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社畜監査官だった俺、貧乏第八王子に転生したので王宮の無駄手順を全部“昼寝できる仕組み”に変えます  作者: 花守りつ


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代理保護者読了済み札は、第八王子の昼寝席を大人の掲示台にできません

教育区画の標準掲示台は、北塔の入口よりも立派だった。


磨いた黒木の板に、金の縁。来賓が廊下を歩きながら読めるよう、文字の位置は大人の胸より少し高い。祝灯式準備課の使いは、そこへ赤布を掛け、保護者確認印箱と三枚の保護教材札を並べようとしていた。


サラ。ピム。まだ字が読めない空白の子。


そして、その横には、俺の昼寝札まであった。


「代理保護者読了済み。第八王子本人確認、標準掲示台にて完了予定」


完了予定。


前世の監査室で、その語を見たときは、まだ誰も説明を読んでいないのに会議だけ終わっていた。いま目の前では、七歳の王子が届かない高さに、自分の昼寝場所を読んだことにされようとしている。


「殿下、こちらへ移します」


使いが札をつまみ上げた瞬間、ミナが粥椀を抱えて一歩前へ出た。


「高い台へ置くなら、粥は置けません」


「粥は関係ありません」


「あります。読む前に食べないと、殿下は眠くなります。眠いまま読んだことにしたら、読了じゃありません」


ミナは、黒木の掲示台ではなく、北塔から持ってきた低い横板のそばに椀を置いた。湯気が、赤布ではなく、子どもの膝の高さで揺れる。


テオも入口灯を抱え直した。高い掲示台の飾り灯へ渡せと言われていた灯だ。


「この灯りは、帰ってきた人が入口を見つけるためのものです。大人が札をきれいに読むための灯りじゃありません」


ルカは帳面を開き、前回引いた「本人可読高さ」の下へ、さらに細い線を引いた。


「読了席。本人が座れること。食事を終えてから読めること。読めない者は、頼める者を自分で選べること」


「そんな席は標準様式にない」


使いの声は、黒木の台に反響して大きく聞こえた。


俺はその大きさが嫌いだった。大きい声は、読めない人の代わりにはならない。


「標準掲示台は、大人用掲示として使えばいい」


エリネが静かに言った。


彼女は台を撤去しなかった。赤布も剥がさなかった。ただ、黒木の台に貼られかけた札を受け取らず、床に置いた低い横板と、俺の古い小机脚とを合わせた。


低い。来賓の目からは少し見にくい。


けれど、俺が膝をつけば読める。サラやピムが帰ってきたら、椀を置いて、灯りをそばに寄せて、読める者へ頼める高さだった。


「読了とは、上に貼ることではありません」


俺は昼寝札を低い席へ戻した。


「読んだ人が、何をされたか分かることです。寝る場所、食べるもの、帰る灯り、名前を呼ばれる順番。これを本人が読めない高さに吊るしたなら、読了済みじゃない」


ルカが、俺の言葉をそのまま書こうとして、途中で止まった。


「殿下。長いです」


「短くして」


「本人が座って読めるまで、未読」


それでよかった。


ミナが椀を一つ、俺の前へ押した。テオが入口灯を低い席の左へ掛ける。エリネは黒木の標準掲示台に、新しい白札を貼った。


――大人用掲示。生活読了席ではありません。


使いが顔を赤くした。


「祝灯式の説明が見えにくくなります」


「見えにくいなら、説明する大人がしゃがめばいい」


俺は粥を一口飲んだ。温かい。温かいものを飲んでから読むと、紙の字は少しだけ怖くなくなる。


サラの札は、まだ本人が帰っていない。ピムの札も、字が読めるか分からない子の札も、勝手に読了へできない。


だから、三枚とも低い席の右へ残した。白布を敷き、椀で押さえ、入口灯の光が届く場所に。


その時、テオが横板の脚裏をのぞき込んだ。


「殿下。ここ、焼き印があります」


黒く焦げた細い文字。


教育区画標準高さ。


七年前の保護者確認印箱に残っていた角の匂いと、同じ油の匂いがした。


犯人の名前ではない。


もっと嫌なものだ。


七年前も、子ども本人が読めない高さを、標準と呼んだ誰かがいた。


俺は椀を置き、昼寝札の下へ青い保留糸を通した。


「この席は、俺が眠ってからも閉めない」


低い読了席の灯りが、黒木の大人用掲示台の影を、床の端へ押し返した。

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