ハメ殺し
「この度は真にお世話になりました。私"ロン・ハグブライト"と申します。あ、ハグブライトは赫灼の森の北東部にある湖の名前でして、そのハグブライト湖の畔に有るハグブライト村の出身です…」
私がオワタさんにダンジョン内部の案内と説明をしている間に、拾った原住民は風呂に入れられていたみたいで、私が食堂に用意しておいたサンドイッチは既にハグブライトさんに食べさせたらしい。
「そうですか。ではハグブライトさん…」
「あ、私の事は"ロン"とお呼び下さい。ハグブライト村の出身は全員苗字がハグブライトなので…」
「なるほど、ではロンさん。貴方は何故あんな場所で凍えていたんですか?何か村には戻れない事情でもあるんですか?差支えなければお聞かせいただいても大丈夫ですか?」
「差支えなど有りません…村が黒い霧に覆われてしまい命からがら逃げ出した私達は、こうして大きな街に身を寄せて糊口をしのがせて頂いている次第でして… ですが先月までお世話になっていたマダムに棄てられてしまい、特に取り柄も無い私は途方に暮れたまま路上生活を余儀なくされていたのです…グスッ」
ロンさんはそう言ってポロポロと涙を溢しはじめた。久しぶりに着た清潔な衣服と簡単ではあったが腐っていない、まともな食事に感激していたらしい。
「実は私達はこの国を訪れたのが初めてでして…
この国の事を色々と伺いたいのです。その代わりといっては何ですが、数日の間は寝床と食事を提供させて頂きます。如何でしょう?」
レントがそう提案すると、ロンさんは泣きながら何度も何度も頷いて感謝していた。レントがこんなにマトモな話し方するのを久しぶりに聞いたよ。背筋がムズい…ゾワッてなるねw
「なんや…何か言いたい事あるんか?ヨーダ」
「ふぇっ!?いやいや何でも…ないよ。ね?ノーマ」
「ああ、久しぶりにレントの余所行き用の姿を見て、鳥肌が立っただけだw 気にすんな…」
「ちっ、翻訳が仕事せぇへんから仕方ないやん…
さて、先ずは何から聞いたらええんや?」
「あ、ならロンさんの村の事から聞いて?他の人達がどうしてるのかとか、住んでいた頃の生活とか、収入源とかはどうしてたのか…とか全部♪」
「………?」
ロンさんは同じハーフリングのはずの私が気安くレントと話しているのを、とても不思議そうにポカンと見ていた…
………
……
…
◆
「思っていた以上に文明が進んでるな…もっと野蛮で原始的なのを想像してたから、ちょっと驚いたぜ」
「ホンマやで、獣人が居らへんやなんてな!これは重大な裏切り行為やぞ?!ワイの夢を返して欲しいわ…ホンマのホンマにガッカリや…」
「まあまあ、猫娘の件はともかく、だいたい見た目通りの世界みたいね。日本だと昭和中期?戦後直後くらいの感じかな?どう思う、ノーマ」
「ちょうど家電が普及するかしないかくらいの感じだから、だいたいそんなもんだろぅな…しかし電気じゃなくて魔法で動かす洗濯機とか、アスファルトじゃなく魔法で砂利を固めた道路とかだっけ?…ちょっと見てみたいよなw」
「せやな。ワイは気合で走るオート三輪に乗ってみたいわw 皆が「ウォーッ」とか「キェーッ」とか叫んどったら煩くてかなわんけどもwww」
「気合じゃく"魔法"でしょ?魂の力ってオワタさんが言ってたから中国拳法なんかの"気"みたいなものなんだろうけど…」
「ほれみぃ、やっぱり気合やんwww」
あらかた概要を知る事が出来たので、ロンさんには食事とお風呂と寝室を提供した。今は一人部屋で休んでもらっている。
「それにしても、こんな明確な身分制度って言うか人種差別的な?そんなのが有るとはな…聞いた範囲だとインドのカースト制度みたいなものと近いような感じだな…」
「そうだね〜…森に住んでいないハーフリングやビッグフットは全て奴隷扱いなんだっけ?ビッグフットなんて牛や馬の代わりに畑を耕したりさせられてるんでしょ?森に住めなくなったハーフリングやビッグフットが大挙して街に来たから奴隷相場が値下がりして、扱いが悪くなってるって言ってたもんね…」
「それにしてもロンさんがまさかの50才とはの〜…
ハーフリングは街じゃ愛玩動物扱いなんやて?
それはそれで、どうなん?って感じやんなぁ…」
「ハーフリングもだけど人間も寿命が長いんだね?
