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卑弥呼転生 ~「偽りの巫女」を祀る兄~  作者: 露李鈴
【185年:春】三章「村の開拓編」

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第十九話 穢れを田に返す【下水整備・弐】

 名張の朝に、広場で集会を開くことが、

 習慣のようになり始めていた。


 シラガに、イワホコ。

 火の巫女を受け入れる村人たちの顔が並ぶ。


 その視線の中央には、俺と、イミコ。



「今度は、汚れの塊についてなんだけど……」


「にぃに……また、きたないの、わけるの……?」


 先日、環濠に受け場を作り、

 汚水の穢れを弱める仕組みを作った。


 今日は、その先だ。



「食い残し、腐ったもの、汚れた敷き草、

 ……そういった固形の穢れをわけていきます」


「そこまでする必要、あるのか?」


 イワホコが、渋い表情を浮かべていた。



「穢れが溝に溜まると、排水が詰まり、

 また臭い、虫が湧きます……」


 俺は、まわりに説明をする。


「流せる穢れと、塊の穢れは、

 分けて捨てなければならないでしょう」



「なら、村の外に投げ捨てるか……」


 シラガが顎に手を当てながら考え込む。


「それでもいいですが……、

 どうせなら穢れを活用したいのです」


「活用……?」


「地面に、穴を掘って穢れを埋めましょう」


「穴……」


 イワホコが渋い表情を浮かべた。

 地面に穴を掘ることの労力の大きさを物語っている。


 だが、それでもだ――



「形のある腐りものは穴に入れて、

 灰をかけ、枯れ葉を重ね、土を薄くかぶせます」


「それに、なんの意味が」


「時間はかかりますが、きちんと穢れが鎮まれば、

 最後には田へ返せる土となります」



「穢れを、田に返すだと」


 イワホコが驚いた顔をした。


「穢れというのも、また、生きてます。

 それらを正しく用いれば土が豊かになります」


「イミナ殿の言葉でなければ、

 これは、にわかには信じられませんが……」


 シラガが、ゆっくりと息を吐く。


「まずは、いくつかの田で試してみるかのぅ」



「きたないの……ねかせたら、いいつちになるの……?」


「イミコが疲れても、眠れば元気になるように、

 穢れも眠らせれば変わるんだよ」


「……きたないの……ねる……」



――――――――――


 話が決まると、俺達は村の橋を越えて、

 環濠を渡った先の斜面を歩いた。


 村の入口に近く、

 田畑へも、ほどよい距離のあるところ。


 水源から離れ、風は村と逆へ抜けていくところ。



「ここなら、臭いも村には届きそうにないな」


 イワホコが地形を見回して頷く。



「それでは掘ってみるか」


 イワホコが連れてきた男衆たちに声をかけた。


 すぐに、男衆たちが木の鍬や、掘棒を手に、

 ざく、ざくと土を掘り返していく。


 やがて、腰ほどの深さの穴が三つ、

 すこし離れて並んでいた。


「こんなもんでどうだ」


 掘り出した土で土手が作られ、

 汚物が溢れないよう地面より一段高くしてある。



「まず、底に枯れ葉を入れましょう、

 その上に、今日の腐りものを入れてください」


 桶に溜められた汚物を、

 ひとつ、また、ひとつと穴に注ぎ込む。


「……ぅー、くさぃ……」


 イミコは鼻を塞いでいた。



「その上から、灰を振ります」


 白い粉を、ふわりと穴の中に落とす。


「にぃに、また、はぃ……」


「火の後のものは、ここでも、役に立つんだ」



「そして、灰をかけたら、また、枯れ葉。

 その上へ、土を薄く重ねる……これを繰り返します」


「腐るもの、灰、葉、土……か」


 イワホコが指を折るように繰り返した。


「面倒でも、これらをやらないと、

 ただの穢れの穴になってしまいます」


「穢れを、鎮めるための穴か……」



――――――――――


 その日のうちに。


 村中の人々に話は伝えられた。



「なんで、そんな遠くまで……」


「灰に、葉も……?」


 手間が増えることにより、

 戸惑いの声が上がるのは当然のことだった。


「村から出る穢れが、最後には、

 田へ、実りを与えるようになるのじゃ……」


 シラガは、皆によく説明をしてくれた。


 だが、そこで、

 皆を納得させたのは――



「……みこのひで、むらを……みんな、まもりたい……」


 イミコの一言だった。



――――――――――


 夕方、村の外れ。


 汚物の桶を担いで歩く男衆を、俺は眺めていた。


 穴へ流し、灰を振り、枯れ葉をかぶせ、土をかける。

 それだけのことが、村の穢れの流れを変えていく。


「火床の灰、足りなければ言ってください」


 遠くからはアサメの声も聞こえてきた。

 皆、よくやってくれている。




「にぃに……きたないのも、ちゃんと、ばしょ、いるんだね」


 イミコが、土のかかった穴を、じっと見つめていた。


「……きたないものは……、

 ……まざらないほうが、いいのかな……」


 イミコの小さな手が、

 ぎゅっと、自分の服の裾を掴んでいた。



 ふと忘れそうになるが――


 数日前まで俺達は「忌み」と呼ばれ、

 村から拒絶されていたのだ。


「無理に、混ざらない方が、いいのかもな……」


「……そう、かな……やっぱり……」


 イミコが、悲しそうな声をあげる。



「村は、村……俺達は、俺達……、

 混ざるより、分けて関わり合う……かな……」


 水は、水のまま。

 火は、火のまま。


 忌み子は、巫女のままに――



「……そうだよね、うん……」


 イミコは、静かに村を眺めていた。


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