サテライトダンジョン
私達が井戸の周りで騒いでいる間も、サプリさんが収容所の亜人種達に声を掛けてくれていたらしく、ハーフリングとビッグフット達がゾロゾロと集まって来ていた。
既に日は落ち、入れ替わるように昇り始めた大きな青い月が東の地平へ半分顔を覗かせている。黒に近い濃い群青色に空が染まる頃には、収容所の敷地に差し込む薄い青色の月光が小屋とも呼べないような粗末な長屋に深く濃い影を作っていた。
「やっばり違和感有るな〜、夜になってもあんま暗く感じないのよね…地球と比べたら満月の夜より少し明るいくらいはあるよね、これ…」
月を見上げながら私はブツブツと独り言ちる。
「(だよね…私も子供の頃さ、この青い月を見て『ああ、ここは地球じゃないんだな…マキちゃんどうしてるかな…』なんて思って泣いてたんだよ?)」
そっと近付いてきたモエちゃんが耳元で囁く。まだ他の仲間達には、モエちゃんの秘密は伝えていないので、皆はまだモエちゃんの事を『ジェシー』と呼んでいる。
ジェシー・マッケインは中隊隊長で軍属なので、たぶん今頃ハイドシャイニーに駐屯している国軍は大騒ぎになっているねw などと宣い、本人は全く気にしてないようだ。良いのかそれ?
「(家族より私って…重い!重いよ…モエちゃん)」
「(重くないよ!…酷い、う〜意地悪!…なんてねw
けど坂下の両親も兄キも私の事なんて、悲しくも無かったんじゃないかな…私、貰われっ子だったから…それも私の実の両親が死んで仕方なくって感じだったしね…)」
「(えっ、そうだったんだ…知らなかったよ)」
「(うん。言ってないもんw あ、じゃまた…)」
そう言ってモエちゃんはさり気なく私から離れる。代わりにロンさんがサプリさんを伴って歩いてきた。
「ヨーダさん、歩ける者達は全員集まったそうです。それで…受け入れ準備の方は如何でしょう?」
ロンさんがサプリさんをチラリと見て、ダンジョンの事を伏せる。まあ、サプリさんには説明しにくいよね。時間も無いし…亜人種は合わせて100人位は居そうだ。皆ガリガリに痩せていて、ビッグフットの中には今にも倒れそうな者もいる。急ごう… サプリさんも不安気に私を見てるし。
「今、カカルさん達に先に入ってもらって食事と寝床の準備を任せています。とりあえず今日は簡単な物だけですけどね。私はこれから管理室で細かい設定をしなきゃなので、後はロンさんに任せます。
サプリさん、ロンさんの指示に従って下さい。収容所の皆さんに食事と、これから暫く暮らせる場所を提供します」
サプリさんはまだ不安そうだ。
「食べ物は助かります…けれど私達はここを出て生きて行けるとは思えないのですが…」
「サプリさん、それはこれから説明いたします。と先ずはここから移動しましょう。話しは食事を済ませ、充分な睡眠を取ってからにしませんか?」
髭もじゃの顔でクシャっと笑顔を作り、ロンさんがサプリさんに笑いかける。ロンさんはドワーフになってから、頭一つ分は身長が伸びた。身体もゴツくなり出会った頃の可愛げは無い。
「そうですね…よろしくお願いします。ところでその…何処かに移動するのですか?これから?」
「はい。皆さん、順番に井戸に飛び込んで下さい♪」
「え……い、井戸? そんな、まさか私達を…」
サプリさんが衝撃を受ける。知らなければそうなるよねw ロンさんも良い性格してるよw
「先ずはサプリさん。ちょっと失礼♪」
「え?……わ!はわわわ、た、助け…」
ヒョイッ!
「あ、ああああぁぁ゙あああぁぁぁぁ~…」
ロンさんはドワーフの種族特性【怪力】でサプリさんを抱え上げると躊躇なく井戸へ放り込んだ。容赦ねえな、おいw
「はい、次は貴方です。…ほっ♪」
「お、オラは…ぅおっ!?ぉ゙ぼおおおっ?!」
ヒョイ!
