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卑弥呼転生 ~「偽りの巫女」を祀る兄~  作者: 露李鈴
【185年:夏】六章「名張の富国強兵」

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第四十九話 旗をかかげる

 俺は、山道の途中で、

 手頃な一本の枝を拾いあげた。


 まっすぐで、軽い。

 折ろうとしても簡単には折れない。



「にぃに、それ、何に使うの?」


 隣で、イミコが首を傾げる。



「また、あやしいものを作るんですか?」


 その背後では、出戻り組のカヤが、

 籠を背負いながら息を弾ませていた。



「たぶん、そう見えると思います」


 俺は、枝の太さを確かめながら、

 さらに奥へ進む。



 まっすぐな枝、しなりのあるつる

 ひらたく削れそうな木片。


 名張の自然のなかを歩き、

 ある物を作るための材料を集めていた。




 ピィィィ……――


 その時、山の奥から鋭い音が聞こえる。


 竹笛の音だ。


 それに続き、遠くで、二頭の犬が吠える。



「タケの笛だな」


 那婆理の民の狩猟において、

 以前からも笛は使われていたらしく。


 その姿は、実に様になっていた。



――――――――――


 俺達が山を下り。


 巫女の沢へ向かう頃には、

 陽が高くなっていた。



「おっ」


 沢の近くの斜面に、

 赤茶けた土の層が露出していた。


 雨で崩れたのだろうか。



「これは使えそうだ」


 俺は、しゃがみ込み、

 石の欠片で赤い土を削りだす。


「赤い土……これも、持って帰るの?」


 イミコが、不思議そうに覗き込んでくる。


「印を描くのに使うんだ……、

 花の色はすぐ消えるが、土の色は残るからな」


 俺は、赤土を指で揉む。

 手のひらには鈍い赤が残っていた。



「……しるし……?」


 イミコは不思議そうに首を傾げた。


「……血みたい」


「血じゃないよ、これは土の赤。

 火を抱いで、この土は赤くなるんだよ」


「……火を抱いた、土……」




 プォォォ……――


 赤土を葉に包んで、

 カヤの背負う籠へ入れた時。


 沢沿いの田から骨笛の乾いた音が聞こえた。



「……骨笛、シラガのじっちゃんだ……」


 イミコが笑顔を浮かべる。

 俺たちは、音の鳴るほうに歩を進めた。



 沢沿いの田では、

 村人たちが泥に足を入れていた。


 シラガが骨笛を吹くと、ふっと動きが揃う。


「……笛って……声より、やさしいね」


 やさしい、

 確かにそうかもしれない。


 怒鳴らず、叩かず。


 音で人を動かすこということは。


 支配ではなく、

 流れを作ることなのかもしれない。



――――――――――


 ボオォォォ……――


 名張の環濠、

 その手前を通り過ぎるとき。


 石笛の、硬い音が聞こえてきた。



「石笛は、イワホコだな……」


 環濠の外側、遠くには、

 畑で動く若衆たちの人影が見えた。


 石笛の音に、土を運ぶ者が足を止め、

 杭を持つ者が向きを変え、

 子供たちが端へ下がった。


 イワホコは声を出していない。


 石笛を吹き、手で短く示すだけだった。



「山でも、田でも、村でも笛……。

 前は、こんなに鳴ってませんでしたよね?」


 カヤがひとりごちる。


 今の名張の村は、

 なにをするにしても笛の音を使う。


 皆の体にしみ込ませるために意図的にだ。



「竹笛に、骨笛に、石笛……。

 皆、聞き分けれるようになってきましたね」


「こう毎日だと、さすがに慣れましたね」


 カヤは、笛の音にうんざりという様子だ。


 その気持ちもわからないでもないが。

 これは必要なことなのだ。



「皆、よく働いてくれてますね」


 村の一人一人に、笛の意味を、

 難しく教える必要はない。


 毎日の仕事のなかに紛れ込ませて、

 誰も、知らないうちに。


 名張は、少しずつ、

 音で動ける村に変わりつつある。



「……笛が鳴ると……みんな、迷わない……」


 イミコが、ぽつりと呟いた。


「そうだね……」


 今は、まだ言葉にしない方が、

 良い事もある。



――――――――――


「……わぁ、かえってきたぁ……」


 俺達は、山の小屋に帰ってきた。



「はぁ~……重かった……」


 カヤは、籠を下ろして息を吐く。


 中身は木の枝に、土の塊。

 かなりの重さとなっているだろう。


「それで、何を作るんですか?」


 集めてきた素材を改めながら、

 カヤは聞いてくる。



「村のしるしです」


「村のしるし、ねぇ……、

 まあ、完成を楽しみにしてますよ」


 カヤは、そういうと、

 笑いながら山道を下りていった。


 あけすけのない言葉遣いに難が見られるが、

 その根は、悪くないのだろう。 



――――――――――


 小屋に残ったのは、俺とイミコ。

 それから、山で集めてきた素材たち。


「よし、それじゃ作ってみるか」


 俺は、まっすぐな枝を選び、

 細枝を合わせ、つるを裂いてほぐし。


 赤土は石の上ですり潰し、

 水と、少しだけのかゆを混ぜていく。



「……ゎぁ~……」


 イミコは、じっと横で見てくる。


 邪魔はしない。

 けれど目を離さない。



「あとは、これを……」


 一本の枝に、白い布を結ぶ。

 風にたなびくように。


「最後にこれで……」


 平たい木片の先に赤土をつける。

 それを、布の中央へ、一気に押し当てる。


 べちゃっと、布に赤土が塗り込まれた。


 一画の線を引き。

 それから、また一画。


 そして、最後の仕上げに、

 かすれた線に赤を重ねていく。



「よし、完成だ」


 俺は、枝を持ち上げた。

 太く丈夫な棒の先に、白い布が垂れる。


「……にぃに、なに、これ……?」


「旗だ」


「はた……?」


 イミコは不思議そうに首を傾げ、

 赤土で描かれたしるしを、ぱちぱちと見つめる。



「……これ、なにを描いたの……?」


 その布には、

 赤い土で、太く。


 ひとつの「しるし」が記されてある。



「ん~、これは……」


 那婆理なばりに、名張なばり……。


 そして、もうひとつのナバリ。


 白い布の上に、赤い塗料で、

 一文字が揺れていた。



 なばり――



 その「しるし」の意味を知る者は、


 この時代には、まだいない。


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