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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
185年:夏七章「三野の名張侵攻」

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第六十七話 未来を視ること

◇【イミナ】視点◇



 あらかたの評定が終わった。


 竪穴住居のなかには、

 しずかな疲労の痕が落ちる。


 囲炉裏の火は、依然、

 ぱちぱちと音を鳴らしていた。



――――――――――


「評定の始まりに話したとおり、

 このあと、三野が割れる算段が高いです」


「本当か?」


 イワホコが、怪訝な表情を浮かべた。


 長らく対峙してきた相手だ、

 そう簡単に、信じられないだろう。



「確証はありません」


 俺の脳内に「膨大な知識」がある。

 だが、直接の未来を知っているわけではない。


 何故なら、この時代に関する具体的な情報は、

 あきらかに欠けているからだ。



 * * *


 名張を始めとした、

 周囲の村々にも「字」の文化が薄い。


 そのため、この当時の記録は、

 後世に残されてこなかったのだろう。


 だからこそ、今、目の前にいる、

 三野を見なければいけない。


 未来は「視る」ものだから。


 * * *



三野之荒鹿みののあらかは、三野臣高彦みののおみたかひこの実子であり、

 三野を継ぐ者に最も近かった男です」


 三野にとっての「未来、そのもの」であったはず。



「その男が命を落とした、

 名張から、何も得られずに……」


 喪失の悲しさ、受け入れられない現実。

 そんな理不尽な感情をぶつける先を、人は求める。



「名張に侵攻をした兵を率いた者たちを、

 三野臣が責めたくなるのは道理」


 なぜ、アラカは死んだ。

 なぜ、アラカを助けなかった。

 なぜ、三野は、なにも得られなかった。



「同時に、彼らの取った判断が正しかったことも、

 理を持つ三野臣ならば解るはず……」


 俺は、マヒトに視線を向ける。


「三野の兵が、名張の周辺に残っていたならば、

 我らが討ち取っていたことでしょう」


 三輪からの兵を率いてきたマヒトが、

 胸を張って答える。



「三野の兵は正しく判断したわけですが

 そんな、正しさが通らないのが、世の常……」


 人は、正しさに納得するわけではない。


 人は感情に納得するのだ。



――――――――――


「おそらくは、来年の春……」


 俺は、少しだけ目を伏せた。

 年月や季節を言葉で伝えるのは、まだ早いか――


「一度、木々の葉が枯れて、冬を越え。

 また芽を吹き始める頃……その、あたりでしょうか……」



「なぜ、今ではなく……その、春……なのじゃ……」


 俺の言葉にあわせて、シラガは聞き返してきた。

 こういう柔軟さは助かる。


「冬の間は、誰もが耐えるしかありません。

 寒さに人は動きにくくなり、食べるものも限られる。

 だけど、春になれば違います……」


 次の種を、どこへ撒くか。

 失った働き手の家を誰が支えるか。


 名張へ、もう一度向かうのか。

 それとも内を固めるのか。


 色々な選択の幅が広がる、それが春だ。



「そういう時にこそ、戦の古傷というものは、

 痛み始めるものですから」


「戦の古傷……」


 マヒトが息を呑んだ。


 もちろん、単純な槍傷の話ではない。


 国を治めるもの、環濠を担うもの、

 それぞれの長を選ぶ人々の心、


 それらの不安のことだ。



――――――――――


「もちろん、三野臣が、

 賢明に内を治める展開もありえます」


 三野臣が無能であれば、

 とうの昔に潰えているだろう。


 それが世界の摂理である。


 だからこそ、

 迂闊に、敵を侮ってはいけない。


 相手を愚かに見下すとき、

 それは、自分が愚かになっている時である。



「三野臣が、村を鎮める場合、

 そこに相応の時間を要するでしょう。

 ならば、それは、それで構わないのです」


 できれば、そちらのほうが望ましい。



「その場合、三野が内を整えている間に、

 名張は力を蓄えられます」


 戦などせず、交渉と交易により、

 村を発展させるほうが本来は望ましい。


 それが許されないのも、

 また、この世の摂理であるのだが。



――――――――――


「……つまり、どういうこと……?」


 イミコが、困ったように眉を寄せていた。

 俺の口元が自然と緩む。



「これからに備えて、みんなで、

 できる限り頑張ろうねってことだよ」


「……ん……イミコも、がんばる……」


 イミコは、元気いっぱい、

 満面の笑みを浮かべる。


 その一言で、場の張り詰めた空気が、

 驚くほどにやわらいだ。



 難しい策も、冷たい算段も。


 イミコがひと言を口にすることで、

 ぬくもりを取り戻す。


 何のために戦うのか。

 誰のために生きているのか。


 誰もが、それらを思い出す。


 それはなによりも凄いことだった。



――――――――――


 そして。


 俺は、皆へ頭を下げる。



「こたびの評定、これまでとします」



 三野からの名張防衛。

 その戦の後始末、大枠は整った。


 名張は、次に進むとしよう。




「まずは、秋の収穫ですね」


 実りの季節がやってくる。


 名張の村は、忙しくなりそうだ。


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