第二十二話 戻ってきた者たち
人の出会いに「意味」はあるのだろうか。
たまに、そんなことを考える。
この世界で俺が目を覚まし、
イミコと出会い、名張村の穢れを祓い。
そして、皆と出会い。
そこには、どんな「忌み」があるのだろうか――
――――――――――
ぼんやりと考えながら、
俺は、囲炉裏の火を眺めていた。
名張の長、シラガの小屋。
俺とイミコは、
肩を並べて床に腰をかけている。
「それで、村の頭数について」
囲炉裏の火のむこう側にいるシラガに、
俺は、声をかけた。
「……あたまの、かず……?」
イミコは、俺のすぐ隣で、
両手で頭を抱えるようにしていた。
「今、三十の家庭があり、
人数にすれば八十ほどじゃな……」
シラガが静かに答える。
「戦える男衆は、限界で二十。
通常なら十二、三……あたりですね」
「全然、足りぬのう……」
「足らないですね」
お互いの口からため息が漏れた。
「人を増やすには田を増やし、
食べものを蓄え、村が子を産めば良い。
だが、時間が掛かる……」
シラガは、ゆっくりと息を吐く。
今、目の前に見え隠れする圧は待ってくれない。
「なにか、対策を打たねばいけませんね」
「ほっほ、それにしても、その知恵と口振り、
とても見た目の歳には見えぬのう」
感心とも、畏れともつかぬ声だった。
「おぬし、ほんとうに何者……」
「おとうさま、あの」
シラガの言葉を遮るように、
戸口から、緊迫したアサメの声がした。
「外に……人が……」
それ以上は、すぐには言えないようだった。
――――――――――
小屋の外に出ると、
広場の空気が、すでにざわついていた。
火床のそばにいた者たちが、
皆、村外れを見ている。
その先に、数人の男女が立っていた。
一目でわかった。
かつて、この村にいた者たちだ。
衣はくたびれ、肩は落ち、顔も痩せていた。
「流行り病の折に、村を出た者たちです。
病が収まったと聞いたと……」
アサメが、小さな声で伝えてきた。
「……あのひとたち……むらのひと……?」
イミコが、俺の袖をそっと握った。
「今さら、どの面下げて戻って来た」
低く、硬い声があがる。
タケだ。
那婆理の男衆を従えて、
厳しい眼差しを、戻ってきた者たちへ向けていた。
「あの、俺達……っ」
戻ってきた者たちの代表らしき男が前に出た。
だが、その前に、
タケがさらに言葉を重ねる。
「あの時、この土を離れると決めた。
その覚悟を最後まで貫くのが道理だろう」
「くっ……」
戻ってきた男は俯いた。
「苦しい時だけ逃げて、事態が治まれば戻る。
そんな半端がまかり通るものか」
やがて、男がかすれた声で言った。
「逃げたことは言い訳できません。
だが、あの時は、そうするしかなかった……」
声が詰まる。
「死ぬまで働けと言うなら働きます。
それでも駄目なら……せめて、後ろの女だけでも……」
後ろにいた女が、抱いた子を強く抱きしめる。
泣き顔ではなかった。
ただ、疲れ切った顔だった。
「タケの言うこともわかるが……」
イワホコが口を開く。
「だが、戻ってきちまったもんを、
今さら、追い返してどうする」
「カヤたちにも考えはあったんだ、
働く気があるなら、働かせりゃいいだろう」
「甘ぇことを言うな」
タケの声が返る。
「甘くねぇよ」
イワホコは一歩も退かない。
「これから田も増やす、狩りも増やす。
人手はいくらでも要るんだ」
その言葉に、何人かが目を伏せた。
この場の誰もが分かっている。
病に衰えた村を、これから、
復興させなければいけないのだ。
「あいつらに食わせる分はどうするんだ」
村の誰かが苛立ちを隠さず言った。
「また病人が出たらどうする」
村の不安が一気に噴き出した。
タケの言うことも、イワホコの言うことも。
どちらも正しい。
だからこそ、誰も簡単には頷けない。
「ふぅむ……」
シラガは、その真ん中で押し黙っていた。
長として、どちらの顔も知っているのだろう。
残った者の腹のうちも、戻ってきた者の苦しさも。
「さて……」
俺は、その場の空気を見回した。
戻ってきた者たちの痩せこけた顔。
村の中から睨みつける目。
火床のそばで、所在なさげに揺れる湯気。
受け入れるにせよ、追い返すにせよ、必ず村に傷が残る。
「……にぃに……」
イミコは、黙ったまま、俺の袖を握っている。
その手は小さく、少しだけ冷たかった。




