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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
185年:秋八章「実りの名張」

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第七十七話 三野の波多の命運

「状況は理解しました」


 縛られたままの波多之古鷹はたのこだかと、

 俺は、向かい合った。


 縄を解くには、まだ早い。


「それでは要件を伺いましょう」


「感謝します」


 縛られたまま、

 コダカは、頭を深く下げた。



――――――――――


「三野のアラカ様が名張に討たれたあと、

 三野臣高彦みののおみたかひこ様は、激しくお怒りでして……」


 それは予想通りである。


「失った兵、糧、面目……、

 それらを取り返さねばならぬと……」


 コダカの声は掠れていた。



「そこで、次男にあたるクロイ様が、

 お諫めになられたのですが……」


 三野臣みののおみは、名張侵攻の敗北に対する、

 落とし所を定めなければいけない。


 そこに、周囲との軋轢あつれきが生じるのは、

 まあ避けられないだろう。



 すると、次は、


 誰に、貧乏くじを引かせるかだ――




「それで、ナトリ殿は?」


「ナトリ様は、波多の倉を前に、

 このままでは村が持たない嘆いております」


 そうとうな糧を、搾り取られたのだろう。


「波多の環濠は、もとより、

 このあたりの農を担う要地じゃからのう」


 シラガは、羨ましそうな声をあげる。


 誰の目から見ても、

 欲しくなる土地だということだ。



「なるほど……」


 腹違いの男児となるナトリ、

 本来なら争いの火種になる存在だ。


 それでも、三野臣みののおみが波多を血族に取り込んだのは、

 波多の環濠の倉を狙ってのことだろう。


 本来なら、もっと時間をかけて血筋ごと、

 三野に取り込むつもりだったのかもしれない。



 それが、今回の戦の敗北。


 その責を押し付けることにより、

 一気に、波多を取り上げることができると。



「名張攻めの際にも波多の環濠が、

 人も、糧も……もっとも多く出したのです」


 コダカが、口惜しさに満ちた声をあげる。


 それらの持ち出した物資から刃を向けられた、

 名張側からすれば、複雑な気持ちである。



「それなのに、タカヒコ様は、

 本家の威信を立て直すためと称し、

 さらに、多くを取り上げていかれました」



 ほう――


 これは、思った以上に深い。



「おつらいですね、それは、いかほど……」


「冬を越すのに……事欠くほど……」


 隣で、ワカバが喉を鳴らす。

 その表情には悔しさが滲み出ている。


 かなり怒り心頭といった様子。



「これを機に、三野臣みののおみは、

 波多の、肥沃な地を取り上げようとしてると……」


 俺は、小さく呟いてみせる。

 コダカは無言で頷いた。


「このままでは、波多の民が飢えます」


「それはそれは……」


 それは、三野臣みののおみにすれば好都合だろう。


 名張との戦の尻拭いができるうえに、

 波多の肥沃な地を、三野の直轄にできるのだ。


 一石二鳥、いや……三鳥か……。


 三野臣高彦みののおみたかひこ、えげつない手を打つものだ。



「ゆえに、ナトリ様は、

 名張へ、言葉を届けよと命じられました……」


 コダカは、土へ額を近づける。


「こたびの戦で刃を向けておきながら、

 身勝手な話ですが、どうか、波多をお助け下さい」



「はてさて……」


 これは想像以上の良い流れだ――


 三野臣みののおみが怒るのは読めていた。

 そこで、内部が割れる可能性も考えていた。


 だが、ここまで大きな亀裂が、

 冬を越す前に入ってくるとは思わなかった。


 いや、もとよりあった亀裂が、

 ここにきて致命的に深まったというべきか。



 まあ、どちらにせよ――


 三野臣高彦みののおみたかひこに、そこへ、対立する三野之黒犬みののくろい

 それらとは別に、名張に助けを求める波多之鳴鳥はたのなとり


 三野が、三つに割れるのは、

 名張にとってはあまりにも大きい。


 おもわず緩む口元を、俺は引き締める。



――――――――――


「それで、ナトリ殿は具体的に、

 名張に何を求めておられるのですか?」


 わかりきったことを問いかける。


「冬を越す、助けを……」


 頭を深々と下げるコダカの声からは、

 無念の色が、ありありと滲み出る。


 このような物乞い、誇り高い筋にあるほどに、

 たいそう口惜しいことであろう。



「つまり、名張の倉を開けと……」


「恥ずかしい限りですが……どうか……」


 本来はコダカが……、

 波多が、恥じることではない。


 すべては三野臣みののおみの失策であり。

 その尻拭いを押し付けられた結果なのだから。


 だが、現実は残酷である。


 力を持たずに富だけもつ者は、

 格好の獲物……当然、奪われるのだ……。


 一歩間違えれば、

 名張が、こうなっていたのだ。




「糧を分けられぬとは言いませんが、

 それを決める前に、聞くべきことがあります」


 俺は、コダカを品定めするように見る。


「波多の環濠の位置、その倉の数……。

 それに、三野臣みののおみとクロイの兵について……」


 焦らすように一拍。


「それらを聞かせてもらえるのならば……」


 隣のワカバが息を呑む。

 カゲハの目が、わずかに鋭くなる。


「それは、ご助力いただけると、

 お言葉を賜らねば、申すことはできませぬ」


 まあ、そりゃ、ここは慎重だな。


 ただ、情報を売る覚悟も、あるということだ。



――――――――――


「ここで助けると言えば、

 名張の倉を開くことになるぞ……」


 シラガが低く言った。


 名張は、豊作だったとはいえ、

 さすがに他の環濠を助ける程ではない。


「だが、断れば、波多の民は、

 この冬の寒さに沈むやもしれぬ……」


 シラガは続けた。


 古くから同じ土地に根付く者達。

 その命、無駄に失わせたくないのだろう。



「だからといって、敵に糧を渡すのか?」


 タケが言う。


「暖かくなれば、腹を満たした波多が、

 三野の兵と並んで攻めてくるかもしれんぞ」


「そうですねぇ……」


 あたりに沈黙が落ちる。

 炉の火が、灰の奥で赤く息をしていた。




 助ければ、波多を通じて、

 三野にくさびを打てる。



 断れば、波多は冬のうちに沈むだろう。

 あるいは三野臣みののおみに擦り潰される。



 だが、波多の話自体が……、

 この名張に売る情報自体が罠だった場合。


 名張は、三野に飲み込まれかねない。



 これは大きな機でありながら、

 それと同時に、危うい火種でもある。


 はてさて。


 いったい、どうしたものか――


三重県には過去に「美濃波多村」があり。

また、地名として「美旗」があります。


その由来として、三野の波多。


つまり、将来的に「三野」と「波多」の筋がひとつに統合されていく未来を考えてます。(「卑弥呼転生」における創作部分です)

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