ハグブライト氏族
──ハイドシャイニー市街地、正門前
「遅いね〜…ロンさん達」
私達のダンジョンが転移してきた森にほど近い都市はハイドシャイニーという名前らしい。略してハイシャだねw
「都市名は略さんで ええど?」
「なっ!? レント、貴方まさか…」
「読心術じゃないぞ?俺もレントと同じ事考えたからな」
「お前がドヤ顔してニヤけとる時は大概つまらん事考えとる時や、長い付き合いやで?分からいでか!」
「そうだぞ?それ、アバターのはずなのに分かり易すぎだろ。逆に心配になるレベルでヨーダにしか見えない…」
「むぅ〜…アバターの表情を細かく設定しすぎたのかなぁ…次はもっとアバウトな感じでデフォルメしよう… あっ、来た来た。あの子供達がそうじゃない?」
朝靄が静かに流れる朝の市街地はまだ閑散としていた。薄く漂う霧を掻き分けるように走って来る数人のこ子供のような小さな姿が大通りの先に薄っすらと見えてくる。
「おいおい、子供達はないやろ〜流石に失礼やぞ?」
「だな… けれど小学生が集団登校する姿にしか見えないのも事実だ。すまん…少し後ろを向かせてくれ」
ノーマは口元を押さえたまま、肩を震わせ後ろを向く。流石に面と向かって笑うのが憚られたみたい。まだ笑ってる…たまに「グフッ」とか声が漏れてるよ…
「ロンさ〜ん!こっちコッチ、はい。皆、良い子に整列して下さ〜い。そうそう、横に並んで下さいね♪」
ロンさんが向かって右側に背筋を延ばして立つと、他の5人もそれに倣って横に整列する。
「ぶっ!……ぐフッ………」
「ちょ、ヨーダ…少しの間、た、頼む……ぷひッ」
ロンさん達の様子が二人のツボに刺さったらしく、二人は口元とお腹を押さえてプルプルと震えはじめた。
「ん、分かったよ。ん゙んっ、では改めまして、今日から皆様に仕事を依頼させて頂く"ダンジョンカンパニー" 代表のヨーダと申します。以後お見知りおき下さいね?皆さん、よろしくね〜♪」
「「「「「 お願いしま〜す 」」」」」
私が両手を前に出して掌を見せてヒラヒラ振ると、ロンさん達も同様に振り返してくれた。これは昨日ロンさんに習ったハーフリング種族の正式な挨拶らしいのだが、幼児向けの朝番組を思い出しちゃったよ。
「……グハッ」「……むグググ……」
私達に顔を向けようとしていた2人に再び試練が訪れたようだ。2人ともプルプル震えながらとうとう蹲ってしまったね…
「え〜…と、皆さんは生活に困窮していらっしゃると、そちらのロンさんから窺っています。これから森へ向かいますので体力に自信の無い方には軽食をお渡ししたいと思います。先ずはアチラへ移動しましょう」
「「「「「ッ!!!!!」」」」
"軽食" と言った瞬間から皆の目付きが変わった。口を半開きにして涎をすすりながら目を血走らせ、私の後を付いてくる姿は先日のゴブリンを思わせる。
正門の脇に在る小さな広場に東屋が建っているので、そこにサンドイッチと温めた牛乳を用意する。
「はい。召し上がれ♪」
──ダダダダダッ、
「「「「「…もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ…」」」」」
皆、欠食孤児のように痩せ細り薄汚れている。
初めてロンさんを拾った時の姿より酷い状態の人もいた。皆、夢中で食べながら涙を浮かべる姿に、ノーマとレントも居た堪れなくなったようで「ゆっくり食べて下さいね」だの「お昼も用意してありますよ」だのと声を掛けている。
全員が食べ終えたのを見届けてからレントが立上がった。
