前途多難
「ところでやな、真樹のその姿は何なんや?」
私達はとりあえず管理室に用意した椅子に腰掛けて今後の作戦を練る事にした。長机にパイプ椅子を並べてから互いの姿が見える位置に適当に座る。 私が泣き腫らした目で二人を見上げたら、紀雅がこう言って誠と顔を見合わせている。
「二人と違って私はゲーム内から直接連れて来られたから、アバターと同じハーフリング以外の姿にはなれないみたいだよ?」
試しに紀雅にはアバターの姿になってもらった。
誠も影人には問題なくなれる。
私だけはアバターの姿以外になれなかった。
「まあ良いじゃん。私はこっちの姿の方が可愛くて好きだよ?それにさ、これからダンジョンを設定するのに紛らわしいからお互いにハンドルネームで呼ぶ事にしない?」
実は私は身長がコンプレックスになっていた。昔から小さくて可愛い女の子になりたかったのだ。ハーフリングは身長が成人の半分くらいしかないが、動きが俊敏で音を立てずに歩けたりする。足が大きく頑丈で足の裏にはビッシリとお毛けが生えてるから靴も要らない。超経済的♪
「まあ真樹…ヨーダが良いなら構めへんけど…この世界って、ハーフリングとか影人とか居るん?最悪、紀雅…ノーマの吸血鬼なんか下手したら討伐されてまうんちゃう?w」
「ん~、どうなんだろうね。ダンジョン設定が終わったら外も見てみようよ♪私はやっぱり異世界定番の肉串とか食べてみたい!」
「吸血鬼はマスクしときゃバレねぇよ。レントの影人のが見た目ヤバいだろ?服装も皮膚も全身真っ黒だしw」
「せやな〜…もしかして怪しまれんように元の自分の姿に戻れるようになっとるんか?あの神さん、何も説明せぇへんからサッパリ分からんわ…」
「え?二人は何も説明されてないの?」
私はノーマに顔を向けた。ノーマはレントに同意するように頷いている。
「ん?ああ、ただ単に『お前らは死んだ。だからお前らの命は俺が貰った』としか言われなかったな… 最期に真樹に会わせてくれ、って頼んだから真樹を…ヨーダを巻き込んじまったらしい…悪いな、ヨーダ」
何その"黒い大きな玉"みたいな怪しいセリフ。
どうやらあの神様?は男子には冷たいようだ。
「ううん、それは良いよ。お陰で二人を元に戻せる可能性が出来たんだから…二人が居なくなった世界に一人遺されたくは無いし…」
「おいおいヨーダには、まだまだワイらのお守りが必要なんかいなw そやけどワイもまだまだ人生を楽しみたいしな。ちゃっちゃとダンジョン拵えて帰ろうやないの♪」
「そうだな。巻き込んじまったヨーダを早く元の世界に戻してやらなきゃ衣世田のオバさんに怒られちまう」
「その事なんだけどね、こっちで何年経ってても元の世界から連れ出された1分前くらいに戻してくれるって言ってたよ?バグさん…じゃなくて神様だったっけ?」
「はぁ?…そんな人生ニ度美味しいやん♪みたいなんが許されるんけ?ヨーダはともかくオレらは…なあ、ノーマ?」
「俺は野郎に復讐できるだけでも充分だけどな…」
「ちょっとノーマ、怖いこと言わないでよ〜…みんなで元気に帰ろう? 復讐って何が有ったのよ?」
「ああ〜…ちょっとバイト先で揉めたんだわ…その仕返しでホームから突き落とされたっぽい」
「ええっ!?ちょっと何やってんのよ!…けど無事に戻れたら、その犯人を捕まえられるかもしれないわね!よし、私も協力するから捕まえよう!」
ノーマがちょっと驚いた後に苦笑いする。
「ああ…そん時は頼むよ。ま、何にせよ依頼を果たさなきゃな。ダンジョンに配置するモンスターも捕まえに行かなきゃならねぇし、魔素だっけか?それをダンジョンに取り込む方法もまだ調べてないだろ?」
「それな…ダンジョン創るにしてもやで、コアが無きゃどうもならへんし、どうするつもりなん?ヨーダ」
レントが腕組みしながら私を見る。
「あ、コアは外から魔素を一定量取り込めば創れるようになってるらしいよ?だから私達が最初にやる事は外のモンスターを倒して魔核を作る事なんだってさ」
「なんや"魔核"って…ゲームには無かったで?」
「まあ、そこは現実世界との違いなんじゃね?
