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卑弥呼転生 ~妹を女王に、現代知識で邪馬台国を作る~  作者: 露李鈴
| 春:十章「イガの山」

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第二百六話  言葉を重ねる夜

「そもそも、我々は、敵同士ではありません」


 ざわっ――


 城之越の環濠が、どよめいた。



「なに言ってやがるっ!」


 広場の一角で、伊賀臣瀬渡(いがのおみせと)の長男、

 伊賀之火子(いがのひこ)が声を荒らげた。


「だったら、この縄はなんだよ!」


 伊賀臣をはじめ、息子のヒコや、ミナセ。


 その他にも、城之越の兵たちが、

 後ろ手を縛られている。



「あくまで、話を聞いてもらうまでの処置です」


 俺は、そう答えながら辺りを見渡した。


 城之越の環濠の広場には、

 俺と、タケ。


 その周りには、三野臣黒犬(みののおみくろい)の率いる兵。



 その向かいでは、

 城之越の兵が篝火(かがりび)に照らし出されていた。


 その周りには城之越の民


 皆、縛られた仲間を、

 不安な表情で見つめていた。



――――――――――


「貴様らは、何故、城之越に来たのだ」


 伊賀臣が、静かに声をあげた。


「逆に問います……、

 なぜ、三野の荷を襲ったのですか?」


「それは……」


 伊賀臣の口を閉ざした。



「……やはり、我らの荷を襲ったのは、

 おぬしらであったか」


 三野臣の低い声が響いた。


「確かに、我らのやったことだ……」


 伊賀臣が、ゆっくりと頷いた。




「あの荷には、以前の三野臣……」


 伊賀臣は、三野臣へ顔を向けた。


「タカヒコ様の大事な品が、

 含まれておると、そう聞かされてな」


「父上の?」


「そうだ」


「そのような物は積んでおらぬが……」


「……うむ」


 伊賀臣が、力なく息を吐いた。



「一体、誰からそのような話を……」


「……三野之……梟(ふくろう)じゃ……」



 ざわっ――


 城之越の兵たちの間にも、

 小さな、どよめきが生まれた。



「やはり、梟め……動いておったか……」


 三野臣が、眉間にしわを寄せる。



「……ですが、伊賀臣は、その話だけで、

 三野の荷を襲ったのですか?」


「そういうわけではない」


 伊賀臣は、横に首を振る。




「城之越は、北の阿閉に頼らねば、

 生きてゆくにも厳しい土地でのう……」


 そう言って、伊賀臣はまわりを見渡す。


 視線の先に見える暮らしぶり。


 確かに、青山の為吾のような、

 細い環濠である。


「そこで、阿閉臣の名を出されては、

 断ることもできぬ」


 まわりから、嗚咽まじりの声があがる。



「だが、荷を奪ったのは事実、

 その言い逃れはせぬ」


 そう呟き、伊賀臣は項垂れた。



――――――――――


「事情は、分からぬでもないが……」


 三野臣の声が、低く沈んだ。


「だからといって、荷を運ぶ者を、

 皆殺しにしてよいはずもなかろう」


「……なんの話だ?」


 伊賀臣が、訝しげに眉を寄せた。



「とぼけるんじゃねえ!

