第三話【壱】 イミナの声
まだ陽が沈むまえだというのに、
あたりは冷え込んでいた。
小屋に残されたぬくもりは、
俺たちの、その弱々しい体温だけである。
「……ん、ぉいし……」
さっき清めたばかりの水で、
少女は、しきりに喉を潤している。
だが、喉の渇きを癒すほど、さらに身体が冷えていく。
「……さむぃ、ね……」
消え入りそうな、少女の吐息。
その声は震えていた。
「……っ、うぅ……」
少女の震えが止まらない。
唇は青白く、指先から生気が抜け落ちている。
このままでは夜を越せないだろう。
イミナという少年に、イミコという少女も。
二人で寄り添い、幾度も寒さに耐えてきたのだろう。
だが、それは、明日を保証しない。
目覚めない朝が、
いつ、訪れてもおかしくはないのだ。
火がいる――
自分を奮い立たせるように、
できるだけ、優しい声を少女にかける。
「すぐに、あったかくするから……待ってて……」
そう言いながらも、
俺の胸の奥では焦りが渦巻いていた。
頭に流れてきた知識のおかげで理屈は解る。
だが、理解と、実践は別物だ。
だが、今はやってみるしかない――
目の前には古い囲炉裏の跡がある。
ここで、何度も火は起こされてきたはずだ。
なら、できないはずはない。
震える足に、無理やり力を入れて立ち上がる。
目覚めた時よりは身体が動く。
――――――――――
小屋の外に広がる薄暗い森。
まだ、陽は高いのに、
鬱蒼とした木々に空が遮られていた。
ひんやりとした空気が身体の芯まで凍み渡る。
獣の気配に肌がひりつく。
そんな森の中、石のナイフを片手に、
立ち枯れた枝を拾い集めていく。
「軽い……乾いてる……」
これなら摩擦熱を作りやすい。
薪にする小枝に、道具に使えそうな太い木の幹。
その、一本ずつを確かめながら拾い集める。
そして、石の刃で枝を削る。
ぎり、ぎり、ぎり。
切れ味が鈍い――
遠い世界に知る刃物と比べものにならない。
さらに、この幼い身体がきつい。
未発達な指はすぐに悲鳴を上げ、皮膚は擦れていく。
「……痛っ」
指の皮がめくれて、赤い血が滲む。
痛い。
そう感じた瞬間、ふっと――
この身体の奥から感情が噴出してきた。
――なんで、自分ばかり、こんな目に。
俺の声ではない。
イミナだ。
この小さな手足で耐え続けてきた、
声にならない叫び。
(……そうだな)
俺は、手を止めず、その声に耳を傾ける。
この指先の傷よりも、もっと深いところに、
この身体は傷を抱えていたのだ。
誰にも助けられず。
誰にも守られず。
それでも、妹の前では弱音を呑み込んできた。
そんな、ひとりの少年の、
行き場のない怒り。
(……その声、たしかに受け取ったよ……)
お前の抱え続けた苦しみと。
お前が命を削ってまで守ろうとした、妹の笑顔。
(……だから、俺に、力を貸してくれ……)
俺は、歯を食いしばり、最後の枝を削り切った。




