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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
185年:秋八章「実りの名張」

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第七十五話 冬支度の名張

◇【イミナ】視点◇


「さて、行くか」


 早朝の山の小屋で、

 俺と、イミコは荷づくりをしていた。


 土器、火切弓、干した薬草。

 栗の袋に、替えの衣。


 冬のあいだ、

 俺たちは、山の小屋を離れる。


 名張村の竪穴住居で暮らすことになった。



「村で、過ごすの……たのしみ……」


 籠に荷を詰めながら、

 イミコは、頬を緩ませている。


「冬の間だけだけどね」


「うん……でも、みんなと一緒……」


 かつては、恐ろしいだけの季節。

 それが、今ではイミコは胸を弾ませている。


 そんな変化が、なにより嬉しかった。



「あまり浮かれすぎて、転ばないようにね」


「……んっ」


 イミコは、大事そうに籠を背負い直した。



――――――――――


 山道を下り、名張村の広場に入ると、

 いくつもの籠と土器が並んでいた。


 村は、冬支度の最中だった。


「すぐ食べる米には、この黒札。

 春まで残す米には、こちらの赤札を」


 広場の中央では、アサメが、

 忙しなく女衆へ指示を出していた。


 春に火の管理を任せてから、

 アサメは、見違えるほど頼もしくなった。



 火床、食べもの、子どもたち、病人の世話。


 村の内側を支える仕事の多くを、

 今では、彼女が束ねている。


 近頃は、シラガも、

 アサメの言葉によく耳を傾けていた。



「あら、イミナさま、火巫女さま」


 俺たちに気づいたアサメが、笑顔を向ける。


「隠の倉から、今日の分です。

 村へ運ぶ分はこれで最後になります」


 俺は、小さな袋を差し出した。


「ありがとうございます」


 アサメは袋を受け取ると、

 すぐに、赤く焦がした木札を結んだ。


 文字はまだないが、印は作れる。


「札を始めてから楽になりました。

 一目で見分けられますし……、

 口伝えよりも、ずっと確かですから」



「大事が起きる時は、いつも、

 些細な間違いの積み重ねですからね」


 俺がそう言うと。


「本当に、その通りです」


 アサメは苦笑してみせた。

 その目元には、わずかな疲れが見えた。


 皆の見えないところで、

 様々な調整を担っているのだろう。


 その苦労は、外から見えるよりも、

 ずっと大きいはずだ。



 イミコが、そっと前へ出る。


「いつも、ありがとう……、

 みんなで、村、まもっていこうね」


 たどたどしい声だった。

 それでも、アサメは目元を押さえた。


「火巫女さま……ありがたき、御言葉です……」


 村人たちの視線が、一斉にイミコへ集まる。

 温かさと畏れが混じった目だった。



 イミコが村の中心になっていく。


 それは、俺が望んだことでもあるけれど。

 その信仰が日に日に濃くなっている。


 そんなことに、俺は、

 わずかばかりの不安を覚えていた。



――――――――――


 広場を抜けたあと、

 薪を貯める倉へ立ち寄った。


 乾いた木の香りが、

 ふんわりと鼻をくすぐる。



「おお、イミナ殿……ぬしらの過ごす竪穴は、

 もう少し村の奥になりますぞ」


 シラガが笑顔で出迎えた。



「ええ。少し見ておきたくて」


 そう答えて、倉の中を見渡す。


 壁際には割られた薪が積まれていた。


 その他に、細い枝、太い薪、

 火つけの草束が整然と並んでいる。


 冬のあいだ、この薪が村の命を守る。



「ずいぶん集まりましたね」


「村の子らや若衆が、よく働いてくれてのう」


 シラガの声に、隠しきれない誇らしさがあった。


 三野との戦を越えてから、

 村には目に見えて活気が戻っている。


 誰かに命じられるだけではない。

 それぞれが、自分の役割を考えて動き始めていた。



「まきのにおい、すき……」


「火になる匂いだからな」


「ひに、なる……」


 イミコは小さく頷いた。


 火が尽きることの恐ろしさを、

 俺たちは痛いほど知っている。


 だからこそ、積まれた薪の山が、

 ただの木ではなく、命そのものに見えた。



――――――――――


 頭上高くに陽が昇るころ、

 俺たちは、目的の竪穴住居へ着いた。


「あ、イミナさま……火巫女さま……。

 竪穴の支度は整っております」


 ユラが、入口で出迎えてくれる。


 草屋根は厚く葺かれ、

 入口には風除けが設けられ、

 その壁際には乾いた草が敷かれていた。



「これは、ずいぶん立派ですね……」


 冬の間だけ過ごす場所だから、

 簡素でいいと伝えておいたはずなのだが。


 ユラは静かに頭を下げる。


「火の巫女様に、寒い思いを、

 させるわけにはまいりませんから」



「ありがとう、ユラさん……すごい……」


 イミコが目を輝かせた。


 炉の石ひとつ、草の敷き方ひとつ、

 風の入り方まで考えられている。


「にぃに……ふゆ、こわいけど、でも……、

 もう、さみしくないね……」


 胸の奥が静かに熱くなった。


 かつての冬は、泥のような小屋の中だった。


 たがいの体温に縋りながら、

 ただ、朝が来ることを祈っていた。


 それは、イミナの記憶として、

 確かに残っている。



「そうだな」


 だが、今は違う。


 家のまわりに、人がいる。

 分け合えるだけの食べものがある。


 村を守る火がある。



「もう、ひとりじゃない」


 俺は、イミコの頭に手を置いた。


 イミコは、嬉しそうに笑った。



――――――――――


◇【タケ】視点◇


 その日の夜、名張の山中に、

 一陣の風が吹きこんだ。


「なんだこれは……」


 狩猟を続けて、いつもよりも、

 遅くなってしまったが。


 そこに、急に現われた違和感。


 他の那婆理なばりの者達に目配せをする。


 まわりも静かに息を殺す。



 名張の山中。


 みっつの影が、

 よろめきながら歩いている。


 獣にしては不用意であり、

 三野からの襲撃にしては弱々しい。


 そんな、不穏の影が、

 名張の村に向かって歩き続けていた。


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