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卑弥呼転生 ~「偽りの巫女」を祀る兄~  作者: 露李鈴
【185年:夏】六章「名張の富国強兵」

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第五十話 隠のしるし

 俺は、名張の村の旗を作った。


 名張の村の発展のためであり、

 また、戦の備えでもある。



 今日は、その、お披露目だ――



「旗を用意してみました」


 俺は、丸めていた布を、するすると解いていく。

 だらんと白い布が垂れる。


 そこに、赤い一文字が静かに揺れた。



 なばり――



「これを、村の印にしようと思っています」


「……にぃに、これが村の、しるし?」


 まっすぐ丈夫な枝を軸にして、

 白い布を括りつけるだけの簡易的な旗。


 その布に、赤土で描いた『なばり』の文字。



「これまた奇妙な紋様じゃのう」


 シラガは「しるし」に目を付けた。


 那婆理なばりでなく、名張なばりでもない。

 那婆理なばりであり、名張なばりでもある。


 それらと音を同一にする『なばり』の文字。



「これは何だ、火の形か?」


「ずいぶんと不気味な模様ねぇ……」


 広場から疑問の声があがる。

 これを「字」と認識できる村の者はいない。


 そんな時――



「これは……大陸の『字』というものですか?」


 三輪連由良みわのむらじゆらだった。


「わかりますか?」


「三輪の国で目にした大陸からの品に、

 形は違いますが、このような印があったかと……」


「読めますか?」


「実際に、字の読める者など、

 三輪の国にもそうはいないでしょう……」



 ユラの言葉に広場がざわめく。


「あの模様、ただの落書きではなかったのか」


「あれが、大陸の字……字ってなんだ?」


「三輪の偉い方がそう言うんなら、

 きっと、すげぇ、しるしなんだべな……」


 一気に旗の信頼性が高まった。


 なんとなく凄い気がする、

 今は、それでもいい。



 俺は一歩前に出て、説明を続ける。


「これは、大陸で『イン』と呼ばれる字を、

 変化させて作ったものですが」


 そこで一拍。


「隠れ、隠し、人に知られない……、

 そして、隠れ里という意味を持ちます」


 正確には「持つ事とする」だが――




「名張の山に人知れずある隠れ里の、

 我ら、那婆理なばりの民にぴったりではないか」


 タケは、気に入ったようだった。


「裏に隠れて動く、イミナ殿に、

 その真の正体を隠す、火の巫女様でもありますな」


 シラガも、興味深げに何度も頷いてみせる。


 手応えは上々のようだ。

 きっと、この様子なら大丈夫だろう。



――――――――――


「ただ、このままじゃ、

 すぐに風で裂けちまうぞ……」


 タケは表情を変えずに、小さく呟いた。

 布地の端を心配しているようだ。

 


「それなら、布地の端を折り返して、

 つるで留めたらどうだ?」


 イワホコが、俺の手元にある旗の布を手に取り、

 くるっとその端部分を折り返してみせる。


 そうするだけで長持ちしそうだ。

 現場からの助言は助かる。



「支柱となる木も、一本では弱くないか?」


「上に、細い枝を通すのはどうだ、

 布の開きもよくなるぞ」


 まわりから、矢継ぎ早に声が飛び交う。


 俺の素人工作による旗が、

 あっという間に、皆の手で補強されていく。



 これでいい――


 村の皆が声を出し合うことで、


 その旗と、印は、

 名張の地に根付いていくのだから。



――――――――――


「それでは、この旗は、村の広場の中央へ」


 シラガは、村人たちの前に出ると、

 皆を誘導していく。


「巫女の火を守る者たちが、

 自ずと、この印の下に集うことじゃろうて」



「皆で、派手に立てるぞ、

 土台につかう丸太を持ってこい」


 イワホコは、男衆を従えて、

 大きな土台から組み立てはじめた。


 俺の想像していたものより、

 ずっと立派な「村の象徴」が出来上がった。




「イミコ」


「……んっ……」


「この旗に触れてくれるか?

 これは、火の巫女の印でもあるから」


「……んー……」


 イミコは、少し戸惑った表情を浮かべる。


 けれど、やがて小さく頷き、

 旗の前へ進み出た。



 名張の広場が、しんと静まり返った。


 イミコの小さな手が、

 白い布へ、そっと触れる。



「……この、名張の村を……みんなを……、

 ……どうか、おまもりください……」


 その声は小さかった。


 けれど、この場の誰の耳にも、

 はっきり届いていた。


 火の巫女の祈りが、その印に宿った。



 白い布が、

 風を受けてふわりと揺れる。


 赤い印が、

 朝の光の中に浮かび上がった。



 読めぬからこそ、

 人は、そこに意味を探す。


 火の巫女の印。


 ナバリの村のしるし。


 この日、名張の村に旗が立った。


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