ロンさんの村は200才が最高齢だったって言ってたものね…人間は150才くらいなんでしょ?そうなると、私達と全く同じってわけじゃ無さそうだよね」
「ハーフリングにしかなれないヨーダは、街中に行くときは必ず俺らと一緒に行動は確定だな。
ビッグフットやハーフリング余りが発生してるらしいから、ダンジョンプレイヤーに先ずはハーフリングとビッグフットを採用しようか。ルビーは宝石として街で取引き可能らしいから、ロンさんをダンジョンに突っ込んでルビーを採取してもらおう」
「ロンさんの羽振りが良くなれば自然とアブれてた他のハーフリング達も集まってくるっちゅうわけやな?ならロンさんには盛大にダンジョンを宣伝してもらわにゃの♪」
「問題は最初の攻略時に持ち込む武器や防具だね…
レントとノーマは明日になったらダンジョンからルビーを採掘して宝石商に行ってきてよ。換金できたら武器と防具を買おう♪」
「別にええけど…ヨーダはどうするんや?まだダンジョン設定終わらんの?」
「設定は終わってるよ?罠も設置済。かつてない凶悪な配置にしたから期待しててね♪私は明日、ロンさん連れて森で狩りをしてくるつもり」
「はあっ!?素人連れで森に入るつもりなんか?せめてノーマを連れていかんと危なくないか?」
「【土魔法】と【ボマー】のスキルが有効なのは確認したし【縄術】のロープワークもちゃんと機能したから大丈夫だよ。むしろ爆発に巻き込む危険があるから少人数のが効率良いんだよ♪」
「まあ元々、[IRE]の火力担当はヨーダだしな、森に明るいロンさんが一緒なら大丈夫だろ?」
「確かに武器も無い俺のシャドウマンじゃ昼間は役立たずやしな、けど気ぃ付けぇよ?ヨーダ。抜作やからな〜ホンマに…」
「抜作言うな!アホレント」
「事実やろ?」「事実だな…」
二人同時にディスられたよ…
………
……
…
◆
──翌朝
「じゃ、行ってきま〜っす!」
「行ってまいります…」
「おう、気い付けて…」
「ロンさん、そいつすぐ道に迷うから目を離さないようにお願いします。気を付けてな、ヨーダ」
ロンさんには私の装備から動き易い厚手の生地の服を着てもらってある。ハーフリングなので足は剥き出しのまま。うん、経済的だ♪
私は【ボマー】専用装備の火耐性+3 の付与された革装備。サラマンダー革を贅沢に使用した高級品で、内張りにはアルミが蒸着されている。
仮想世界の装備がこのまま使えるのはファンタジー味を感じる。ダンジョンから直接連れて来られたからなのか私の装備だけは全て使用可能だった。
「ヨーダさん、私達だけで本当にあの黒い霧から出る魔物と戦うんですか?だ、大丈夫でしょうか…」
森に向かう途中、ロンさんが不安気に私を見る。
「大丈夫、大丈夫♪戦闘になったらロンさんは私の傍から離れないで下さいね。魔物を倒すと赤黒い石が落ちるんでしょ?その回収を手伝ってくれるだけで良いんですからね」
「はい。しかしあんな物が本当に役に立つんでしょうか…あれのせいで私達の村は作物も収穫できなくなって、森の木々も黒い化石のようになってしまったんですが…グスッ」
下を向いてべそを掻くロンさんは鼻の頭を真っ赤にしている。鼻汁垂れてるね。
「あ〜…ほら鼻カンで。泣かない、泣かない。これからはその石、"魔核"が収入源になりますから!ガンガン稼ぎましょうね!」
私はポケットからティッシュを一枚取出してロンさんの鼻に当ててやった。何だか小さい子の面倒を見てる気分…今は私も同じ身長なんだけどね。
「(チーン)……ぁ゙い」
ロンさんは素直に鼻をかんでから使用済みのティッシュを私に差し出すので「差し上げます」と言ってお断りしておいたよ…
◆
──赫灼の森
ロンさんの案内で獣道に沿って罠を設置して回る。獣が頻繁に通る場所には必ず理由がある。縄張りを主張するためのマーキングであったり定期的に餌場に外敵が侵入してないかを見廻るためだったりと様々。
もちろんこれはゲームで得た知識では無い。私の母父である爺ちゃんに山へ連れられて山菜採りなどを手伝っていた時に教わったものだ。
中学校を卒業してヒマになった私は毎日ダラダラしていた。今思えば燃え尽き症候群みたいなものだったのかもしれないね…
