祝灯配置図は、帰れない子の孤児院番号を飾り番号にできません
配置図の端に並んだ番号は、きれいすぎた。
第三。第一。第七。第九。第十二。
王宮の廊下を照らす灯りの番号としては、妙に離れている。だが王都外孤児院の台帳で見ると、嫌になるほど自然に並んでいた。
「殿下。これ、飾りの位置番号ではないんですか」
ロイが声を潜める。七歳児の俺は、毛布の端を握ったまま首を振った。
「位置番号なら、南廊下一番、噴水前二番、みたいに場所が先に来る。これは場所じゃなくて、誰かの帰る先を先に消している番号だ」
「帰る先……」
ミナが入口箱を見た。リトとナナの迎え灯は、まだ細く燃えている。
俺は配置図の横に、孤児院照会控え、迎え灯札、朝粥の残数札を並べた。
第七孤児院。灯油三杯、祝灯式東庭へ転用済み。
第九孤児院。迎え担当未記入、灯火用途終了。
第十二孤児院。残余児童なし、配置灯へ戻入済み。
便利な完了語がまた増えた。前世の監査室なら、このあたりで誰かが「数字は合っています」と言う。そして合っている数字の外で、人が帰れなくなる。
「ルイ。灯油三杯って、何人分の入口灯になる?」
「えっと……リトとナナで二杯でした。風が強い夜なら、三人か、短い時間なら四人分です」
「ミナ。第九孤児院の迎え担当未記入は、空欄だから終わり?」
「終わりじゃありません。誰が呼ぶか決まっていない、です」
「ロイ。第十二孤児院の残余児童なしは?」
ロイが台帳をめくり、息を呑んだ。
「残余、ではなく……移動中の名前が三つあります。テオ、サラ、ピム。到着印がありません」
「じゃあ、飾り番号ではない」
俺は配置図の番号を一つずつ丸で囲んだ。
「これは、未帰着の子供を飾りへ変えるための番号だ」
儀礼係の男が顔色を変えた。
「殿下。祝灯式の配置は宮廷の正式図面です。孤児院の細事をそこへ書き込めば、式の見栄えが損なわれます」
「見栄えより先に、帰り道」
俺は椅子の上で、できるだけ眠そうに言った。眠そうに言ったほうが、怒鳴るより長く続けられる。前世の会議で学んだ省エネだ。
「東庭の灯りは、誰の入口を暗くして点くんですか」
「誰の、ではなく、王宮全体の——」
「全体という言葉は、名前を消すときに便利すぎる」
俺は青い保留札を三枚切った。
一枚目。第七孤児院灯油三杯。祝灯式東庭転用保留。生活影響、入口灯三名分確認待ち。
二枚目。第九孤児院迎え担当空欄。用途終了不可。担当者名、本人呼称、到着時刻確認待ち。
三枚目。第十二孤児院残余児童なしを撤回。テオ、サラ、ピム、北塔入口または代替寝床到着確認待ち。
ミナが札を読み、ルイが灯油壺に印を結び、ロイが配置図の東庭欄へ青い糸を通した。青い糸は金色の祝灯図面の上で、ひどく目立った。
「殿下。正式図面に糸を通すなど」
「正式図面なら、生活影響明細を添付してください」
俺は男の持つ印箱を見た。
「三杯の灯油を東庭へ移すと、誰の入口が暗くなるのか。未記入の迎え担当は、誰が名前を呼べなくなるのか。到着印のない三人を、何を根拠に残余なしとしたのか」
答えはなかった。
かわりに、入口の外で小さな足音がした。
ロイが扉を開けると、濡れた靴の少年が一人、灯りを見上げて立っていた。腕には、折れた木札を抱えている。
「第七孤児院の、テオです。灯りが途中で消えて……ここなら、名前を呼んでもらえるって」
ミナがすぐに膝をついた。
「テオ」
その一言で、少年の肩から力が抜けた。
「はい」
返事は小さかったが、確かに本人の声だった。
俺は朝粥札を一枚めくる。
「テオ。今夜ここに入ったこと、明日の朝粥一杯、濡れ靴を乾かす場所、あとサラとピムの未帰着欄を消さないこと。読める?」
「……消さない、なら読めます」
「じゃあ、本人確認。眠い子に長い説明をさせるのは残業だから、ここまで」
ミナが少し笑った。
ルイが温かい布を持ってくる。ロイは勤務札に、未帰着から北塔入口到着へ、テオの名前を書き直した。ただし、残り二名の欄は空白のままだ。
「空白は消さない」
俺は言った。
「サラとピムがまだ帰っていない証拠だから」
青い糸の先で、東庭の祝灯番号が一つだけ保留になった。王宮の見栄えは、たぶん少し欠ける。だがテオの靴は入口の内側にあり、温かい布は彼の肩に届いた。
「殿下」
ロイが印箱の底を見つめている。
そこには、古い承認札が貼りついていた。
祝灯配置総括、教育卿室確認済。
そして、その横に小さく、セヴラン代理印の上位使用許可、と書かれていた。
俺は毛布の中で目を細める。
「……また昼寝を邪魔する上位欄が出たね」
北塔の入口灯は、テオの名前を照らしたまま、まだ帰っていない二人の空白も照らしていた。




