第二話【壱】 石の刃を握る
「……にぃに……おみず……」
少女が、割れた土器の欠片を差し出してきた。
窪みにはどろりと濁った泥水。
「……ありがとう」
喉は焼けるように渇いている。
だが、これは飲めない。
頭に流れた膨大な知識が警鐘を鳴らしている。
虫か、菌か、そこまではわからない。
だが、飲めば死に近づく。それだけはわかった。
「……これは、だめ……」
「……ぇ……?」
少女の瞳が大きく揺れる。
「……どうして……? にぃに、しんじゃうよ……?」
その澄んだ瞳に、大粒の涙がみるみる溜まっていく。
俺のことを心の底から心配していた。
「……神様が教えてくれたんだ」
俺は、ふらつく足に力を込め、立ち上がる。
「……かみ、さま……?」
少女の不安げな視線が、俺を見上げる。
「この水の穢れを祓い、飲めるようにする方法を……」
「……けがれ……?」
小屋の隅に、古い焚き火の跡が見えた。
そこに積もる灰と、炭。
すべては揃っている――
――――――――――
藁を敷き詰めた小屋の壁の隙間から、
一条の陽の光が、細い筋となって土の床に落ちている。
まだ、夜ではない。
行動する時間は残されている。
まずは道具――
地面に転がっていた手頃な石を、
震える指先で拾い上げる。
もう一方の手に、硬い石をもうひとつ。
その重みが、
掌にずっしりと食い込んだ。
「……」
角度を見て、呼吸を整え、狙いを定める。
全身の力を込めて、
振り下ろす。
カキンッ――と、鋭い音が弾けた。
石が欠ける。
「……よし」
さらに、何度か打ちつける。
掌に衝撃が走り、骨の芯まで揺さぶられて痺れた。
少しずつ、慎重に、割れ方を見ながら。
火花が散るたび、イミコが身を縮めるのが見えた。
「……こんなもんかな」
貝殻の縁のように鋭い破片が、
俺の手元に残っていた。
石の刃――
それは、ただの「石の欠片」にすぎないけれど。
今の俺たちには十分すぎる刃だった。
「……すごぃ……にぃに、いし……きったの……?」
少女は目を丸くしていた。
その驚き顔に、思わず唇の端が緩んだ。
「割って、刃にしたんだ」
そう言いながら、焚き火跡の灰と、炭をかき集める。
指先が黒く染まる。
だが、そんなことを気にしている場合じゃない。
次は、筒になるものが必要だ。
――――――――――
俺は小屋の入口に向かう。
扉もなく、外の冷たい気配が流れ込んでいる。
その先には薄暗い森が広がっていた。
小屋のすぐ脇には、
竹によく似た、見慣れない植物が生えていた。
「……助かった……」
安堵の息が、白い煙となって口から漏れる。
もし、筒に代用できる物が身近になかったら、
その時は手間が増えていたところだ。
俺は、筒として使えそうな植物の節を選び、
石の刃で、太い茎を切り出していく。
切り口は荒い。
けれど、今はそれでいい。