そんな私を見かねた祖父が山菜採りを手伝わせてアルバイト代わりにお小遣いをくれた時に教えてくれた山の知恵。 祖父は元々腕の良い猟師だったが父が犯罪者になって懲役に服した際に猟銃免許が更新出来なくなった。
しかし祖父の知識と経験を惜しんだ猟師仲間が罠師として祖父を雇ってくれたらしい。 収入は微々たるものだが祖父は年金で上手くやり繰りして生活していた。その時期にヒマな私を山に連れ出して山菜の知識と罠を設置する場所や方法を教えてくれた。その祖父も私が高二の時に他界している。
私とロンさんは気配を消しながら良さげな場所に罠を設置して回る。ハーフリングの身体は小さく体臭も少ない。そもそもの種族特性が罠師向きなのだ。
私がゲームを始めた時、アバターのキャラクター種族にハーフリングを選んだ理由でもある。キャラデザが可愛かったのが一番の理由なんだけどねw
2時間ほど罠を仕掛けて回った後に私達は最初に風下に仕掛けた罠の近くへ戻り藪に潜んで獲物を待っている。私は【ボマー】スキルも持っているので翌日まで待たずにサッサと仕留めるよん♪
「おほっ、来た来た〜♪ ロンさんは耳を塞いで口を開けておいて下さい。爆音で鼓膜が破れるのを防げますから…」
「コマク?ですか……これでいいれふは?」
ロンさんが両手で耳を塞いでパカっと口を開く。
「はい、OKです……そのまま待っててね?」
ガサ……
黒く染まった木々の間を抜けて、全身を黒い霧に包まれた四足歩行の獣が周辺の様子を窺いながら歩いて来るのが見えた。ワイヤーロープを仕掛けたポイントへ近づいてくる。
(あと一歩………今だ!)
「そいっ!」
私は気合と共に括り罠のバネ仕掛けのロックをハンマーで叩くと安全装置が小さな爆発音を鳴らして解除される。
──パンッ
『ッ!?』
突然鳴り響いた破裂音に魔物が一瞬硬直する。その一瞬の停止が命取りなんよ♪。 罠師専用アイテムの一つである特殊強化バネを伸長した長さは10m。延ばされていたバネは僅か0.01 秒で元の形へ戻る。その弾性エネルギーが張り巡らせたワイヤーへ伝われば、全てのワイヤーが一気に引き絞られ魔物の後脚を括り上げる。
今回私が【縄術】で木々の間に巡らせたワイヤーは八本。その全てが胴体部分を絡め取り、縛り上げたまま周囲の木々の上へ上へと吊り上げられていく。
──シュル、シュルルルルルルルルルル…キュッ!
『ッ!──グッ!? グルガァアアア!』
木々に引っ掛けて仕掛けた括り罠の先端を、私はタイミングを見計らって勢い良く引く。すると地面に紛らせ張り巡らせたワイヤーロープが収束して魔物の胴体を更に上へと括り上げる。
『ギャガッ!? ガッ、グッ、グガ……』
更に落とし罠の底に繋いだワイヤーを引いてやれば魔物の首に巻き付いていた一本が、吊り上げられて行く魔物の体重を逆に利用してシーソーが傾くように、地面の落とし穴へ頭だけを引きずり込む。
体長5mくらいは有りそうな魔物が、今は胴体を吊り上げられて首だけを落とし穴へ引っ張り込まれた状態になる。ジタバタと足掻いても胴に巻き付いたワイヤーが深く食い込み、お尻を持ち上げられてはどうにもなるまいw
私は右手を伸ばして落とし穴に向かって親指を握り込みながらトリガーワードを唱えた。
「【爆】」
───ボ厶ッ!!!!
「ぴゃっ!?」
落とし穴の中で爆弾が破裂して、お腹に響くような地響きを伴う爆発音が周囲に伝わる。魔物の身体がダラリと力を失った。 詠唱から起爆までほぼノータイムだったね♪ ロンさんの可愛らしい悲鳴は御愛嬌かな。
今日仕掛けた括り罠と落とし穴は11箇所残っている。ちゃっちゃと回収に向かわなきゃ♪
「ロンさん大丈夫ですか?」
ロンさんは頭を失って形を保てなくなった魔物が、その中心部に向かって吸い込まれるように縮んで行くのを茫然と見ている。あの霧みたいなのが収束してオワタさんの言った魔核になるのだろう。
「だ、大丈夫です… 凄いです、ヨーダさん。私達のような小さな種族でもあの魔物を倒せるんですね…驚きました…」
やがて魔物を構成していた黒い霧が集まり尽くすとガサリと音を立てて地面に落ちた。フラフラと近付いたロンさんは厚手の手袋越しにそれを掴んでボーッと見つめている。顔が赤いね…ふふふ、新たな爆弾魔が誕生しちゃったんじゃない?




