表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
185年:夏七章「三野の名張侵攻」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
69/114

第六十五話 ★武:三人組と笛の声

◇【那婆理之稲置なばりのいなきたけ】視点◇



 せまい竪穴のなか、

 我に、場の視線が集まる。



 口を動かすのは、性に合わぬ。


 野山で獣を追い駆けまわるほうが、

 幾分も気楽なものだ。


 が、あの戦を語るのならば。

 まずは、我から話すしかないだろう。



――――――――――


「名張の川では三野と戦うな、

 ……そう、イミナから言われていた」


 我は、静かに話を切りだした。


「我には、面白くない話だがな」


 自嘲のあまり、おのずと口の端が歪む。



「面白くないとは……?」


 三輪の若造が声をあげた。


「敵と対峙して逃げるなど性に合わん」


「だろうな」


 イワホコが噴き出すように笑っていた。



「だが、逃げてみせねば、

 名張が滅ぶとまで言われたならば……」


「致しかたあるまい」


 その言葉に、場が、しんと静まり返った。



――――――――――


「あの日、名張に侵攻してきた兵、

 その数は百――」


 名張から見れば大軍だ。


「その先頭には、アラカがいた」


 太い腕に槍を担ぎ、

 我を、真っ直ぐ見据えてくる。



「あれは、強い男だ」


 三野之荒鹿みののあらか


 三野では「武の爪」と呼ばれ、慕われた猛者。

 これからの三野を率いるはずだった男。


「正面からぶつかって、

 どうにかなる相手ではない……」


 認めるしかない。

 兵の数も、質も、相手が上だった。



「だから、我らを弱く見せる……、

 その必要があると、そこのわらべが言ったのだ」


 あえて視線を向けて威嚇するが、

 イミナは笑顔を浮かべて、しれっと軽く受け流す。


 こいつ、本当に、モノノ怪の類ではないのか。



――――――――――


「まず、我らは名張の川で十本の矢を射た。

 手傷を負わせることもできぬ、軟弱な矢をな」


 普通の矢は敵を怯ませ、倒すために射る。

 だが、あの十本は違った。


 三野の盾に弾かれるため、あえて、射たのだ。



 名張は、この程度だ――


 そう、相手に信じ込ませるために。



「そこから、アラカは我だけを見始めた。

 我を折れば名張が折れると……」


 それは間違いではない。

 実際、正しい判断ともいえよう。


 正しいがゆえに、

 三野は、兵を割らざる得なかったのだ。



――――――――――


「それから、名張の丘まで退き、

 アラカを待ち伏せた」


 イミナに倣って、

 我も、土の上に小枝で線を引いてみせる。


 川、丘、その奥に繋がる山。



「我が隊が十、シラガの隊が十、

 イワホコの隊が十……」


 地に、小さな円を描いていく。


「我ら那婆理なばりは、アラカを引き寄せる餌だ。

 常に背中の見える程度に駆けた」


 早すぎず、遅すぎず。



「これは、那婆理なばりの民にしかできぬだろう。

 名張を誰よりも深く知るからな……」


 あの日、あの山の匂いが、

 今でも鼻の奥には残っている。


 湿った土。

 踏みしめられた草。


 木々の陰に潜む、仲間の気配。




「しかし……」


 三輪の若造は、戸惑いの表情を浮かべた。


「いかに土地に慣れているとはいえ、

 暗い山中、はぐれる者が出てくるでしょう」



「分かっているではないか、その通りだ」


 この若造、マヒト……と言ったか。

 存外、山育ちの筋の男なのかもしれんな。



「そこで、名張の三人組と……笛だ……」


「三人組と……笛……」


 囲炉裏の火が、ぱちりと鳴った。



――――――――――


「戦の基本は『伍』を組むことだが、

 我らは、さらに細かい『三』を基本とした」


 指を、三本立てる。


「一人が前を見て駆け、一人が仲間を見て繋ぎ、

 一人が後ろの敵を見て警戒する」



「ですが、三人組では数で伍に劣ります。

 勝てる理がありません」


 マヒトは、前のめりになって聞いてくる。

 なかなか熱い男ではないか。



「だから、一人の指導者につき、

 三人組を、三つ率いて動かしたのだ」


 我と、シラガと、イワホコ。


 それぞれが、三つの三人組を率いた。



「三人組を三つ揃えれば、九になる。

 それなら、伍に勝てるのは道理ですが……」


 マヒトの声が、かすかに震えた。


「一瞬で集まり敵を刺し、一瞬で散り森に身を隠す。

 そのような人間離れした業を皆がしたと?」




「そこで笛だ」


 我は続けた。


「我の竹笛、シラガの骨笛、イワホコの石笛。

 それらの音は全てが微妙に違う」


 名張では、あらゆる生活の場に使われ、

 あたりまえになった笛の音。


「だが、三野は、それを聞き分けれない」


 なにか音が違う程度に、

 気付く者は、いたかもしれないがな。



「名張の三人組は、それぞれの音に集まり、

 その音で散っていたのだ」


 あの笛の音は、敵を脅すためのものではない。


「森を駆ける時、はぐれても良いのだ、

 また、笛の下に集まればいいだけなのだから」


 笛の音は、名張を繋ぐ声なのだ。



「我らは日常……狩りに、畑や、木を運ぶ時から、

 三人組で動き、笛に従い動いてきた」


「それほどの高度な訓練が、

 日常の中に溶け込んでいたとは……」


 三輪のオシが、低く呟いた。



――――――――――


「そして、最後に……」


 今でも、目を閉じると、

 あの時の光景が浮かび上がる。


 ずたぼろになりながらも、

 必死に、森を抜け出してきた三野之荒鹿みののあらか



「満身創痍になりながらも槍を振るう、

 アラカは、最期まで見事な武の爪だったぞ」


 アラカは強かった。


 だから、命を落としたのだ――


 三野が弱ければ、あるいは互角程度ならば、

 迂闊に森へ立ち入ることをしなかっただろう。



 全軍を割っても勝てるほどの余裕があった。

 だからこそ、我らを追ったのだ。


 勝てるはずという思い込みが、

 奴らの首を絞めたのだ。



 それが、この戦の本質だろう。



――――――――――


「我からは、以上だ」



「ありがとうございます。

 では、次は……」


 イミナの言葉に。



「うおっほん」


 小さな咳ばらいが、ひとつ。


「わしから、あの夜の三人組と、

 その全体の動きについて話そうかの……」


 皆の視線が、名張臣白髪なばりのおみしらがに集まった。



「次の話は部隊編成について、ですね」


 名張のわらべが、また、

 よくわからない言葉を口にしていたが。


 そのような細かいことを気にする者は、

 もう、どこにもいなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