「え〜…まず、本日はお集まり頂き感謝します。 これから皆様にこの袋を一枚ずつお渡し致しますので、これから向かう森に落ちている"魔核" を拾って袋に入れて頂きたいのですが…よろしいですか?」
「はい、質問であります!」
ロンさんの左隣りに座っていたハーフリングが元気に手を上げた。レントがそちらを向いて頷きニコッと微笑みかける。
「先ず、お名前を教えて下さい。その後に質問をどうぞ。せっかくなので、そのまま左回りで順番に自己紹介と質問をお願いします」
最初に手を上げた人が顔を赤らめて恥ずかしそうに上目遣いで自己紹介を始めた。
「あ、えっと、自分は"キキリ"であります、35才独身であります。お婿さん募集中で好みのタイプは働き者のナイスガイであります!」
「はい。キキリさん、ありがとうございます。けれどお名前と年齢のみ教えて頂ければ大丈夫ですよ?プライベートな事は無理にお聴きしませんからね?」
そう言ってレントがパチリと左目を閉じてやればキキリさんの顔が真っ赤に染まった。他の人達も笑ってキキリさんを囃し立てる。
「はいはい、お静かに。キキリさんの質問がまだです。ではキキリさん、お願いします」
「は、はい!その…マカク?とは何でありましょうか?そのような物、見た事も聞いた事も無いのであります…」
「はい、素晴らしい質問です!ありがとうございます、キキリさん。 他の人で"魔核"を知っている方は居ますか?」
ロンさん以外の皆は首を傾げている。
「では、こちらを御覧下さい。ヨーダ、魔核出して」
「はい。これですね」──ゴト、、、
私は腰のウェストバッグから魔核を一つ取り出して丸テーブルの上に乗せた。それを見たハーフリングの皆さんがとても嫌そうに眉根を寄せて顰め面になる。
「皆さん、この赤黒い石の事はご存知と思います。
この石のせいで皆さんは現在この様な暮らしを余儀なくされているとロンさんから窺いました。そうですね?」
皆さんがうんうんと何度も頷く。それを一通り確認してからレントは続けた。
「これが"魔核" です。例の黒い霧から放たれた悪意の塊が形を持った物が魔物です。それを軍が討伐した際にこの赤黒い石"魔核" を落としますよね?」
皆さんがうんうんと頷く。
「この魔核を放置すると森の木々や田畑に実った作物が枯れ果て、大地も力を失い、やがては人の身体も不調を来たします。ご存知ですよね?」
皆、しょんぼりと下を向いてしまった。とても悲しそうに魔核を見つめながらも何とかレントへ頷きを返す。
「実は私達は、この魔核を有効利用する事が出来ます。魔核を集めれば集めるほど周辺環境が改善し、更には皆さんの身体能力さえ強化する事も可能になります。先に身体能力が強化される証拠を御覧下さい。ヨーダ、ちょっとジャンプして」
「ほいよ。皆、見ててね?──ソイッ」
私は少し離れて垂直跳びをしてみせた。膝を曲げて溜めを作ってから軽くジャンプする。
──ビョーー…ーーンッ!
「「「「 ッ! ……ファッ?!!!」」」」
3mくらいの高さからスチャッと着地。
「まあ軽く翔んでもこんなもんかな?って、え?ちょっ、ちょっと待って……お、お触りは禁止ですよ!」
「「「「「……ぅわあぁああああああっ!」」」」」
皆が東屋から飛び出してきて私の身体を確かめるように触り始めたので私は揉みくちゃにされる。どさくさ紛れに乙女の大事な場所をガシッと掴んでくる奴までおる始末 …キキリさんやないかいっ!
………
……
…
「落着きましたか?」
皆、うんうんと頷いている。全員の頭にたん瘤が出来ているけど仕方ないよね?全くもう!
