教育区画仮保管棚は、帰る灯りを夜まで預かれません
教育区画の仮保管棚は、昼の石壁の奥にあった。
白い棚札には、きれいな字で「夜間確認まで保管」と書かれている。役人にとっては安全な言葉なのだろう。だが俺には、帰れない夜の長さに見えた。
「ノエル殿下。棚の中身は、夜間灯、北塔入口札、毛布、朝粥椀、保護者確認印箱。五つです」
ルカが読み上げる。昨日までなら、彼は余白に正しい字を書いただけで震えていた。
今日は違った。彼は棚の鍵を両手で持ち、自分の胸の前に下ろした。
「僕が、返します。書くだけでは、灯りは点きませんから」
その一言で、棚の前にいた教育係が眉を上げた。
「夜間確認まで置く決まりです。北塔の者が勝手に持ち出せば、管理不備になります」
「管理不備ではありません」
俺は棚札を指で押さえた。
「これは保管ではなく、生活到着未了です。夜間灯は、棚の中で安全確認されるためにあるんじゃない。北塔入口で、帰ってくる人が自分の名前を聞けるようにある」
テオが入口札を見た。
小さな木札に、彼の字で「テオ、迎え」と書かれている。前の話で、彼はサラとピムと読めない空白の札を教材化から守った。守るだけなら、棚の前でもできる。
けれど迎えるには、北塔の入口に立たなければならない。
「俺、入口で呼んでいいんですか」
「呼ぶための札だ。教材にしないための札ではない」
テオは唇を結び、入口札を両手で持った。
「サラ。ピム。……読めるまで待つ札の子。帰ってきたら、ここじゃなく北塔で呼びます」
教育係が紙を一枚差し出した。
「では、持出理由を」
「理由ではなく、到着先を書いてください」
エリネが先に言った。北塔仮窓口の青い紐を袖に結んだまま、彼女は毛布を棚から取り出す。
毛布は証拠品のように畳まれていた。使わない毛布は、ずっときれいだ。だがきれいなだけの布では、七歳の俺は眠れない。
「到着先、北塔。用途、今夜の昼寝と帰ってきた子の膝掛け。確認者、エリネ。運ぶ人、ルカ。入口で呼ぶ人、テオ」
ルカは震える手で、今度は紙ではなく灯りを持った。
夜間灯の小さな金具が、彼の手の中で鳴る。棚の奥で眠っていた音ではない。廊下を進む音だ。
俺たちは教育区画を出た。
昼の王宮は、どこも明るい。だから夜間灯の必要を忘れる。だが北塔へ続く渡り廊下は、夕方になる前から影が濃かった。
ルカが灯りを入口の釘に掛ける。
テオが入口札をその下に吊るす。
エリネが毛布を北塔仮窓口の椅子に置く。
たった三つの物が戻っただけで、北塔の入口は、倉庫の口ではなくなった。
帰ってくる場所に見えた。
「点けます」
ルカが火口を近づける。夜間灯は小さく赤くなり、すぐに黄色い丸になった。
テオが一歩、灯りの下に立つ。
「サラ、帰ってきたらここ。ピム、ここ。読めるまで待つ札の子も、ここ。……ノエル殿下も、眠くなったらここです」
「俺は王子だぞ」
「王子でも、七歳なら眠ります」
反論できなかった。
前世の社畜監査官としても、睡眠不足の者にまともな判断はさせない。七歳の王子なら、なおさらだ。
俺は毛布を一度だけ肩に掛けた。
薄い。古い。王宮の絹ではない。
それでも、証拠品ではなく、使っていい布の重さだった。
教育係が遅れて追いつき、息を切らして言った。
「朝粥椀と保護者確認印箱は、衛生確認待ちです。後日まとめて押印します」
灯りの下で、エリネの目が細くなる。
俺は毛布を畳み直し、青い紐を入口札の横に結んだ。
「では、こう書きます。夜間灯、入口札、毛布は北塔到着。朝粥椀と保護者確認印箱は、まだ生活到着未了。後日まとめ押しでは、今夜の腹は温まりません」
テオが入口札の下に、小さく付け足した。
「朝に呼ぶ椀、未着」
灯りはもう、棚の中にはなかった。
北塔の入口で、帰ってくる名前を待っていた。




