第四十話 国の造りと高床式倉庫
「本日は、皆さまに三輪をご案内をしようと」
俺達の泊った住居を、
朝一番に、マヒトが訪ねてきた。
儀礼的な布地の服ではなく、
簡素な貫頭衣にまとっている。
「二人で行ってくるがよい」
「……じっちゃんは、いかないの……」
「わしは、農具や人手について、
三輪の者と詰める役目があるのでな」
シラガは、そこまで言うと、
イミコに視線を落とす。
「今日は、巫女様に、
兄殿の面倒を見てもらえるかのぅ……」
「……んっ、にぃにのこと……みてる……」
自信満々に胸を張る、イミコ。
その姿に、まわりの口元が自然と緩んだ。
――――――――――
三輪の朝は早い。
歩き出して、
すぐ、それが分かった。
水を運ぶ女たち、荷を担ぐ男たち。
子どもの声、朝の火の匂い。
人が多い。
けれど、ただ騒がしいのとは違う。
朝の動きが、村の形の中に収まっていた。
「三輪は、やっぱり違いますね。
上だけじゃなく、下も、ちゃんとしてる」
「下……?」
「人が多いと、道が乱れて駄目になるんだけど。
三輪はきちんと保ってある」
俺は、ドンドンと素足のかかとで、
地面を叩いてみせた。
小石や、雑草が綺麗に取り除かれてあり、
その土は固く踏み固められている。
まだ、日常的に靴を履く習慣のない時代。
足回りは、とても大事である。
――――――――――
「……にぃに、あれ……おうち……」
イミコの指さす方に高床式の建物が見えた。
昨日、訪れた三輪の神殿よりは小さい。
だが、その床は地面から持ち上げられ、
その側面は板壁で備えられていた。
「あれは、蓄えを置く場所ですね」
マヒトが答えてくれる。
「なるほど、高床式倉庫か」
食料を保存する際に最大の問題。
それが「湿気」に「ネズミ」となるわけだが。
「床を上げることで湿気を祓い、
柱の、ねずみ返しの構造で害獣を払うのですね」
「よくご存じで……」
「実物は初めて見るので、
なるほど……こうなっているのか……」
「……にぃに、楽しそう……」
名張の村にも必要となる建物だ。
――――――――――
「それにしても、
やはり、三輪は大きいですね」
三輪の村の外周を歩いてると。
環濠の柵のむこう側にも、
別の集落が見える。
それらも三輪の国の一部である。
「大きいというより、繋ぎ止めている、
……と、言ったほうが近いかもしれません」
マヒトは小さく呟く。
「いくつもの環濠が、三輪に従事してますが、
志が揃っているわけではありませぬ」
マヒトは、険しい表情を浮かべていた。
三輪之真人の本家も、
また、志を別にする家のひとつなのだろう。
「だからこそ、人も、物も、力も、
三輪は絶やさぬようにせねばなりません……」
三輪は、決して一枚岩ではない。
そのうえで、実際に束ね続けているからこそ、
今の、三輪の国があるということか。
一筋縄ではいかない相手だ。
――――――――――
「ん、ここは……」
三輪の村を歩いていると、
水を打ったように、しんと静まり返った。
あたりに人の気配が少なく、
この辺りだけ、どこか空気が違う。
「……にぃに、あれ……」
イミコの視線の先には、小さな鳥居があった。
鳥居のむこう側は緑が深くなり、
その風の通り方まで、どこか違って感じる。
その奥に、なにがあるのかは見えない。
それなのにわかる――
この鳥居の先には、なにかある。
「……むねの、石……熱くなってる……きのせい……?」
イミコが、その胸元を押さえていた。
その指先に触れているのは、
深い緑色の、ヒスイの勾玉である。
なにかしらの神秘が、
そこに、あるとでも言うのだろうか……。
ちりちりと頭の奥底から、
ひとつの知識が引きずり出されてくる。
ここは、そう、大神神社――