「では、今お渡しした袋は魔法が施された特別製です。それは今日の報酬として差し上げますので、魔核を回収した後はご自由にお使い下さい。では出発しましょうか♪ロンさんが先導して下さい」
「かしこまりました。皆、私に付いて来て下さい」
「「「「 は〜い!!」」」」
こうして漸く正門前を出発した私達は、ロンさんの案内で一列になりゾロゾロと森へ向かった。 どう見ても遠足に向かう小学生の集団にしか見えないのは御愛嬌です♪
◆
──森林北東部)旧ハグブライト村付近
カン 「……か、帰ってこれた、のか……」
チン 「けれどもう、住めるような場所は……」
ホン 「………………お腹空いた」
カカル「……ぅ゙ううう……グスッ…ズビッ」
キキリ「なんとも無惨であります……グスッ」
森に入って直に紅葉樹の森は途切れ、黒い幹に灰色の葉に大地が埋め尽くされた死んだ木々の間を進んできた。森林限界のようにクッキリハッキリと色を失った森を進む事2時間。
黒い幹だけが林立する枯れ果てた灰色と黒だけに縁取られた死の森が急に開けると、そこには小じんまりした集落の後が在った。村の残骸を目の前にしてハーフリングの皆さんが茫然自失といった様子で立ち竦む。私は皆の前に出て腰に手を当てた。
「はい注〜目〜!みんな前を向いて!!!」
皆、何事かと顔を上げた。私を見つめる目は一様に潤んでいて、中には滂沱と滝のような涙を流している人も居る。約一名、死んだ魚のような目をしてるのはホンさん。彼は村から逃げ出した後に産まれた子供らしい。既に両親は他界していると言っていた…
「この村で暮らした記憶の在る方は誰ですか?」
ロンさん、カンさん、チンさん、カカルさんの四人がしょんぼり力無く手を上げる。キキリさんはまだ幼かったので記憶は残っていないらしい、けれど今にも泣きそうな程に目には涙が溜まっていた。
けれどロンさんだけは泣いていない。その瞳に浮かぶのは涙ではなく"怒り" だ。良いね♪まだ負けてない…
「私達はこの村を取り戻す方法を知っています。
私達は今、生きて村まで戻って来ました。
私達はまだ動けます… お腹は空いてるけどねw」
チンさんが苦笑いしてホンさんを見る。ホンさんは高らかに右手を上げていた。この正直者めwww
「街の暮らしはどうでしたか?
そこで人としての矜持は保てていましたか?
皆さんの尊厳を尊重してくれましたか?」
皆が下を向いてしまった。滂沱と涙を流していたカカルさんだけがピタリと泣き止み私を見る。涙の残る瞳には明確な感情が浮かぶ"怒り" だ。二人目だ、良いよ良いよ〜♪
「もう一度、尋ねますね…
私達はこの村を取り戻す方法を知っています」
ロンさん、カカルさん以外の人達もゆっくり顔を上げ始めた。私に縋るような視線を向けている。けどそうじゃない!他人に助けを求める気持ちは理解できるけどね…
「私達は今日、自分達の足で生きて村まで戻って来ましたね?自分達の足で歩いて来ましたよね?」
顔を上げた皆がハッとする。カカルさんが私の横に来て皆を見渡して叫ぶように大声を出した。これなら私の言葉はもう必要無いかな? ふふふ…こういう時やっぱり女性は強いよね♪
「そうだ、私達ハーフリングは何時だって裸足で大地を踏み締めて生きているんだぞっ!人間は靴を履かなきゃ歩けない。けど私達は違うだろ!?何時だって裸足で大地に立っているんだ。剥き出しの自分自身で大地に向き合って来たっ!そうだろう?ロン! 私達は人間のオモチャじゃないっ!絶対に違うっ!人間を慰めるために産まれてきたんじゃないんだぁ…ぅ゙あぁぁん…」
カカルさんはそのまま大声で泣き出してしまったが、その姿をポカンと見ていた皆の瞳に明確な感情が浮かぶ。
村の記憶の無いホンさんとキキリさんもカカルさんの送ってきた境遇に思い至ったのだろうか。初めは労るような悲しげな瞳だったけど、カカルさんの言葉に感化されたみたい… 今は全員の瞳に力が入っている。その"怒り" が向けられているのは廃村。
かつては自分達の村でありハーフリング達が自ら築き上げた社会があり、生活があり、例え裕福で無くとも平和な暮らしがあったはずだ。誰もハーフリングだからと自分達を虐げる者の居ない平和な暮らしが…
ロンさんがカカルさんの隣りに立ち、そっと背中に手を添えた。カカルさんも泣いたまま顔をあげる。
「私達はまだ動けます…村を取り戻す方法も知りました…私達はまだ生きてます。訳の分からないうちに突然奪われた村を取り戻しませんか?だってこうして私達は立っているのですから」
ロンさんが静かに言った言葉に力強く頷きを返す皆さんの瞳には、もう涙は溢れていなかった…
こうしてこの日、私達は同じチームになった。
私達の原動力は "IRE" 。全ての理不尽に対する怒りを胸に、共に戦う同志である。




