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卑弥呼転生 ~「偽りの巫女」を祀る兄~  作者: 露李鈴
【185年:春】五章「三輪の国」

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第三十四話 国の門

 三輪君みわのきみが、どういう理由で、

 俺達を呼び出したのかわからない。


 だからこそ、

 見極めなければいけない。


 名張が、生きる道を――



――――――――――


 山間を抜けて、ひらけた平野。


「あれは……関所か?」


 最初に見えたのは木柵だった。


 丸太が、壁のように立てられて、

 その唯一の道は、木柵に塞がれている。


 その横には、人の背丈程度の見張り台。

 そこから石槍を持つ男たちが、見下ろしてくる。



三輪之みわの真人まひとである。

 三輪君みわのきみの御名により、名張の客を迎えて戻った」


 マヒトの挨拶に、見張りが頭を下げる。


「お待ちしておりました」


 すぐに木柵が、ぎぎっと音を立てて横に開かれる。


「どうぞ」


 マヒトだけなく、その従者も、俺たちも、

 なにひとつ揉めることなく境界の内側へ通される。



 俺達が通り過ぎたあとに、

 後方で、ぎぎっと音を立てて柵が戻される。


 見張りの男たちは、

 何事もなかったように持ち場へ帰っていく。


 太古の時代、想像よりも堅牢な布陣が築かれて取っていた。



――――――――――


 しばらく進むと、

 別の道筋にも見張り台が見えた。


「あれも関所ですか」


 俺が訪ねる。


「あの先を南へ折れたら、

 阿部臣あべのおみの領域に通じるのだ」


 マヒトの指さす方には山裾に抱かれた、

 環濠の影が小さく見える。



「阿部、か……」


 シラガが、かすかに声を漏らした。


「名張の長殿は、阿部臣あべのおみに覚えが?」


「我が家では、昔より、南の筋には、

 阿部の流れがあると聞かされて育ったもので……」


 杖の先が、乾いた土をひとつ突く。


「名張の地は、今でこそ寒村であるが……、

 遠い昔は、広い筋の中にあったと語る者もおった」


「……ならば、私の家とも、

 なにかしらの縁があるかもしれませんな」


 シラガは小さく笑った。

 苦さとも、懐かしさともつかぬ、笑みだった。



――――――――――


 しばらく、歩くうちに前方の景色が変わる。


 また、環濠だ。


 ここに来るまでにも、

 幾つかの環濠集落を遠目に見てきた。


「あれらの環濠たちは、

 すべて、三輪の国となるのですか?」


「そうだ」


 マヒトは、当然のように答えた。


「三輪の国は、ひとつの環濠ではない」


「このあたりに連なる集落が、

 それぞれに環濠を持ち、その長をおみと呼ぶ」


「臣……」


「わしは、名張を束ねる長なので、

 名張臣なばりのおみと名乗るのと同じだぞ」


 シラガが横から補足をする。



「それらの集落を束ねる臣たちを、

 さらに、束ねる者がきみと名乗るのだ」


 つまり、環濠集落が国を形成する部品であり、

 臣がその部品を運み、君が全体を握る。


 名張村は、そのひとつに過ぎない。


 三輪の国は、名張のような環濠集落を、

 いくつも束ねる群となるのか。


 名張の村と、三輪の国――

 その戦力差は考えるまでもなさそうだ。



――――――――――


「我らは、あちらに入ります」


 マヒトは、ひとつの環濠集落に歩を進める。


 集落に続く環濠の橋には、

 名張の村と同じく見張りが立っていた。


三輪之みわの真人まひとである……」


 マヒトが名乗りをあげると、

 そのまま、何事もなく通してくれた。



「ここが、三輪様の集落になります」


 マヒトに案内されて、

 集落に足を踏み入れた瞬間。


 俺は、思わず目を細めた。


 整っている。


 それが最初の感想だった。



 通路の取り方、泥の逃がし方。

 火を使う場所と、人の集まる場所の分け方。


 人が多い、家も多い。

 なのに、どこも崩れていない。


 長く保たれてきた場所の空気があった。




「……みられてる……」


「ああ」


 しばらく集落を進むと、

 視線を感じるようになった。


 好奇、敬意、警戒。

 そのどれもが混じった、静かな目だった。


「……こわぃ……?」


 小さな声でそう問われ、俺は少しだけ周りを見る。


「いや……」


 怖いというより、重い。


 名張の村人たちの目は、

 もう、イミコを信じていた。


 ここにあるのは、信じる前の目だ。

 見定め、値踏みする目。



――――――――――


 やがて、道の先の空気が変わった。

 高い影がある。


 高床だ――


 地面から持ち上げられた、

 大きな木造の建物。


 太い柱が並び、

 その上に、広い床が載っている。


 屋根は大きく、軒は深く、

 周囲の、どの竪穴よりも明らかに高い。


 神事も、富も、裁きも。


 この国の中心にあるべきものを、すべて、

 その目に見える形で持ち上げているようだった。




「……にぃに……」


 イミコが俺の手をぎゅっと握る。


「ああ」


 三輪という大きな国が、

 いま、俺達の前に、立ちはだかっていた。


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