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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
186年:冬九章「三野の大乱」

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第八十五話 ★高彦:丘上の布陣

◇【三野臣高彦みののおみたかひこ】視点◇



 波多の環濠より北。

 その小高い丘に、我は兵を並べていく。


 急ぐ必要はない。


 百の兵を乱して走らせるより、

 ゆっくりと、確かに陣を整えるほうがよい。



 槍持ちを前方に厚く固め、

 弓持ちを後ろ、小高い丘に上げる。


 左右には、足の速い若い者を散らす。


 丘の斜面には、所々に草と低い木があり、

 そこへ、弓持ちを置けば、下からは狙いづらい。


 逆に、丘の上からは狙いやすい。



 丘の下では、三野之黒犬みののくろいの兵が動いていた。


 その数、五十ほど。


 こちらの半分。


 それでも、クロイに従う者だけあって、

 ただの寄せ集めではない。


 その陣形に並ぶ足取りからも見てわかった。



 だが、よく見える。


 丘の上から、クロイの陣容のすべてが、

 手に取るように見えている。


 どこに兵を厚く置きたいのか。

 どこを薄く見せたいのか。

 どの道を空けて、こちらを誘いたいのか。


 丘の上から陣容が覗ければ、

 その、思惑までが自然と見えてくるのだ。



 戦において、高い場所を取るということは、

 ただ、弓が届きやすくなるというだけではない。


 だから、我は、ここに先に陣取った。



 クロイにも、それは分かっているはずだ。


 兵の数で劣り。


 さらに地形によって、

 陣形においても不利を負うことを。


 だが、クロイには、

 どうすることもできないのだ。


 そうなるように、我が、機を見定めて、

 ここまで進めてきたのだから。



――――――――――


「今のうちに、攻めかけてはいかがでしょう」


 三野之梟みののふくろうが横に来て、静かに言った。



「クロイ様が、波多と合流する前に叩けば、

 数の利はさらに大きくなります」


 我は、丘の下を見て笑ってみせる。


「波多の兵など、三十ほどよ」


「はっ」


「それも、腹を減らした弱兵……、

 そんなもの、合流させてしまって構わん」


「おっしゃる通りで」


 フクロウは黙って頭を下げた。



 この男は分かっている。

 ただ、あえて聞いてくるのだ。


 我の思惑を言葉にさせ、

 まわりの者にも、その意図を知らせるために。


 こういう役目も、まあ、大事よのう。



「我らは、この丘で奴らが出てくるのを待つ」


 我は告げた。


「丘を駆けのぼる奴らを、弓で削る」


「やつらの槍が、我らへ届く頃には、

 兵の差は、さらに圧倒的となるだろう」


 丘の下では、クロイの兵が、

 横へ長く伸びていく。


 普通に考えれば、

 矢の被害を散らすためのものだが。


 クロイは、そんな単純な男ではない。


 こちらの形を見ながら、

 なにかしら、揺さぶるつもりなのだろう。



 だが、甘い。


 そんなことで判断を見誤るものか。


 この状況、手堅く進めれば、

 我の勝ちは堅いのだ。


 さすがのクロイであっても、

 この時点で、すでに状況が悪すぎる。



――――――――――


「もし、クロイ様が、この丘を避け、

 我らの本拠である環濠へ向かわれた場合は」


 フクロウが、また問うてくる。



「そんな愚行、クロイがするとは思えんが……」


 我は、丘の下の陣を見る。


「あやつが我らの本環濠へ向かえば、

 望み通り、背後から押し潰してくれよう」



「陣形は丸見えなのだ」


 我は指を伸ばし、丘の下を示した。


 フクロウだけでなく、

 近くにいた兵たちも視線を下へ向ける。


「我らを誘うための罠の構えなのか、

 本当に三野の環濠を目指すのか、

 その違いも、ここからなら一目瞭然だ」


 一方的に相手の陣形が見られる。


 それはつまり相手の動き、

 その意図の先まで見て取れるということだ。



「タカヒコさま、あれを……」


 フクロウが丘の下に指を向ける。

 クロイの陣から、数人が進み出てきた。


 中央には黒い衣。


 三野之黒犬みののくろいだ。



「ほう……」


 我は目を細める。


 クロイは、こちらへ、

 まっすぐ登ってくるわけではない。


 我らの矢が届かぬ、

 ちょうどよいところで足を止める。



「我も出るぞ」


「良いのですか……?」


「会戦の前に、互いの言葉を交わす、

 一種の儀のようなものだ……」


 古くからの慣わしのひとつ。


 最近では、戦のことばかりに気を取られ、

 そんなことをする者も減ったが。


 誰と、誰が戦い。

 そこに何を懸けるのか。


 それらを敵味方の兵の前に示す場だ。


 さすが、ナトリとは違う。



 我も、フクロウと、

 数人の護衛を連れて丘の縁へ進んだ。



――――――――――


「父上」


 丘の下から、クロイが大きな声を張り上げた。


「来たか、馬鹿息子め」


 丘の上から、我も声を張り上げる。


 互いの声が聞こえる距離。

 だが、矢は届かない距離である。



 この会戦前の儀において、

 愚かにも油断して討ち取られる者なども、

 過去には、いくらでもいる。


 その点、さすがはクロイ。


 遠すぎず、近すぎない、

 実にちょうどよい距離を取る。


 腹立たしくなるほどに、

 よく測っている。


 実に愉快だ。



「フクロウ」


「はっ」


「弓を下げさせよ。

 だが、弦から指は離させるな」


「御意」


 兵たちに、静かな緊張が走る。



――――――――――


 我は、さらに一歩前へ出る。

 丘の風が、我の衣の裾を揺らしていた。


「父に、その爪を向ける前に、

 言うべきことがあるなら聞いてやろう」



 クロイは、丘の下から見上げてくる。


 怯えるでもなく。

 怒るでもなく。


 ただ、こちらを測ろうとする目。



 アラカの目には、父である我に、

 尊敬の意がこめられていた。



 だが、クロイの目には、

 それが微塵もない。


 昔から、あの目が、

 気に食わなかったのだ。


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