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卑弥呼転生 ~妹を女王に、現代知識で邪馬台国を作る~  作者: 露李鈴
| 夏:十一章「道が生むもの」

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第二百十八話 道が詰まれば、荷も詰まる

 ざぶん――


 水を掻く音が、川岸に響いていた。



 名張から、三野へと続く道の途中。


 夏の陽射しを受ける名張川を、

 小さな渡し舟が、何度も行き来している。




「賑わってますね」


 俺は、川岸に並んだ人々へ目を向けた。


 背負籠を下ろして木陰で休む者。

 荷を抱えたまま、対岸を眺める者。


 その足元には、穀や木の道具を詰めた籠が、

 いくつも置かれていた。



「これが相談してくれた話ですね」


 隣のタケへ顔をむける。


 名張の、もう一人の長。


 那婆理之稲置武(なばりのいなきたけ)――


 畑作業をしている俺たちのところに、

 話があると、やって来たのだ。



「道が良くなったのはいいが、

 今度は、川で足止めされてはな……」


 タケが腕を組み、渋い表情を浮かべる。


「人も荷も、ここまで増える前は、

 渡し舟だけで事足りていたんですけどね」


 名張と三野を結ぶ道は、

 以前より、ずっと歩きやすくなった。


 けれど、川を越えるとなれば話は別だ。



「にぃに、ふね、きたよ!」


 イミコが、水面を指さした。



――――――――――


 むこう岸から、

 渡し舟が近づいてくる。


 やがて、舟が岸へ着く。



「おーい、荷を受け取ってくれ!」


 聞き覚えのある声が響いた。


「あ、カナメさん!」


「おお、イミナか」


 舟から降りてきたのは、

 三野の道具職人、カナメだった。


 その後ろには、

 荷を抱えた男たちが続いている。


「今日は、ずいぶんと連れてるんですね」



「名張の市庭のおかげで、

 三野の道具作りも盛んになってな。

 俺も、若衆に教える役を任されたんだ」


 カナメは背負籠を下ろすと、額の汗を拭う。


「道はいいんだが、ここで待つのがひと仕事でな」


 舟から荷を降ろし終えると、今度は、

 こちら岸で待っていた者たちが乗り込んでいく。



 だが、小さな舟だ。


 人を乗せれば、

 それだけ、荷を積める場所が減る。



「それ以上は載せるなよ!」


 船頭の声が飛ぶ。


「無理して、重くなりすぎたら、

 ひっくり返っちまうぞ!」


「……それなら、次まで待つよ」


 乗り込もうとしていた若い男は、

 荷を抱え直すと、岸へ引きかえす。


 その後ろにも、まだ、

 荷を抱えた者たちの列が続いていた。




「なるほどなぁ」


 人だけならば、歩いて渡ることも可能だが、

 荷を背負ってとなれば簡単ではない。


 水に濡らせないものもある。

 それだけに、渡し舟は欠かせないのだが。



「舟を増やすという手もありますけど」


「それも手だが、漕ぎ手が足りねえぞ」


 隣のタケが、困ったように頭をかく。


「ですよね」


 時間をかければ、舟や、漕ぎ手を、

 増やすこともできるだろう。


 けれど、今後も、

 さらに人の流れが増えていくのなら。


 また、どこかで詰まる時がくる。



 となると、橋か――



「この名張川に、橋を架けられたらなぁ」


「橋だと?」


「この川に橋があれば、

 荷を背負ったままでも渡れるなあと」


「そりゃそうだが」


 タケは、対岸へ目を向ける。



「環濠に渡す橋とは違うぞ、

 こんな広い川に、どうやって架けるんだ?」


「ですよね」


 環濠の橋とは規模が違う。


 絶えず水が流れ、雨が降れば増水する。

 木を渡せば済む話ではない。



「にぃに、はし、つくるの?」


 イミコが、不思議そうに俺を見上げた。


「ん~、できたら便利なんだけど」


「ふね、いらなくなるの?」


 ちょっと残念そうな表情だ。

 イミコは、船に乗るのが好きだったな。


「橋を作ったとしても、

 舟も、まだまだ役に立つよ」


「そっかぁ」


 イミコの表情は明るくなり、

 もう一度、目の前に広がる川を眺めた。



「それに、橋を架けりゃ、

 誰でも渡ってこられるようになるぞ?」


「あ……」


 思わず、タケの顔を見た。


「荷を運ぶ者にはありがたいだろうが、

 山からの野盗たちもな」


 タケは、対岸へ目を細める。


 城之越が、木津川に守られていたように、

 名張も、名張川に守られてきた。


 かつての、三野との戦でも、その恩恵は大きかった。


 神出鬼没の「山神」たちが居る以上、

 守りも考えなければならない。



――――――――――


「それなら、舟を出してる連中にも、

 話を聞いてみたらどうだ?」


 横で荷を下ろしていた三野のカナメが、

 ふと、声をあげた。


「舟の人たちに?」


「この川のことなら、俺たちよりも、

 ずっと詳しいだろうよ?」


 カナメは、舟を操る男へ顎をしゃくった。


「それは確かに」


 橋のことを考える前に。


 まず、川を知ることから始めるか。




「にぃに! 一緒に、お話、聞きにいく!」


「イミコも?」


「わたしがいれば、ふねのひとも、

 おそとのひとも、いっぱいおしえてくれるよ?」


 そう言うと、イミコは胸を張ってみせた。


「それは確かに」


 名張の火の巫女としての噂。


 その噂が持つ力を、イミコ自身も、

 すこしずつ理解してきているようだ。




「みんなの話を聞いてまわろうか」


「うんっ!」


 イミコに手を引かれ、俺たちは。



 舟を岸に寄せる船頭のもとへ、向かった――


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