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卑弥呼転生 ~妹を女王に、現代知識で邪馬台国を作る~  作者: 露李鈴
| 春:十章「イガの山」

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第二百八話  辺境を守るものたち

 木津川を挟んだ、その対岸。


 山神たちに備えて築いた陣には、

 今も三輪の兵が残り、守りを固めていた。



 川では小舟が何度も行き交い、

 三野から届いた穀や、薪が、城之越へ渡されてゆく。


 岸辺からは、荷を受け取る者たちの声が、

 絶えることなく聞こえていた。


 そして、陣中からは、柵を補強する木槌の音が、

 いまも鳴り響いている。



――――――――――


「皆さんは、これから、

 どうなさるつもりですか?」


 俺は、遠くの山を眺めながら。


 三輪之真人(みわのまひと)と、三野臣黒犬(みののおみくろい)に声をかけた。



「三輪は、この陣を守り続けますよ」


 マヒトは、陣を囲む柵に目を向ける。


 はじめは一層だった柵。


 今では二層、三層と重なり、

 さらに複雑な守りとなっていた。


「城之越と対峙するためだけに、

 構えていたわけではありませんから」



「そうですね」


 俺たちは、最初から。


 この北へ続く道を押さえるために、

 これほどに強固な陣を構えていたのだ。


 城之越との戦は、その途中経過に過ぎない。



「この山間にある一本道を押さえれば、

 北の者たちも、容易には南へ入れないでしょう」


 山神のように、

 森や、険しい山を抜ける者はいる。


 だが、大勢の兵を動かすとなれば、

 糧や、槍、矢も運ばなければならない。


 それだけの荷を抱えて、

 獣道を進み続けるわけにはいかないだろう。



「三輪にあったものと同じように、

 幾重もの関を設けることになるのですね」


 俺は、マヒトを見上げる。


 この数日、山神との戦を経て、

 その顔つきは、さらに精悍さを増していた。



「三輪へ戻るのは、まだ先になりそうです」


 マヒトの声に、迷いはなかった。



――――――――――


「三野臣は、いかように?」


「我らは、三野と城之越の道を整えよう」


 クロイは、木津川の向こうへ、その目を向ける。



「道は、守る者がいなければ意味がないからな。

 城之越の者たちと、しばらく守ってゆくつもりだ」


 この地へ関を設けるにも、

 多くの物資と、それらを運ぶ道が要る。


 それらを、梟や、阿閉臣たちが、

 指をくわえて眺めているとは思えない。


 再び、荷を襲い、道を断ちにくるだろう。


 三野臣は、城之越と共に、

 その道を守るための備えるというわけだ。




「城之越に奪われた荷については、

 もういいんですか?」


「ふっ、珍しく、つまらぬことを聞く」


 クロイは、かすかに笑う。



「そんなもの、許すわけがなかろう」


 その答えに笑みはなかった。


「奪われた荷も、兵の受けた傷も、

 兵たちが納得せぬわ」


 クロイは城之越へ目を向ける。


「だが、その償いとして役を担い、

 我らと共に道を守ることになれば、

 その中で皆も納得していくことだろう……」



「そうですね……」


 分かっていたことだが、

 あえて、その意を確かめておきたかった。


 ただ、許すのでもなく、

 力で押さえつけるのでもない。


 これから先の道を、どう歩むのか。


 クロイは、すでに自分で答えを出していた。



 * * *


 頼もしい人たちだ――


 マヒトは、この陣から北の道を守る。


 クロイは、三野と城之越を繋ぐ道を守る。


 互いに守るべき土地を持ちながら、

 こうして、先のことを考えてくれていた。



 時間はかかるだろうけど。


 この地に幾重にも関が設けられ。


 三輪から、城之越まで、

 その荷が絶えず運ばれるようになれば。


 それぞれの土地が、

 ひと続きの道で結ばれてゆく。


 それは、まるで、

 ひとつの国のようではないか。


 * * *



「イミナ殿は、どうなされるのですか?」


 マヒトがこちらへ顔を向けてきた。



「私たちは、名張へ戻ろうと思います」



「そうか」


 クロイが、ゆっくりと頷いた。


「このたびは世話になった。

 名張の者には、礼を言わねばならぬな」



「せっかく、ご一緒できたのに、残念ですね」


 マヒトは、寂しそうに笑った。




「また、すぐに会えますよ」



 俺は、北の山へ目を向ける。


 そこに潜む山神と、梟。


 その先には、依那古の、

 広大な土地が広がっているという。


 そして、さらに、その向こうには阿閉――



 争いの種が消えたわけではない。



 ここへ戻ってくる日は、


 おそらく、そう遠くはないだろう。

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