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卑弥呼転生 ~現代知識で邪馬台国を作り、倭を統べる兄~  作者: 露李鈴
185年:夏七章「三野の名張侵攻」

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第五十六話 ★荒鹿:三野の爪

◇ 【三野之荒鹿みののあらか】視点 ◇



 俺は、示さなければいけない。



 三野を継ぐ者として生まれてから、

 日々、身体を鍛えてきた。


 槍の稽古では、誰にも負けぬ。

 狩りでは、大猪も仕留めた。


 今や、三野の「武の爪」と誰もが呼ぶ。


 だが、目に見える手柄だけが、

 いまだになかった。



 ――――――――――


「よし、この向こうだな」


 夏草を踏み潰しながら、

 俺は、三野の兵を連れて南下する。


「ふっ、父上には感謝だな」


 今回、俺、三野之荒鹿みののあらかが、

 三野臣高彦みののおみたかひこに代わり全軍指揮を執る。


 後ろを振り返れば、

 そこに、百の兵の姿があった。


 男たちは槍を持ち、弓を背負い、

 その腕には粗い木盾を提げている。


 その誰もが、俺を慕っている。

 今回の名張侵攻にむけての士気も高い。


 その百の行軍に鳥は逃げ、獣は藪に潜む。

 俺達の槍の柄の当たる音を山道に響きわたらせる。



「名張の者どもに、

 さあ、三野の足音を聞かせてやれ」


 後ろから声が湧く。


 誰も、俺たちを阻むことはできない。



 ――――――――――


「兄上、そう、あまり先を急がれるな」


 背後から、静かな声がした。


 弟の三野之黒犬みののくろいだった。


 その背は高いが、俺よりも肉は薄い。


 槍を持つが、白兵戦よりも、

 弓で距離を取る戦を好む変わり者だ。


 周囲から「知の爪」などと呼ばれている。

 まあ、たしかに、昔から頭のまわる奴だったが。



「急いては事を仕損じるぞ」


「それはそうだが、相手は名張だぞ」


 思わず、俺は笑ってしまった。


 名張の村。


 その名は古く、由緒もある。

 だが、今となっては山際の寒村に過ぎない。


 さらに、病で人を減らしているという。



「報告では出せる兵の数は、二十程度、

 逆に、これで、どうやって負けるというのだ」


「油断するなと言っている、

 兄上の、いつもの悪い癖であろう」


「それは、たしかにそうだが……うむ……」


 だが、俺とて、なにも考えていないわけではない。



「今回の肝は、三輪だ……、

 我らが警戒するのは西からの敵にある」


 三輪が手をまわし、落ちぶれた名張を拾いあげ、

 三野の鼻先に据え置いたのだ。


 ならば、早いうちに出る芽を叩き折り、

 本来あるべき姿へ、戻さなければならない。


「見よ、あの丘を……、

 立ち昇る二つの黒い煙を……」


 俺は、名張川のむこうに見える、

 小高い山を指差した。


 以前、この道を通った時と同様に、

 その山頂からは黒い煙が立ち昇っている。


 三野の行軍を、村に伝えているのだろう。


 そこから、大急ぎで、

 三輪に救援を求めに走ったとして。


 どれだけ急いでも、それなりの時間は掛かる。



「だからこそ、陽が沈むまでに、

 すべてを終わらせてしまえば良いのだ」


 名張は恐れるにあらず――


 これは油断ではない。

 兵の数という揺るがない事実だ。


 だからこそ、あとは奴らの狙いの先を読み、

 その逃げ道を慎重に塞ぐだけでいい。



 ――――――――――


「に、兄様がた……」


 今度は、横から野太い声がした。

 腹違いの弟、三野之鳴鳥みののなとりである。


「あの、くれぐれも……殺しすぎないように……」


「戦の前に言うことか」


「戦の前にしか言えないじゃないですか……、

 田を作る手を減らしては取る意味がないですから」


「お前は、いつも倉の話ばかりだな」


 だから、周囲から「倉の爪」などと呼ばれるのだ。


 父からは、戦うことよりも物資の管理など、

 裏方の雑用をまわされる始末だ。



「倉を取ってこそ、勝ちと言えましょう」


「ふんっ、そんなもの、

 相手を従わせれば自ずと付いてくるものだ」


 戦とは、相手の士気を挫いてしまえば良いのだ。

 名張を折るなら、タケを折ればよい。


 那婆理之稲置なばりのいなきの筋を引く男。

 山を知り、狩りを知り、那婆理なばりの民を束ねる男。


 あの男に膝をつかせば、名張は槍を下ろす。


 火の巫女だろうが、三輪に担がれたわらべだろうが、

 そうなれば我らに倉を開くしかないのだ。



 ――――――――――


 そうこうしている間にも、

 名張川が見えてきた。


 川の向こうには柵があり、

 幾本かの、赤い旗が立っている。


 そこには見慣れぬ「なばり」の印――



「健気にも、あの数で、守る気か」


 思わず口元が緩む。


 戦力は圧倒的なのだ。


 この数を前にして、土壇場で怯み、

 戦うことなく降伏を申し出る。


 そんな可能性も、考えてはいたのだが――



「俺にとっては、ちょうどいい、

 実際に槍を振り、その力を示せるのでな」


 俺は、そう言って、背後の兵たちを鼓舞した。


 背後から威勢の良い声があがる。

 皆、ひさしぶりの戦に意気揚々となっているのだ。




「クロイ、見ろ、あれが名張の構えだぞ」


 あまりの粗末な柵、それらの間もスカスカだ。

 兵の数から、その配置まで丸見えだ。


 名張が、戦に慣れていないのがよくわかる。



「川を遠回りすれば、

 あの柵を避けて村に向かえるが……」


 三野の「知の爪」と呼ばれるクロイが、

 名張の柵を眺めながら、水を差してくる。


 名張の川など膝下の深さしかないのだ。


「あの程度の数、軽く蹴散らして、

 一刻も早く先に進むほうが大事だろう」


 ちょっとした遠回りが、

 百の行軍ともなれば膨大な遅れになる。



「彼らを避けて先に進んで、

 後ろから挟み撃ちされるのは嫌かな」


 三野の「倉の爪」が呟いた。 


「それは確かに」


 クロイは小さく頷いてみせた。



「さあ、そうと決まれば、

 おまえら、名張の川を渡るぞ!」


 俺が、背後の兵たちに声を掛けると、

 威勢の良い声が返ってきた。


 やっぱり、戦は勢いが大事だな。



「それじゃ、目指すは……」


 そんなとき、名張の川のむこう側、

 柵の端にひとつの影が動いた。


 太い腕、日に焼けた顔。

 ひときわ大きな槍を担いだ男。


 タケだった。



「目指すは、あの那婆理なばりの男だ」


 三野の「武の爪」である俺の率いる部隊、四十。


 そのうちの半数、二十が、

 先陣を切って名張の川に入っていく。



「クロイ、ナトリ、

 お前たちは俺の後から来い」


「承知」


「は、はい……」


 俺は、それだけを伝えると、

 後詰めの二十を率いて名張の川に向かった。


 相手が、どれだけ少数であろうと、

 決して気は抜かない。


 それが、偉大なる父である三野臣高彦みののおみたかひこの教えである。


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