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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
186年:冬九章「三野の大乱」

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第八十二話 ★高彦:戦の準備をせよ

◇【三野臣高彦みののおみたかひこ】視点◇



「皆、迅速に戦の準備をせよ」


 我の号令に、

 竪穴の者たちが一斉に頭を垂れる。


 次の瞬間には、

 三野が慌ただしく動き始めた。



 いつ見ても、この瞬間は胸がすく。


 誰もが無駄なく最大限に動く。

 それを実感できる瞬間だ。



――――――――――


ふくろうはいるか」


 我が呼ぶと、火明かりの端から、

 ひとりの男が姿を現した。



 三野之梟みののふくろう


 古くからの側近である。


 武の者ではないが、

 夜の音を拾い、人の顔色を読む。


 環濠の隙間に入り込むような男だった。



「波多のほうは、いかようだ」


「予定より、波多の環濠は安定しております」


 それは、本来ありえないことだ。


 波多の腹を細らせ、こちらを仰がせる。

 そのつもりで、倉から取り立てたはずなのだ。



「名張より、波多に品が持ち込まれたとか。

 食べ物に、薪などを幾らか……」


 また、名張か。


 最近は、何をするにも、

 その名を耳にする。


 三野の地で好き勝手な振る舞い、

 実に腹立たしい限りだ。



「三野の名を冠するナトリが、

 名張ごときに施しを受けるなど許されぬ」



 三野之鳴鳥みののなとり


 豊穣な波多の筋を引く者。


 かの地を手にするために、

 わざわざ、波多の娘を側室に迎えた。


 アレは、大した器量もない女だったが。


 その腹に生まれた息子も、槍ひとつ満足に持てぬ。

 鈍く、愚かな息子だった。


 それでも、波多の倉を得るために、

 これまで泳がせてきた。


 それを、いきなり横から、

 名張などに奪われてたまるものか。




「まずは、波多の環濠を囲む」


「はっ」


「それから話を聞くとしよう。

 あの腑抜けに、我と戦う器量はあるまい」


 話し合い、と言葉にすれば、そうなる。


 だが、兵に囲まれた環濠で交わす言葉など、

 ただの言葉ではない。


 服従して、全てを差し出すか、

 抵抗して命を捨てるか。


 それを選ばせるための場に過ぎない。



――――――――――


 戦の支度を整えて外へ出ると、

 吐く息が白かった。


 まだ、冬の寒さが残っている。



「クロイには、使いを出したか」


 その名を口にした瞬間、

 まわりの兵たちが緊張に固まった。



 三野之黒犬みののくろい


 アラカを失った今……。


 三野の前に立つべき男のはずが、

 我の呼び出しに応じなくなっていた。



「二度にわたり使いを出しましたが……」


 フクロウが、わずかに間を置いた。

 その時点で答えは分かっている。



「返事は、ございませぬ」


 竪穴の奥で、誰かが息を呑んだ。


 我は、そちらを見ない。

 まわりに怒りを見せすぎてはならない。


 怒りは刃だ。

 見せる時を誤れば、自分の手を切る。



「ならば、クロイも待っているのだろう。

 我が波多へ向かうのを」


 クロイは見ている。

 波多を、詰めにいく我を。


 ナトリが動き、波多がどう揺れるかを。

 そのうえで、自分の兵を動かすつもりなのだろう。



 実に腹立たしい息子どもだ。


 だが、クロイは、

 我が子ながらに油断もできない。


 幼いころから小賢しいヤツだった。



「それにしても……、

 こうも揃って息子に嫌われるとはな」


 おもわず自嘲の笑いがこぼれた。


「我に槍の才能はあっても、

 子育ての才はなかったようだな……」



 ふと、空を見上げると、

 今は亡き、アラカの顔が見えた気がした。


 我の前で槍を振るうことを誇った、

 武の道に生きた息子。


 そのアラカは、もういない。



 ならば、作り直すだけだ。


 腐った根を掘り返し、従わぬ者を一掃する。


 そのうえで、

 また新たな子をこさえればよかろう。



「三野は、我が作り上げたのだ」


 代々の地ではある。


 だが、この我が整え、最大限に引き上げた。


 いずれは、北の阿閉を飲み込み、

 西の三輪を制する。


 その予定だったのだが。

 まあ、また、我の手で立て直すだけよ。



「兵を百、動かし、

 三野の本環濠には十五を残す」


 フクロウの目が、わずかに動いた。


「十五のみで、ございますか?」


「波多のむこう、黒犬の兵もまとめて、

 相手にするやもしれぬ」


「御意」


それ以上、言わなかった。



――――――――――


「それでは皆の衆、

 これより、波多へ向かう」


 まわりに聞かせるように声を張った。


 準備を整えた兵の列が、

 大きくざわめく。



「愚かな息子どもに代わり、

 我、三野臣高彦みののおみたかひこが直々に戦を見せてやろう」


 歓声が湧き上がる。


 戦の前の、この昂り。


 いくつ歳を重ねようとも、

 最高の刺激である。


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