第六十四話 ★真人:土のうえの空論を語る
◇【三輪之真人】視点◇
「どのように、三野を退かせたのですか」
私は、思わず聞いてしまった。
「三野は百。名張は三十。
まともに戦って勝ち目はないはず」
それは、三輪へ報告するためでもあるが。
なにより私自身が知りたかった。
――――――――――
「正面からぶつかれば、
一刻ともたず、名張は負けたでしょう」
イミナ殿の小さな手が、
小枝を取り、土の床に線を引き始めた。
「だから、三野の兵を、二手に分けたのです」
土に描かれたに大きな円の中央。
そこに縦の線が引かれる。
円が、二つに割れた。
それだけで、百の敵が、半分となったのだ。
「そ、それでも……まだ、相手の数が多いです」
三野が五十、名張は三十。
兵を半分に分けたとしても数で負けている。
「そこで山林です」
イミナは、新しく一本の縦線を引いた。
「名張の丘……その細道に敵を誘い込み、
その前衛に攻撃を集中させました」
一列に伸びた三野の隊列。
その前方に、小さな円を三つ描いた。
「全体の数では負けていても、
局所に数の優位を作り出したのです」
「な、なるほどぅ……」
私は、地に描かれた図に唸る。
たしかに縦線の先端では十程度になるのだろうか。
そして、三つの円で、名張は三十の兵となる。
数の優劣は逆転していた。
理屈としては分かる。
百を、百として受けない。
敵を割り、そこからさらに引き伸ばし、
細くなった先端だけを叩く。
言葉にすれば、確かにわかりやすい。
「だが、こうも上手くいくものか……」
薄暗い森の中。
「名張の兵が、少しでも手間取れば、
次々に迫る三野の兵に圧し潰されてしまう」
人に、これが、やれるのだろうか。
「三野を突いた後に退く時、
森で、はぐれることも考えられます……」
すべてが都合よく動かなければ。
この絵は、ただの世迷言に終わるだろう。
「マヒト殿の疑問も、ごもっとも」
イミナ殿は笑顔を浮かべていた。
「たまたま事が上手く運んだ、
もちろん、そんなことはありえません」
そこで、イミナ殿は、
ふと視線を横に動かした。
「細かいことは現場で活躍した、
皆様から、話してもらいましょう」
イミナ殿が、
そう、言葉を投げた先。
那婆理之稲置武へ、皆の視線が集まった。
――――――――――
「俺か……」
タケは、大きく息を吐いてみせる。
戦の中核を担った者の姿だ。
百と、三十の戦。
そんな勝ち目のない戦を、
乗り越えた者。
実際に成した者の、語りがはじまる。




