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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
185年:冬一章「泥まみれの巫女」

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第三話【弐】 火、出づる

「……イミコ、戻ったよ」


 めぼしい木切れの数を揃えると、

 俺は、急いで小屋に戻った。


 薄暗い森は、子供が長く留まるには危険すぎる。


 そして、なにより、衰弱したイミコを、

 一人にするのが心配だった。



――――――――――


「……なに、してるの……?」


 イミコが俺の手元を覗き込んできた。


「火を生む準備だよ」


 俺は、拾ってきた木の枝を削る。


 がり、がり、がり。


 削り出すのは三つ。


 『火きり板』に『火きり棒』。

 そして、棒を回すための『弓』だ。


 頭の中にある膨大な知識から、

 それぞれを用意する。



「こんなもんか……」


 とはいえ、限られた素材、

 どれも粗末な出来の代物が出来上がった。


 だけど、今はそれでいい。

 贅沢を言っていられる状況じゃない。


 今夜を越える。

 今すぐにイミコを温める。


 まずは、それだけ。

 一度限りの消耗品でも構わない。



「よし……」


 火きり板に浅い窪みを作り、

 その外へ向けてV字の切れ込みを刻んだ。


 削れた熱い木の粉を、一箇所に溜めるためである。


「イミコ、乾いた草を持ってきてくれるか?

 できるだけ、ふわふわしたやつ」


「……ぅん! わかった!」


 小屋の入り口近くにある枯れ草を、

 イミコが一生懸命に集める。



――――――――――


 俺は弓を構えた――


 火きり棒を蔓に絡め、板の窪みに立てる。

 片手で押さえ、弓を前後に動かす。


 キリ、キリ、キリ……。


 乾いた木の擦れる音が、薄暗い小屋に響く。

 慎重に全身の重みを乗せ、弓を引く。


 前へ。

 後ろへ。


 少しずつ速く。


 上から押しつける力を強め、

 回転を上げていく。


 削れた木の粉が、

 切れ込みの奥へ溜まっていく。


 茶色から、焦げたような黒へ変わる。



 まだだ。

 まだ、足りない。


 腕が重い。

 息が上がる。


 汗が滲み、視界が揺れる。


 それでも止めない。

 止めたら、せっかく集めた熱が逃げてしまう。


「……っ、く……!」



 さらに速く。

 さらに強く。


 全身の力を、指先に集中させる。

 魂を込めるように弓を引く。


 やがて。



 ふっ、と――


 細い煙が立ち上った。

 焦げた匂いが、小屋に広まっていく。


「……けむり……!」


 イミコが息を呑む。


「もう少しだ……っ!」


 腕は悲鳴を上げていた。

 ちいさな身体には、あまりにも酷な動きだ。


 だが、ここで折れたら終わる。


 俺は最後の力を絞り出して、弓を動かし続けた。


 黒い木の粉の山。

 その奥に。


 じわり、と――


 小さな赤が宿る。



「……!」


 俺は弓を置いた。


 震える指先で、その生まれたばかりの火種を、

 崩さないように掬い上げる。


「……これ……」


 イミコが差し出してくれた枯れ草の束。

 その中心へ、壊れ物を扱うみたいに慎重に火種を移す。


 草でやさしく包み込み、顔を近づける。


 ふぅ……。

 ふぅ……。


 ゆっくり、焦らず。

 命を吹き込むみたいに。


 それから、一瞬、赤が大きく脈打つ。


 次の瞬間――



 ぼっ、と。

 枯れ草の中で小さな炎が弾けた。


「……あっ!」


 イミコが息を呑む。


「……ついた」


 自分でも信じられない声が漏れた。


 俺は、震える手で、急いで火種を囲炉裏へ移す。

 集めておいた細い枝を、一本ずつ、そっと重ねていく。



 ぱち、ぱち、と。


 炎はまだ頼りない。

 けれど、確かに、そこに生まれた。


 赤々と燃える小さな光が、暗闇を押し返す。


「……あったかぃ……」


 イミコが、火のそばへ身を寄せる。

 青白かった頬に、やわらかな赤みが戻っていく。



「……あったかいね、にぃに……」


 その声は、泣きそうなくらいに優しかった。


 俺も、火へ、手をかざす。


 じんわりとした熱が、冷えきった指先から、

 少しずつ身体の奥へ沁みていく。


 たったこれだけのぬくもりが、

 こんなにも命を癒してくれるなんて。



――――――――――


「……にぃに……」


「ん?」


「……わたしたちも、この火みたいに……

 ……きれいに、なれるかな?」


 炎を見つめたままの、小さな問いだった。


 胸の奥が、

 じんと熱くなる。



「なれるさ」


 俺は言い切った、迷いなく。


「少しずつでも、きっと、なれる……」


 泥にまみれて、

 忌み子と呼ばれても。


 こんな小屋で、

 死を待つように生きてきたとしても。


「この火を絶やさなければ、

 俺たちだって、きっと奇麗になれるはずだ……」


「……んっ……」


 イミコは、ちいさく頷いた。


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