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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
186年:冬九章「三野の大乱」

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第九十三話 三野の評定

「それでは、評定をはじめる」


 三野之黒犬の、その低い声が、

 あたりに響きわたった。



 三野の本環濠。

 その中心にある大きな竪穴住居。


 ここは、三野臣高彦みののおみたかひこの住居でもあり、

 その造りは大きく、とても広々としていた。


 そこに各環濠のおもだった顔が並ぶ。



――――――――――


 部屋の囲炉裏を中心に、

 左右へ、それぞれの環濠で分かれていた。


 上座から見て右側には、三野の者たち。



「軽い挨拶は済ませたが、我は三野之黒犬みののくろい

 こたび、父上に反旗を翻した」


 その後ろには、

 クロイの環濠の者たち。


 男女を問わず、屈強な身体が特徴的である。



「私、三野之鳴鳥みののなとりは、波多を代表する者として、

 このたびは話をさせてもらいます」


 波多の者たちは、温厚な顔が多く。

 ナトリの言葉に頷いていた。



「此度の戦、タカヒコ様の背を突くがごときもの。

 次第によっては、我らは従えぬ」


 最後に並ぶのは、

 三野の本環濠の古老の一人。


「三野の本環濠、その生活を取り仕切る、

 三野之岩根みののいわね殿にございます……」


 ナトリが、皆に紹介を挟んでくれた。




 その反対側には、名張の者たち。


「名張を治める名張臣白髪なばりのおみしらがじゃ、

 横に並ぶは、那婆理之稲置武なばりのいなきたけである」


 さらに横に、俺とイミコ。

 そのほかの者たちが並んでいる。




 そんな、所狭しと人のひしめき合う竪穴に、

 ひとつだけ空いている場所がある。


 部屋の一番奥、一段高い席。


 それは、数日前まで、

 三野臣高彦みののおみたかひこが座っていた場所。


 まだ、そこへ、

 誰も座ろうとはしなかった。



――――――――――


「はじめに……」


 クロイが声を上げた。


「父上が、阿閉あとじの環濠に入ったと、

 物見からの報告が届いた」


 クロイの告げる事実は、

 あたりには、ざわめきを起こした。



「こたびの戦は、これにて、

 落ち着いたと言えるでしょう」


 ナトリが続けた。


 北に退いたタカヒコが、

 再び、攻め上がってくる可能性もあった。


 そのため、これまでは各環濠で、

 その警戒態勢を解くことができなかったのだ。



「タカヒコ様が、北へ退いたとはいえ、

 三野臣みののおみの座が失われたわけではありますまい」


 本環濠の古老イワネが、声を上げる。


「それどころか、こたびの戦は、

 明らかな三野臣みののおみに対する反逆であろう」


 それは、確かに一理ある。


 戦をするには、

 周りを黙らせるだけの筋が必要となるのだ。


 この場では、それを示す必要がある。



――――――――――


 クロイは答えず、

 代わりに、ナトリが前に出た。


三野臣みののおみは、波多の倉に手を出しました」


 それは静かな声だった。


「信を尽くしてきた波多を、

 先に裏切ったのは三野臣みののおみであります」


「ぐ、ぬっ……」


 イワネは、その言葉に口を閉ざした。


 倉に手を出す――


 それが、何を意味するか、

 ここにいる者たちは誰もが知っている。



「だから、私は、

 父上に槍を向けることを決めました」


「ナトリ様……」


 場の誰かが呟いた。

 その声に、彼を責める色は薄かった。


 タカヒコの、その横暴な振舞いは、

 この場の誰もが知っているところなのだろう。


 ナトリは、先に踏みにじられた側である。

 その言葉には筋が立っていた。



――――――――――


「兵を起こした我らも、

 決して、父上を憎んでの事ではないぞ」


 続いて、クロイも声をあげた。


「我は、三野を残すために兵を出したのだ」


「クロイ様、それは……」


 イワネが身体を向けた。


 その視線には、まだ、

 クロイを主筋の者として見る色があった。


 タカヒコに尽くすというよりは、

 三野の本環濠を守る者なのかもしれない。



「あのまま、父上が波多を奪い上げたなら、

 その禍根は深く、後に三野を潰すことになる」


「だからと言って、クロイ様、

 名張などに三野の環濠を明け渡す気ですか」


 やはり、気にするのは、

 そこだろうな。


 さて、それなら、俺の出番かな。



――――――――――


「ちょっとお待ちください、イワネ殿」


 俺は、片手をあげて声をあげる。



「名張は、三野の環濠を、

 奪いに来たわけではありません」


 まわりの視線が、一斉に俺に集まった。


 まだ年端もいかないわらべが、

 いきなり会話に入ってきたのだから当然だ。



「おぬしが、噂の……名張のわらべか……」


 イワネが視線を向けてくる。


 まわりの三野の者たちも、

 不気味な物の怪でも見るような目であった。



「なにをふざけたことを言うか、

 現に、今も、こうしておるではないか」


 イワネが、俺にむかって叫ぶ。



「名張は、クロイ様と、

 その意志を同じくする者として……」


 ちらっとクロイに視線を向けると、

 案の定、穿つような視線を俺に向けていた。


 立場は味方のはずなのに、

 どうにも、信用が足りてないらしい。

 

「三野が割れていくのを見過ごせず、

 争いを止めるため、その間に入ったのです」


「そんな言葉、信じられるものか」


 イワネは、前のめりとなる。



「それでは、おぬしらは、

 三野の環濠を手放せるとでも言うのか」


「もちろんです」


「はっ……」


 イワネの感情が、

 その、行き場を失った。


「今、なんと……」


「繰り返しますが、

 名張は、三野の環濠を、

 欲しているわけではありません」


「えっ……」


 そんな俺の言葉に、

 ナトリも驚いた表情を浮かべる。


 そういえば、事前の取り決めの際、

 ナトリは勘違いをしたままだったかな。


「で、では……何を望むのですか?」


 思わずといった様子で、

 ナトリの方から質問の声があがった。


 事前の取り決め、密約などの、

 余計な話に触れないのはさすがである。




「名張が求めるのは、

 互いに争わず、


 明日の糧を脅かされぬ暮らし」



 ゆっくり、まわりを見渡す。



「それは、つまり――


 道です」




 そんな俺の言葉に。


 あたりは、しんと静まり返った。


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