サプリさんと並んでいたビッグフットも両足を掴んで井戸に向かって放り込むロンさん。直径2mほどしかない井戸に身長が2m以上有るビッグフットが吸い込まれるように消えた。
「「「「 …っ?!?!!? 」」」」
それを見た皆からどよめきが起きる。
ダンジョン入口となっている井戸の開口部はその大きさに関わらず生命体で有りさえすれば入れるようになってるからねw 驚くのも無理はないけど、説明無しに放り込むのはどうかと思うよ?ロンさん…
逃げ出そうとしたビッグフット達を捕まえては、ジャイアントスイングよろしく次々と井戸に放り込んでいくロンさん、めっちゃ良い笑顔。とても楽しそうだね…
30分ほどで100人くらい居た亜人種達があらかた片付いた。最後までチョロチョロと逃げ惑っていたハーフリングの子供二人をモエちゃんが捕まえてきて脇に抱えている。ハーフリングの子供は身長が50cmくらいしかない。ジタバタと暴れててもガリガリに痩せて力も無い身体で〈銀髪の悪魔〉に抵抗など出来ようはずもなかった。
「無駄な抵抗をせず、大人しく井戸に入りなさい」
「いゃあああ、たしゅけてーッ、人殺しいっ」
「いやあ〜…止めて〜…ママ〜…うぇ~ん」
泣きながらジタバタと手を動かすハーフリングの子供達。本人達は真剣に怖がってるので申し訳ないが、可愛くて思わず笑っちゃった。
「ロン殿、お願いします」
モエちゃんが泣きわめく子供達をロンさんに渡す。別にロンさんが入れなきゃいけない訳じゃないんだけどね。何となくなんだろね。ロンさん、めっちゃ嬉しそうだし。
「忝ない。では遠慮なく…それっ!♪」
ヒョイ、ヒョイ!
躊躇なく子供達を井戸に放り込む髭モジャ…
どう見ても山賊か何かだな。絵面が酷いぞw
「ではヨーダさん、後はお任せを。お先に!」
「はい。お願いしま〜す」
簡単な挨拶をしてからロンさんも井戸に飛び込んで行った。何だかとても清々しい笑顔を残して…
「さて、私達も行こうか。モエちゃん」
「うん。ところでマキちゃん、ロンさんて結構ヤバい人?めっちゃ嬉しそうに井戸に放り込んでたよね〜」
「え、そうかな?…
(モエちゃんほどヤバくは無いと思うけど…)」
もちろんそれは言わずに胸に仕舞う。
………
……
…
◆
「ほえ〜…これが管理室?何かテレビで見た道路情報センターとか鉄道の管理センターみたいになってるんだね〜…でっかいパネルとか有るし」
モエちゃんを連れて、私は井戸の中に出来たダンジョン管理室に来た。モエちゃんは初めての管理室の中をキョロキョロと物珍しげに見廻している。
「格好良いでしょ〜♪メインになるダンジョン管理室はこんなもんじゃないよ?もっとゴチャっとしてるからw」
「そうそう、それなんだけど。あっちがメイン?って事はさ、このダンジョンはサブになるんでしょ?けどこんなに離れてたらメインもサブも無くない?結局、別のダンジョンになるんだし…」
「ふっふっふっ…あーハッハッハッ…まだまだじゃな、モエちゃん。じゃが良い質問じゃ。先ずはコレを見るが良い。ポチっとな♪」
「なにそのキャラ?誰なのw」
私がコントロールパネルを操作すると、画面が分割されロンさん達が居る階層が表示された。ベルが土魔法で用意したテーブルと椅子にはビッグフットとハーフリング達がチグハグに座って食事している様子が映し出されている。どうやら落ち着いたようね…
「あ!ベルちゃんはあっちに行ってたんだね。スピリットって、いつもマキちゃんの傍に居なくても大丈夫なの?」
「ああ、あれはワシの分身のような物じゃからの♪ふぉっふぉっふぉっふぉ…ぉ゙ほっゴホゲホっ」
「……そのキャラ、気に入ったの?マキちゃん」
「ん゙ん、いや、何となく…スピリットは何も言わなくても私の考えを実行してくれるんだよね。たまに制御不能になるのが玉にキズだけど… 頼れる相棒だよ」
「へぇ~良いなぁ〜私も欲しい(ベルちゃんが…)」
「ん?今なんて?」
「何でもなぁ〜い♪」
