表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
185年:夏七章「三野の名張侵攻」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
67/115

第六十三話 ★真人:戦の評定

◇【三輪之真人みわのまひと】視点◇



 名張の村が、三野の兵を追い返した。


 最初に報告を聞いた時、

 私は、にわかに信じられなかった。



――――――――――


 三野の名張侵攻から数日が経ち。

 名張の村は、少しずつ息を取り戻していた。



 打ち破られた村の門は、仮木に塞がれ。


 使われた土器や、布が、

 村の広場の端にまとめられている。


 薬草の匂いは、まだ薄っすらと、

 村のなかに漂っていた。



 名張の死者は弔われていた。

 三野の亡骸も、粗末に扱われていない。


 捕らえた三野の兵たちは見張りの下に置かれ、

 水と、粥を十分に与えられている。


 名張の夜を越えた者たちの目には、

 敵味方を問わず、確実に生気が戻っていた。



――――――――――


 私、三輪之真人みわのまひとは、

 八十の兵を率いて名張へ入った。


 三輪の全体からすれば、ごく一部の兵になる。



 だが、三輪の本拠の警備。


 北の多臣、平群臣、物部臣――

 南の葛城臣、西の大伴臣――


 それらの敵対する国境いに備えながら、

 迅速に、八十の兵を揃えてみせた。


 それは、名張のことを軽んじてないという、

 周辺の環濠に対する、示しとなろう。


 今回、名張を助けることは、

 三輪にとっても重要な意味があった。



 だが。


 そんな我らが到着したのは、

 すでに、三野の兵が退いた後だった。




「さすがに、これは予想しなかったぞ」


「ですな……」


 三輪を率いる私、その横を歩く補佐役のオシ。

 他、二十の兵は名張に残ることにした。



 名張で何が起きたのか。

 なぜ、三野の百の兵が退いたのか。


 三輪君へ、報告を、

 正しく持ち帰る必要がありそうだ。



――――――――――


 その夜、ひとつの竪穴住居に、

 名張の主だった者たちが集められていた。



 阿倍臣あべのおみに連なる古き筋を引き、

 いまは村の長を務める、名張臣なばりのおみ白髪しらが


 古くから名張の地を守る土着首長の筋、

 那婆理之稲置なばりのいなきたけ


 名張の男衆を現場で動かす古参、岩矛いわほこ

 名張の女衆をまとめる、朝目あさめ


 三輪より遣わされ、

 監視の目と祭祀の役目を帯びた、三輪連みわのむらじ由良ゆら


 陰から村を動かしているわらべ、イミナ。

 名張の象徴となっている火の巫女、イミコ。



「さて、イミナよ、

 お前の言う、評定とやらを始めようか」


 村の長、シラガが声をあげた。


 名張という村を支える者たちが、

 この夜、ひとつの囲炉裏を囲んで顔を合わせていた。



――――――――――


「まず、名張は、

 三野に勝ったわけではありません」


 イミナ殿の、そんなはじまりの一言で、

 場の空気が一気に揺れる。



「なにを言う、我らは勝っただろうが。

 あいつらを退けたのだ」


 タケが、大きな声をあげた。

 最前線で戦った者として当然のことだろう。



「ええ、みなさんの活躍のおかげで、

 三野の侵攻を防ぎました」


 イミナ殿が静かに、

 この場に並んだ顔をみわたした。


「ですが、この戦で、

 まだ名張は何も得ていません」



 私は、思わず息を呑んだ――


 三野を退け、総指揮の三野之みのの荒鹿あらかを討ち取り、

 さらには捕虜まで取っている。


 名張は勝った。

 それは、誰の目にも明白だった。


 さらにそれ以上を求めるというのか。



――――――――――


「防いだだけ、というには、

 あまりにも大きなことを成したがの」


 シラガが声をあげた。


「その通りですが、三野は力を残しており、

 その脅威は未だに健在です」


「それはたしかに……」


 シラガは、大きなため息をついた。



「だからこそ、この結果から何を得るか、

 それが大事になってきます」


 勝利を誇らない。

 だが、得れるものを見ている。


 これから残すべきものを考えている。



 私は、改めて名張のわらべを見た。


 三輪を担う臣たちの中に、

 ここまで、先を見据えれる者がいるだろうか。



――――――――――


「三野の武器と、盾は、修繕して使えるな」


 イワホコが嬉しそうな声をあげた。


 名張に比べ、三野の武具は優れている。

 現場の者としては嬉しいのだろう。



「捕虜もありがたい」


 タケも、口元を緩ませた。

 捕虜は働き手にも、交渉の種にもなる。



「その、捕虜についてですが……」


 そこで、イミナ殿は、

 ちいさく横に首を振った。


「三野へ帰りたい者は、

 そのまま、返したいと思います」


「なん、だと……」


 タケの表情が曇る。

 その声には明らかな怒気がこもっていた。



「理由を、聞かせてもらおうか……」


 狩猟者が手にした獲物を、

 自然に戻せと言ってるようなものだ。


 受け入れるはずがない。



「捕虜を三野に返すことで、

 面白いことが起こるかもしれません……」


 イミナ殿の口元が、わずかに歪む。

 それは、わらべの浮かべるような笑みではない。



「三野を継ぐ本筋にいた、アラカが討たれ、

 さらに、三野は何も得られずに退きました」


「帰り待つ三野臣みののおみにすれば、

 これらは受け入れがたい報告となるでしょう」



「父が、子を失ったのだからな……、

 そうかもしれんな……」


 シラガが目を閉じて、小さく頷く。


 この場の誰よりも、

 三野と長く対峙してきた名張村の長。


 なにか、思うところがあるのかもしれない。



――――――――――


「おそらく、この後、三野は内部で割れるでしょう」


 いきなり、イミナ殿が、

 とんでもないことを言い出した。



「いや、さすがに、それは……」


 私は、おもわず声を上げてしまった。


 さすがに、そんな簡単には、

 三野という繋がりは崩れるものではない。



「三野の捕虜は火の巫女を目にしました、

 手厚く手当てされ、十分な糧を与えられました」


 イミナ殿は、さらに話を続ける。


「その者たちは、三野へ戻ると、

 手厳しい批判の声の矢面に立たされるでしょう」


 そんなことを、しれっと言い放った。



「それが、捕虜を返すことの意味です」


 イミナ殿の言葉に、

 私の背筋には、冷たいものが走った。




 捕虜を返す。

 それは慈悲ではない。


 いや、慈悲でも、あるのだろう。


 だが、それだけではない。




 三野が、その程度で割れるはずがない。

 それなら、三野が割れるように手を打とう。


 イミナ殿が言わんとしていることは。


 つまりは、そういうことだ。



――――――――――


「恐ろしいことを考えるわらべよのぅ」


 シラガは、顎をなでる。



「意味があるのだな、

 ならば、我は目をつぶろう……」


 タケは、目を閉じて小さく頷いてみせる。

 先程までの怒気は姿を消していた。



「あくまで可能性の話ですが、

 その価値は、十分にあると思いますよ」



 可能性――


 そんな耳慣れない言葉、

 その意味を、考えるまでもなく。


 イミナ殿の浮かべる笑顔が、

 ただ、ただ、恐ろしいものに見えた。



 人の怒りに、父の嘆き。

 捕虜の恩から、その噂に、迷い。


 そして、人の抱く恐れ――


 そうした実体のないものまで、

 その瞳の奥に、彼は映しているのだろうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