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社畜監査官だった俺、貧乏第八王子に転生したので王宮の無駄手順を全部“昼寝できる仕組み”に変えます  作者: 花守りつ


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眠ったまま準備に回された子の朝は、祝灯式の飾りではありません

北塔生活窓口に、朝の鐘より早く白い箱が運びこまれた。


 箱の側面には、祝灯式準備費の赤い紐がかかっている。中身は菓子でも花でもない。小さな水筒、朝粥札、迎え紐。それから、まだ眠っている子の名札だった。


「第二孤児院分、教育区画経由、祝灯式準備済み」


 教育区画の使いが読み上げる。声だけは整っていた。


 第八王子ノエルとして、俺は箱の上の同型印を見た。昨夜の保護者確認印箱、第一孤児院閉鎖台帳と同じ角度。追いたくなる。誰が押したか。どの帳簿を通ったか。前世の監査官なら、そこから机を三つ飛ばして責任者名へ行く。


 けれど、箱の中で水筒が小さく転がった。


「まず、誰の朝だ」


 俺が言うと、ルカが印ではなく名札を拾った。


「ピム。第二孤児院から教育区画へ移送済み。祝灯式準備補助、朝班」


「ピムは、ここにいる」


 テオが三つの椀の前から振り返った。


 サラ、ピム、読めるまで待つ札の子。三つ並んだ席のうち、ピムの席に小さな毛布の山がある。その中から、寝ぼけた声がした。


「……水、先」


 ミナがすぐに水杯を持っていく。ピムは目を半分しか開けないまま、両手で杯を抱えた。読めていない。まだ、確認も承認もできていない。けれど、水が先だと言えた。


「準備済みではない」


 俺は赤い紐の札を裏返した。


「本人が起きて、水を飲んで、朝粥を食べて、迎え担当に名前を呼ばれるまで、祝灯式の朝班には入らない」


 使いが息をのむ。


「式の朝準備に人数が必要なのです。眠っている児童を起こさないため、同型印で保護者確認を――」


「起こさないことと、働いたことにすることは違う」


 今度はテオが先に言った。


 テオは入口札を外し、箱の横に置く。


「ピムを呼ぶのは俺です。迎え担当。起きて、水を飲んでから呼びます。呼べなければ、準備に行ったことにしません」


 その声に、ピムが毛布の中で小さくうなずいた。眠そうなうなずきだ。だが、紙の上で消されていた本人が、紙の外で順番を持った。


 ルカが新しい欄を作る。もう印角度の説明欄ではない。


『水。本人が飲んだか』

『朝粥。本人が食べたか』

『迎え担当。名前で呼んだか』

『本人確認。読める時刻か』


 エリネが青い紐を、赤い紐の上から結び直した。


「祝灯式準備費は、眠っている子の朝を借りられません。生活影響明細未添付、本人朝未到着のため、準備済み扱いを保留します」


 大きな処罰ではない。儀礼係はまだ扉の向こうにいる。セヴラン代理印の奥も、黒い箱の中も、開いていない。


 でも、ピムは水を飲んだ。ミナが椀を温め直し、テオが入口で名前を呼ぶ準備をして、ルカの字が「準備済み」を「朝未到着」に戻した。


 北塔生活窓口の板に、昨日とは少し違う規則が貼られる。


『眠っている子は、祝灯式準備済みにしない。水・朝粥・迎え担当・本人確認がそろうまで、朝は本人のものとして保留する』


 ピムが粥を一口食べて、ぼんやり笑った。


「……あつい」


「温かい、だ」


 俺が訂正すると、ピムはもう一口食べた。


 その時、ルカが箱の底から、飾り布の束を引き出した。薄い金糸で包まれている。祝灯式なら目立つだろう。


 だが布の中から、小さな寝息が聞こえた。


 ルカの顔から血の気が引く。


「殿下。この子、準備費の帳簿では『飾り布一束』です。でも、布の内側に名前札があります」


 北塔の入口灯が、朝なのに青く鳴った。


 俺は椀を置き、青い札を一枚取る。


「じゃあ次は、飾りにされた子を、名前で起こす」

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