 三野から名張へ向かった荷の話だよ!」


 三野兵から怒声があがる。



「……おい、俺たちは、一人だって殺してねえぞ!」


 捕らわれた兵たちの中から、

 ヒコが声をあげた。


「誠か?」


「我らが襲った青山にむかう荷、

 その際、父は、決して人死にを出さぬようにと」


 ミナセも、顔を上げた。


「確かに、青山の荷の襲撃では、

 命を落とした者は一人もおらぬな」



 * * *


 なるほど――


 青山と、名張に向けた荷の襲撃。


 城之越が狙ったのは、荷、そのもの。


 だが、梟たちの狙いは、

 荷とは、別のところにあったのかもしれない。



 同日に襲撃があったことで、

 それらを、ひとつながりに見ていたが。


 そこから、すでに間違っていたのだ。


 * * *



「三野と話をするために、

 再三、使者を送っておったのだが……」


「城之越からの使者など、来ておらぬぞ?」


 三野臣の眉間にしわが寄る。


「やはりか……」


 伊賀臣は、そのまま、深いため息を漏らした。




 木津川を挟んだ、むこう岸。


 直線にしてみれば、

 決して、遠くない道のり。


 それでも。


 城之越の使者が、三野の陣に、

 無事に辿り着けなかったというのなら。



「何者かの、強い妨害があったのでしょう……」


 ひとつ思い当たる節がある。

 それは、梟の仕向けたであろう山神の襲撃。


 俺達にむけた牽制でありながら。


 同時に、城之越に向けた、

 調略の布石にもなっていたのだろう。



「ふざけんなよ……」


 ヒコが、歯を食いしばる。


「俺たちゃ、なんのために、

 この何日も戦ってたんだよ!」


 その言葉に、答えれる者はいなかった。




「色々と、お話は分かりました。

 すべてを信じたわけではありませんが……」


 もちろん、彼らの話に、

 嘘が含まれている可能性もある。



「ただ、一つだけ、

 確実に言えることがあるとすれば……」


 俺は、広場の者たちへ、

 ゆっくりと視線を流していく。


「私たちが争って、

 得をする者がいるということです」



 城之越の広場に静けさが落ちる。


 冬の夜風が、ゆらゆらと篝火を揺らしていた。



――――――――――


「我らはどうなる」


 伊賀臣が顔をあげた。



「それについてだが……」


 三野臣が、一歩前に出る。


「我らは、名張から三野、青山……、

 そして城之越へ道を繋げようと考えている」


「……道を、我ら……城之越まで?」


 伊賀臣は、その目を大きく見開いた。


「槍を構えた我らを、信じるというのですか?」


 その隣では、ミナセが怪訝な表情を浮かべている。



「城之越が、信に足る相手ならば……」


 三野臣は、ゆっくり、

 城之越の民全てに視線をむける。


「我ら、三野としては、

 槍を向けるつもりはないのだ」



 * * *


 それは、決して優しさなどではない――


 俺たちは、いずれ、

 阿閉とも向きあうことになる。


 その時、城之越は、

 北を守る大事な土地になるだろう。


 そうなれば、城之越へ食糧や、物資を、

 安定して届けるための「道」が必要となってくる。



 そして、今の俺たちには。


 それらの道の守り手が、

 圧倒的に、足りてないのだ。


 * * *



「今回の償いとして、城之越に、

 道の守り手となってもらえるならば……」


「我ら、三野は、城之越とも、

 これから先の道を共に歩めるだろう」


 三野臣は、それだけ言うと、

 伊賀臣の顔をまっすぐに見据えた。



 そして。


 しばらくの間の後。



「その話……」


 伊賀臣は、ゆっくりと。


「詳しく聞かせてもらいましょう」


 その頭を三野臣にむけて下げた。


 その姿に、城之越の民たちがざわめく。


 安堵したように息をつく者。

 なおも、険しい表情を崩さぬ者。


 さまざまである中――



「なあ、難しいことは、

 俺にはよく分かんねえんだけどよ……」


 ヒコが、口を開いた。




「まだ、納得いかねえんだけど……」


 城之越の民がざわつく。


 なにか、まだ、さらなる、

 交渉の手が隠されているのだろうか。


 

「なにか、不満な点が……?」


 俺は、慎重に尋ねた。



「俺ぁ、どうして負けたんだ……?」


「……は?」


 その言葉に、伊賀臣も、ミナセも、

 まわりにいる城之越の民たちも目を丸くしてする。



「ふっ、立派な武士(もののふ)であるな……」


 三野臣は、不敵な笑みを浮かべると。


「その辺りについては、後日、

 イミナ殿が、話をしてくれるだろう」


 こちらに顔をむけてきた。



「え、あ……はい…………え?」



 なんで、俺が、そんなこと――


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