではない。
「教材準備済みは、子どもが読めた後の言葉だ」
俺は黒札の上から、青い保留札を重ねた。
「まだ帰っていない人の札と、まだ眠っていない俺の昼寝札を、準備済みにしない」
ミナが椀を押さえ、テオが灯りを守り、ルカが明細に三つの名前を書いた。サラ。ピム。読める者を自分で選ぶ子。
箱の中へ入るはずだった横板は、北塔の低い席へ戻った。白布は椀の下へ戻り、入口灯は柱へ戻り、台車だけが赤布を揺らして廊下に残った。
その時、エリネが搬出箱の承認欄を見て、息を止めた。
黒札の右下。昨日見つけた焼き印と同じ油の匂いがする部署印。
「教育区画標準高さ、読了代理承認室」
七年前、子どもが読めない高さを標準と呼んだ部屋。
今度はその部屋が、読めるようになった席を、準備済みの箱へ入れようとしている。
俺は青い保留糸をもう一本、箱の取っ手へ結んだ。
「この箱は、席が本人に読まれるまで動かない」
低い入口灯が、黒い搬出箱の影を、台車の下へ押し戻した。




