第四話【壱】 火を守るもの
凍てつく夜を越えた。
小屋の隙間から、細い朝日が射し込む。
だが、その光は弱く、冷たい。
夜が明けても、身を蝕むような寒さは和らがなかった。
「はぁ……」
吐く息は白い――
身体の芯には、夜の冷えが深く刻まれていた。
それでも囲炉裏の火だけは生きている。
灰の底で、赤が、ほのかに息づいていた。
そのかすかな熱だけが、
この凍える小屋に「生の実感」を与えてくれる。
「……にぃに……」
隣で、イミコが目をこすりながら身を起こす。
その顔色は、まだ良いとは言えない。
けれど、昨夜までの土気色よりはずっとましだった。
わずかに血の気が戻り、頬に淡い桃色が差している。
火の温もりは、確実に、
俺たちのことを守ってくれていた。
そのとき。
ぐぅ……。
静かすぎる小屋に、
間の抜けた音が、深く響いた。
イミコの腹の音だった。
「……おなか……ぐぅ、した……」
イミコが、自分の腹を押さえて、こちらを見る。
恥ずかしそうに笑おうとして、
頬がひきつり、うまく笑えていなかった。
その懸命な表情に、
俺の胸の奥が、冷たい氷で締め付けられる。
この子は、これまでも、
こうして飢えをやり過ごしてきたのか――
泣きもせず、誰かを責めもせず、
ただ小さく腹を押さえて。
「食べものを探そう……」
一刻も早く。
「にぃに……?」
イミコが、不安そうに首をかしげる。
「今日は食べものを見つけてくるよ」
「……ほんと?」
小さな声が、震える。
「ああ、安心してよ」
言い切ると、イミコの目に光が戻る。
――――――――――
小屋を出る前にやるべきことがあった。
囲炉裏のそばへ、膝をつく。
火はまだ細い。
けれど、消えてはいない。
俺が、山を探索するなら、
誰かが火を守らなければならなかった。
「イミコ……」
「……?」
「俺が戻るまで、この火、見ていてくれる?」
「……ひ?」
イミコが、ぱちぱちと目を瞬かせた。
「そう。この火が消えないように守るんだよ」
俺は、小枝を一本つまみ、
手本を見せるように囲炉裏へくべた。
バチっと、炎が、わずかに燃え上がる。
「火が小さくなったら、こうやって細い枝を一本だけ。
いれ過ぎないように、一本ずつ……」
イミコは、真剣な顔で、俺の手元をじっと見ている。
その瞳は、炎の動きを追い、
俺の指先の動きを必死に記憶しようとしている。
「……いっぽん、ずつ……」
イミコが、小さく繰り返す。
「そう、火の番……できそう?」
不安そうに眉が下がった。
その視線は、燃える火と、俺の顔を行き来する。
次の瞬間、イミコは小さく拳を握った。
自分に言い聞かせるように。
「……ぅん! ひ、まもる!」
その返事に、胸に張り詰めていた糸が、ふっと軽くなる。
「頼んだよ」
「……ん、まかせて!」
小さな声。
その声には、
確かな決意が宿っていた。




