表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜監査官だった俺、貧乏第八王子に転生したので王宮の無駄手順を全部“昼寝できる仕組み”に変えます  作者: 花守りつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/55

教育区画仮保管棚は、帰る灯りを夜まで預かれません

教育区画の仮保管棚は、昼の石壁の奥にあった。

 白い棚札には、きれいな字で「夜間確認まで保管」と書かれている。役人にとっては安全な言葉なのだろう。だが俺には、帰れない夜の長さに見えた。


「ノエル殿下。棚の中身は、夜間灯、北塔入口札、毛布、朝粥椀、保護者確認印箱。五つです」


 ルカが読み上げる。昨日までなら、彼は余白に正しい字を書いただけで震えていた。

 今日は違った。彼は棚の鍵を両手で持ち、自分の胸の前に下ろした。


「僕が、返します。書くだけでは、灯りは点きませんから」


 その一言で、棚の前にいた教育係が眉を上げた。


「夜間確認まで置く決まりです。北塔の者が勝手に持ち出せば、管理不備になります」

「管理不備ではありません」


 俺は棚札を指で押さえた。


「これは保管ではなく、生活到着未了です。夜間灯は、棚の中で安全確認されるためにあるんじゃない。北塔入口で、帰ってくる人が自分の名前を聞けるようにある」


 テオが入口札を見た。

 小さな木札に、彼の字で「テオ、迎え」と書かれている。前の話で、彼はサラとピムと読めない空白の札を教材化から守った。守るだけなら、棚の前でもできる。

 けれど迎えるには、北塔の入口に立たなければならない。


「俺、入口で呼んでいいんですか」

「呼ぶための札だ。教材にしないための札ではない」


 テオは唇を結び、入口札を両手で持った。


「サラ。ピム。……読めるまで待つ札の子。帰ってきたら、ここじゃなく北塔で呼びます」


 教育係が紙を一枚差し出した。


「では、持出理由を」

「理由ではなく、到着先を書いてください」


 エリネが先に言った。北塔仮窓口の青い紐を袖に結んだまま、彼女は毛布を棚から取り出す。

 毛布は証拠品のように畳まれていた。使わない毛布は、ずっときれいだ。だがきれいなだけの布では、七歳の俺は眠れない。


「到着先、北塔。用途、今夜の昼寝と帰ってきた子の膝掛け。確認者、エリネ。運ぶ人、ルカ。入口で呼ぶ人、テオ」


 ルカは震える手で、今度は紙ではなく灯りを持った。

 夜間灯の小さな金具が、彼の手の中で鳴る。棚の奥で眠っていた音ではない。廊下を進む音だ。


 俺たちは教育区画を出た。

 昼の王宮は、どこも明るい。だから夜間灯の必要を忘れる。だが北塔へ続く渡り廊下は、夕方になる前から影が濃かった。

 ルカが灯りを入口の釘に掛ける。

 テオが入口札をその下に吊るす。

 エリネが毛布を北塔仮窓口の椅子に置く。


 たった三つの物が戻っただけで、北塔の入口は、倉庫の口ではなくなった。

 帰ってくる場所に見えた。


「点けます」


 ルカが火口を近づける。夜間灯は小さく赤くなり、すぐに黄色い丸になった。

 テオが一歩、灯りの下に立つ。


「サラ、帰ってきたらここ。ピム、ここ。読めるまで待つ札の子も、ここ。……ノエル殿下も、眠くなったらここです」


「俺は王子だぞ」

「王子でも、七歳なら眠ります」


 反論できなかった。

 前世の社畜監査官としても、睡眠不足の者にまともな判断はさせない。七歳の王子なら、なおさらだ。


 俺は毛布を一度だけ肩に掛けた。

 薄い。古い。王宮の絹ではない。

 それでも、証拠品ではなく、使っていい布の重さだった。


 教育係が遅れて追いつき、息を切らして言った。


「朝粥椀と保護者確認印箱は、衛生確認待ちです。後日まとめて押印します」


 灯りの下で、エリネの目が細くなる。

 俺は毛布を畳み直し、青い紐を入口札の横に結んだ。


「では、こう書きます。夜間灯、入口札、毛布は北塔到着。朝粥椀と保護者確認印箱は、まだ生活到着未了。後日まとめ押しでは、今夜の腹は温まりません」


 テオが入口札の下に、小さく付け足した。


「朝に呼ぶ椀、未着」


 灯りはもう、棚の中にはなかった。

 北塔の入口で、帰ってくる名前を待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