表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
185年:秋八章「実りの名張」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
84/114

第八十話  隠の火種

 ナトリの使者の来訪から、

 一夜が明けた。



 まだ、薄暗い朝方。


 東の山の端が白みはじめ、

 名張に薄い朝日が落ちはじめるころ。


 環濠の橋のそばに、

 コダカ、ワカバ、カゲハの姿があった。



「よろしくお願いいたします」


 波多の使者として、

 コダカが、深く頭をさげる。


「こちらこそ頼んだ」


 名張の村長として、

 シラガが、返事をした。



 波多との話し合いは、

 おだやかな、まとまりをみせた。


 だが、この瞬間も、那婆理なばりの民たちによる、

 村周囲の警戒を怠っていない。


 それ以外の村の者達には、

 今も、事情を知らせていない。


 早起きしている村人たちは、

 今、一時的に橋から遠ざけていた。



 最後まで警戒を解かない。


 今は、それでいい。



――――――――――


「こちらの籠をおもちください」


 俺の言葉を合図に、

 三つの背負い籠が運ばれてくる。


 中にはあわひえ、豆。

 それに乾いた薪が入っていた。



「これは……いったい……。

 昨夜の話では、まだ助けはないと」


 コダカの目が見開かれる。


 波多と、名張が繋がったことは秘密である。

 だから三野之鳴鳥みののなとりに助けは出せない。



「これは、ナトリ殿にではありません」


 俺は静かに言った。

 その後、シラガが一歩前に出る。


「これはわしから、コダカ殿へ、

 昔から知る者へ、個人的に渡すものじゃ」


「私へ……ですか……?」


 コダカは目を丸くした。


 あくまで、名張臣白髪なばりのおみしらがから、

 古くから知る波多之古鷹はたのこだかへ渡す、

 個人的な贈り物という形をとる。


 そういうことだ。



「冬は容赦がありませんので。

 環濠の火を絶やさず、どうか、ご無事で……」


 俺は後ろから声をかける。


 それは、波多の環濠、

 すべてを救えるほどの量ではない。


 それでも、冬の厳しさを、

 凌ぐための足しにはなるだろう。


「かたじけない……ッ」


 コダカは、深々と頭を下げた。


「ナトリ様に、よろしくお伝えください」


「必ずや……」


 コダカは、震えを押し殺すように頷いた。



 それから、波多からの使者たちは、

 名張の環濠の橋をわたり、三野へと帰る。


 人目を忍びながら、山を越えての、

 厳しい道のりとなるだろう。



――――――――――


 遠ざかっていく三人の姿を、

 俺は、見送る。


 そんな時、冬を告げる、

 肌に刺さるような冷たい風が吹いた。



「これでよいのだな」


 後ろのタケが、小さく呟いた。


「これが名張のためですから」


 コダカに渡した冬を越える助けは、

 同時に、三野を割るための布石である。



 シラガから、コダカに対する、

 個人的な贈り物だろうと。


 そんなものを三野臣みののおみが見逃すわけもない。


 量ではない。


 名張が、波多の火を絶やすなと渡した。

 その事実こそが重いのだ。


 そうすれば、どうなるか……。

 それは火を見るよりも明らかである。



「さすがに胸が痛むのう……」


 シラガは、背中を向けたまま溜息をつく。

 ひとつの村長として思うこともあるだろう。


「助けとしては確かなものを渡してます。

 あとは、ナトリ殿次第ですよ」


「そうじゃな」


 名張がひとつの環濠として生きてるように。

 波多も、自分の足で地に立っている。


 手にあるものを、どのように活かし、

 目の前に転がる機を、活かすも殺すも。


 あとは、長の責である――



――――――――――


 動きがあるのは、おそらく来年の春。


 雪がゆるみ、道が開き、

 飢えの厳しさが表へ出始める頃。



 三野に送った小さな火種が、

 どのように、燃え広がるのか。


 あとは、ゆっくりと見させてもらおう。



 火は、三野へ渡った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