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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
186年:冬九章「三野の大乱」

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第八十七話 ★高彦:勝利を告げる煙

◇ 【三野臣高彦みののおみたかひこ】視点 ◇



 ついに、戦いの火蓋が切られた。


 丘の下から、クロイの兵が駆け上がってくる。

 迎え討つように、我が兵も槍を構えた。



 風が鳴る。


 草が揺れる。


 兵どもの息が、

 ひとつの獣のように荒くなる。



――――――――――


「矢を射かけよ。敵を寄せつけるな」


 弦が鳴り、矢が空を裂く。

 幾重もの矢の雨が丘に降りそそぐ。



「矢が来るぞ、盾を用意」


 クロイの号令で、

 兵たちは、頭上高くに盾を掲げる。


「こちらも矢を撃ち返せ」


 前衛が矢を受けながら、

 後衛が、必死に矢を撃ち返してくる。



「ふむ、よく訓練された動きだ……」


 だが、こちらは丘の上。

 あちらは丘の下。


 矢の届く力も、狙える場所も、

 地の利によってまるで違ってくる。



「左の弓持ちを、さらに外へ」


 すこし離れたところでは、

 フクロウが、伝令を走らせている。


 将の声は大きくなければならぬ。


 だが、大きな声だけでは、

 細かな動きまでは伝えきれない。


 細かな声を、必要なところへ走らせる。


 それで、初めて陣は動くのだ。



――――――――――


 矢の射かけ合いが続いた。

 だが、お互いに倒れる兵は少ない。


 時間だけが過ぎていった。


 クロイは機を伺っているのか、

 慎重すぎるほどに、その距離を取ったまま。



「この距離の矢では、

 互いに、決め手には欠けるが……」


 だが、それもよい。


 こちらは上、あちらは下。


 盾を上げさせ、足を止めさせ、息を乱れさせる。

 立たせておくだけで兵は疲れていく。



 また、倒れる者は出ていないが、

 負傷する者が見てとれる。


 もちろん、クロイの兵に被害は大きい。


 さらに時間が過ぎるほどに、

 我と、クロイの軍の差が開いていく。


 時間は、こちらの味方だ。



――――――――――


 そんな時。


「む、陣形を変えてきたか」


 クロイの兵が、中央に集まっていく。


 盾持ちを一箇所に集め、守りを固め、

 力任せに抜けるつもりだろう。


 前方からの弓に対して、

 たしかに、それが正しい判断だろう。


 我が、何も手を打たぬのなら、だがな……。



「弓持ちを、左右へ広げて、

 側面に弓が通るようにせよ」


 正面を守れば横が薄くなる。

 横を守れば、前が鈍る。


 我が、その選択を強いた時点で、

 すでに勝ちが決まったのだ。



「くっ、左右にも盾をまわせ」


 クロイの悲痛な号令が丘に響きわたる。


 前方から、左右にも盾持ちが広がる。

 それは貝のように身を固くした。



「馬鹿め、それでは前へ出られまい」


 我は笑った。


 盾を固めれば足は鈍る。

 足が鈍れば、丘を登れぬ。


 耐えるだけでは、

 いずれ、兵の息が切れる。



「惜しいな、クロイ」


 将としての器はあろう。


 だが、兵が足らねば、

 どうにもならぬ。


 戦は、知恵だけでするものではない。


 兵の数、兵の腹、兵の足。

 そして地の利。


 それらを整えた者が勝つのだ。



――――――――――


 陽が、傾き始めるころまで。


 派手な突撃もなく、

 槍と槍が噛み合うこともなかった。


 互いに矢を射かけ、

 盾を上げさせ、また射かける。



「つまらぬ戦だ……」


 だが、勝つ側にとっては、

 つまらぬ戦ほど、ありがたいものはない。



 クロイの陣は崩れていない。

 だが、削れていた。


 兵は疲れ、血が流れている。


 それに比べ、我が軍の槍持ちは、

 その体力が温存されている。


 怪我をしている者すら、いない。



「そろそろだな」


 あとは最後のひと押し、

 我が、槍持ちの総突撃にて崩れるだろう。


 思ったより、あっさりと終わりそうだ。


 我は、最後の号令をかけるため、

 手を上に掲げる。


 その時――



「なんだ、あの煙」


 兵たちの間から声があがる。


「煙……昼に見た、

 あの細い煙のことか?」


 我は、丘の上から、

 地平のむこうに視線をむけた。



 違う。


 場所が違う。



 昼の煙は、波多の環濠より外れ。

 その高みから上がっていた。


 それは細く白い煙、

 なにかを伝えるための煙だった。



 だが、今見える煙は、もっと遠く。



「あの方角は……」


 三野の本拠となる環濠……。


 我の、治める環濠だ。



「それに、あの色は」


 細い合図に用いる煙ではない。


「黒く、太く……濃い煙……」


 あれは、物の焼ける煙だ。




「フクロウっ」


 煙から目を離さずに大声で呼んだ。


「はっ」


「あれは、どこだ……」


 フクロウは、

 すぐには答えなかった。


 その沈黙が、妙に長く感じられる。



「我らが環濠のように見えます」


 瞬間、丘に強い風が吹いた。

 丘の草がざわりと鳴る。



 丘の下では、クロイの兵が、

 まだ盾を固めている。


 その、さらに向こうには、

 波多の兵の姿もある。



 そのはるか遠くで。


 我らの環濠から、

 黒い煙が、上がっている。


 物の焼け、村が焦げる、

 あの濃い煙が立ち昇っていた。



 我は、今、なにと戦っているのだ――


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