ゲームだと経験値とジェムになったけど、流石にそれは現実的じゃないもんな」
「確かに…魔物を殺したらお金が落ちるっていうのは無いわよねw う〜…けど私、魔物を殺して解体とか出来る気がしないんだけど…」
「えっ!そんなんワイも嫌やでっ!」
「俺もムリ!…で?魔核って何なんだよ、ヨーダ」
「うん。私も分かんない!アハハハ(笑)」
「「…………」」
◆
ダンジョンの方はとりあえず一通りの設定を終え、私達は夜になるのを待ってから外へ出てみることにした。
「おお~、月がデカいっ!しかも真っ青やんか♪
the異世界って感じするな〜♪」
シャドウマンのレントは月明かりにも照らされる事なく闇に溶け込んでいる。吸血鬼のノーマは外に出るなり「偵察してくる」とか言ってから無数の蝙蝠に分裂して飛んでいってしまった。
「本当にね〜♪ノーマも今頃は月を見てるのかな?
晴れてるからかもしれないけど、メチャクチャ明るくない?」
「せやな。けどコレなら街に行っても気付かれはせんやろ…」
「確かにそうだね。後は人種がどんな姿してるか、だよね~…ハーフリングとか居ると良いんだけど…」
「ワイは猫娘が見たいな♪ 犬耳も捨てがたいけど」
「アハハハハ、そんなマンガみたいな人が居るとは思えないけど、もし居るなら尻尾をモフりてぇ〜♪」
「それな。モフモフは異世界ロマンや♪」
私達は息を潜めて街の正門に近付く、ハーフリングになってる私の足音は全く聴こえない。我が身体ながら便利になったもんよ。何より小さくて可愛い姿になれてテンションも上がる。
もちろん正門は閉じている。だけど特に人が居るような気配はしなかった。警備員とかは置いてないんだね…不用心ですよ?怪しい侵入者ニ名入りま〜す♪
──ヒョイッ
門に沿って月明かりの影になる位置へ移動してから高さ2mくらいの塀に手を掛けようとジャンプしたら、なんと塀の上まで上がれちゃったよ!
「(おいおい、とんでもねぇジャンプ力やんけ。まるで怪盗なんちゃらみたいやったで?どないなっとんねん、その小っさい身体…)」
塀の上であたふたしている私の横に暗い影が湧き出てきた。シャドウマンのスキル【影渡り】だ。レントが私の影を利用して隣りに立った。
「(ね?私もビックリ!本当にゲームの中の設定通りに動けるみたいね。て事はさ[疾駆]も出来るって事じゃん!うはっ、時速100kmで走れたら乗り物なんて要らないね♪)」
「(いやそれ、普通に疲れそうで嫌や…)」
「(シッ!─誰か来たみたい…)」
月明かりに照らされた街の中は路に沿って整然と建物が配置されていて、瓦葺きされた屋根がボンヤリと青白く月明かりを反射している。
どうやら期待していた中世ナーロッパな街並みではないみたい。ちょっとだけ残念だ…ちょっとだけな
正門から延びる幅5mくらいは有りそうな路は舗装されているらしく、路の中心部が緩やかに盛り上がっているのが分かる。道端にはちゃんと側溝らしき物も掘られているみたい。以前映画で見た◯丁目の夕日の昭和初期のような佇まいなんだけど、建物の壁はあからさまに石造りで違和感がハンパない…
通り掛かった二人組は塀の上に居る私達には全く気付く事なく、塀の下に巡らされた路をお喋りしながら通り過ぎていった。話し声が間近に聴こえてくる。
「赫灼の森がまた黒く染まったらしいぜ。このままじゃ木工業も絶望的だ…この先どうなっちまうんだろうな俺達…」
「それなんだがよ、教会の神父さんに"ご神託"が下りたらしいぜ? 闇を祓う使徒を遣わすとか何とかよ…あの黒い霧を何とかしてくれるんなら幾らでもお布施してやるってんだよなぁ。
昨日の神父さんのお説教で言ってたらしいからよ、信心深い知り合いが居るなら聞いてみな?」
「へぇ~、ご神託って言やぁ、確かあれだろ? ぶっきらぼうに"〇〇せよ"とか"△△はやめろ"とか雑な言葉が下りてくるらしいじゃねぇか…前に神父さんが愚痴ってたのたまたま聴いちまったんだけどな?
そんな雑な神様に使徒なんて遣わすって言われてもなぁ…スゲー、ぶっきらぼうな使徒様が来そうで何か嫌だな…」
やっぱりあの神さん、男にはぶっきらぼうなんだね…現地民にまで雑って認識されちゃってる…
「(おいおい、ワイらはどうやら使徒様らしいで? ヨーダ、自分その背格好で天使様やてw 羽の代わりに足毛がぎょうさん生えとる天使様かいな…くくくく)」
「(うっさい、このプリミティブな可愛さが分からない奴はセンス無いんじゃ!そう言うレントは全身黒尽くめだし、ノーマなんて呪われた吸血鬼だよ?センス大丈夫かしら、あの神さん…)」
「(せや!ワイらも人の事言えんやったwww)」
レントは暫くその場で肩を震わせて笑いを堪えていた。