モエちゃんのジト目に負けてキャラは元に戻した。 ベルは私がモニターで観てる事に気付いてカメラに手を振る。ベルは私の魂から出た分体だから常に以心伝心。モエちゃんがその姿を見て顔を赤らめ小さく手を振り返している。何だか…
「ね、モエちゃんて現世の私が好きすぎない?」
こっちに来てからモエちゃんから重い感情がベルに向いてるような気がして、ちょっと誂ってみた。
「…うん。…大好き…」
「ぅえっ?!…あ、ありがとうございます…」
「う、うん。アハ、アハハハハ、ちょっと、そんな顔しないでよ。マキちゃん、冗談だよ?冗談(照)」
めっちゃ赤い顔して真面目に返されちゃったよ、思わず照れてお礼言っちゃったじゃん。こりゃ気を付けないと…私しゃ百合百合する趣味は無いんだからね。ちょっとドキドキしちゃったけど…
このネタは封印しよう。なんか地雷っぽい…
………
……
…
私達は微妙な空気になったまま、暫くモジモジしながらも、私は何とかサテライトダンジョンの説明を続けた…
そう、SSRダンジョン[無限回廊]はメインダンジョンから、それこそ無限に衛星ダンジョンを増やせるのだ!しかも、メインとサブのパスを繋ぐ事で何と転移門を設置する事も可能になる優れもの。伊達にお高くはないのだよ!ワッハッハ…
モエちゃんはまだモニターに映るベルを見ている。私は彼女の好きにさせたまま、せっせと新たなサブダンジョン[ヴィエレ] の設定を進める事に集中する事にして、コントロールパネルから各種パラメーターを入力していく。
階層深度はコアを起動してから落下した距離までが目安になるので、このサテライトダンジョンの深さは約50m。もっと深くしたければ一度ダンジョンを閉じてコアを取出し作り直すしかない。
「このサブDは、とりあえずランデブルクの亜人種専用の避難場所にしちゃおっかな…一階層に転移門を設置…行き先はメインの[シャイニー]にしとくか…」
「ねぇマキちゃん、ベルちゃんがヒマそうだよ?そろそろマキちゃんの所に戻してあげないの?」
「サブに入った攻略者は全部、メインに送ってレベリングしてもらおう…んで…あっちの転移門から戻す時は、最下層からしか戻れないように座標を指定して…………」
「マキちゃんてばっ!!!」
「ぅわあ?!…びっくりしたぁ〜…何?モエちゃん。あ、ごめん、集中してて聞いてなかった…どした?」
「んもぅ!ベルちゃんを、ここに戻して!」
モエちゃんが両手を出して催促してくる。指をワシワシ動かし、指の動かし方がちょっとイヤらしい…
「え〜…あんまり変な事しないでよ〜?ベル、戻って来て良いよ〜」
── ポンッ!
画面の向こうに居たベルが消えると同時に私の頭から飛び出してくる。ベルはそのまま、プ〜ンと耳障りな羽音を立てて私の周りを飛び始めた。蚊が頭の周りを飛んでるようで気になる…正直ウザい。
「キャ〜!ベルちゃんだーッ♪」
『ッ?!………』
ベルは即座にモエちゃんに捕まった。頬ずりされたり、撫で回されたり、舐め回されたりしてる……ん?
「ちょ、ちょっとモエちゃん!?
…流石に食べようとするのは止めて…」
「はぁ、はぁ、はぁ…え?何か言った?マキちゃん」
『ッ!…?!………!!』
モエちゃんの瞳の焦点が合ってない!怖い…
ベルもさっきからジタバタと暴れてモエちゃんから逃げ出そうと必死だね。ちょっと我慢しててね?
『─?!』(ガーン!)
「モエちゃん、設定が終わるまでベルと遊んでて良いよ。けど余り無茶はしないでね?」
「分かった〜♪、さあ〜ベルちゃん、遊ぼう〜♪」
『!!!』(ジタバタ(汗))
『裏切り者〜(怒)助けて〜(汗)』と、ベルから思念が伝わって来た。すまん!暫しの辛抱だよ、ベル。アディオス!
モエちゃんがベルで着せ替え遊びを始めたあたりで、漸く設定が終わった。モエちゃんから返してもらったベルは、その日一日私の頭にしがみついたまま離れてくれなかった…ちなみに、ちょっと涎臭かった…




