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卑弥呼転生 ~「偽りの巫女」を祀る兄~  作者: 露李鈴
【185年:春】三章「村の開拓編」

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第十七話 火を絶やさず【人材管理】

 ずしん、と名張の沢が激しく揺れた。



「……これでよいか」


 イワホコが額の汗をぬぐう。


 村の男衆が総出でいてきた大石が、

 沢のかたわらに重々しく据わっていた



「これは見事なものですね」


 俺は、大石を運んだ「木ソリ」を眺める。

 それは修羅しゅらと呼ばれる木製の運搬具だった。


 地面と木ソリの間に、太枝と丸木を噛ませ、

 車輪のような働きで重量物の運搬を可能にさせるものだ。


「……村の宝のひとつだ」


 イワホコは胸を張っていた。




「よし」


 俺は石を見上げる。


「この石より上は、巫女の水場となります」


 その場に居る者たちに改めて説明をする。


「洗いものや汚れの出る作業は、この大石より川下で……」


 言葉だけではいずれ曖昧になる。

 だからこそ、誰もが目で見てわかる境を置いた。



「この沢を村では『巫女の沢』と呼んでおる……。

 ならば、この石は『巫女の石』じゃな」


「……わたしの、いし……」


 イミコが、きらきらと目を輝かせた。



――――――――――


 村に戻る頃には、陽が高くまで昇っていた。


 中央広場の火床では、

 水を清める火が、赤々と燃えており。


 土器の口からは、白い湯気が立ちのぼっていた。



「薪の備えが、思ったより減っておりまして……」


 広場に入ったところで、シラガが声を掛けてきた。


「アサメが気付き、男衆へ声をかけたことで、

 その火を絶やさずに済みましたが」


「次も、気付けるとは限らないと……」


 巫女の火が消えること自体に問題はない。

 消えたなら、また火を起こせばいい。


 それよりも、薪だ。


 薪は村の生命線だ。

 底をつくことは許されない。



「わしの不注意だ……もうしわけない……」


「謝ることじゃありませんよ……」


 シラガは頭を下げてくるが、

 これは、個人に起因する問題ではない。


 長であるシラガに判断が集中しすぎている。

 このままでは、いつか村全体に破綻が訪れるだろう。



「村の声を拾い、必要なら長へと伝える……、

 そういう間の役割が必要ですね」


「だが、それが長の役割ってもんだろ」


 イワホコが腕を組んだ。


「もちろん、最後に決めるのは長です……」


「ただ、負担を集中させたままでは、

 この村が持たないでしょう」


 個人に依存する群れは、

 その個人が潰れることで一気に破綻する。


 この村は、その一歩手前にある――



「この火床を見る役割を置きましょう」


 まずは一人目から。


「火が弱っていないか、

 湯が絶えていないか、薪は足りているか……」


 そこに「役割」を分ける。


 村に最初の前例を築くことが、

 すべての分担制の始まりになることだろう。



「……俺が見ようか?」


 イワホコが名乗りを上げる。


「いえ、大事なのは、村人たち、

 それぞれに役割を分担することです」


 今度は、イワホコに、

 役割が集中するのでは意味がない。


「イワホコさんは男衆をまとめて、

 あくまで、外に目を光らせていてください」




「誰か適役は……」


「アサメさんは、どうでしょうか」


 親であるはずのシラガが、

 心底、意外そうな表情を浮かべていた。


 女衆が役割を持つのは、この時代では珍しいのだろう。


「村の長の娘ならばこそ、

 女衆や、子らへも、声が届きやすいかと……」



「……女が、俺達の上に立つのか」


 背後から声があがる。


「山で木を伐り、獲物を狩るのが男衆であり、

 それが村の重要な『手』であることは揺るぎません」


 ゆっくりと言葉を並べていく。


「それらとは別に村の動きを見る『目』です、

 そこに優劣はありません」


 村の役割分担には「上」も「下」もないのだ。


「……なるほど」


「……たしかに、そうだ」


 男衆から、納得の声があがった。



――――――――――


 呼ばれたアサメが広場へ姿を現す。


「これより、おまえに、

 この火を見てもらいたいのじゃが……」


「……私が、巫女様の火を……」


 アサメが一歩後ずさった。



「すべてを、ひとりで抱えるわけではありません」


 俺は、一歩前に出て説明を加える。


「薪を伐るのは今まで通り男衆、

 水を汲むのも、湯を運ぶのも、村の皆でやります」



「それなら、私はなにを……」


「足りぬことに目を配り、まわりの声を積極的に聞き、

 なにかに気付いたら声をあげてほしいのです」


「……声を……」


 アサメは火を見つめる。



「わたしなどに、務まるのでしょうか……」


 アサメの不安げな声。


 そこに、イミコが、

 ひょこりと前へ飛び出した。


「……あさめ、ひ、みるの……?」


「う、うん……そう、なるみたい……」


 ちいさな巫女を前にして、

 アサメの声は、さらに一段柔らかくなった。


「……あさめなら、よくできると、おもう……」


 その一言に、アサメの肩からすっと力が抜ける。


「……わ、私が見ます……巫女様の大事な火、

 この手で守らせていただきます……」



「よい返事じゃ」


 シラガの目が細くなる。


 父としての安堵と、長としての満足が、

 その顔には混じり合っていた。



「火床のことは、まず、アサメに聞けばよい。

 とてもわかりやすくて助かるな」


 イワホコが、大きく頷いてみせる。


 その単純な答えに、まわりに笑顔が生まれ、

 広場の緊張がほどけていた。



 俺は改めて、火を見つめる。


 長が、長い間、一人で回してきた集落に、

 新たな火の兆しが芽生えた。


 名張の村が、一歩、未来に前に進んだ。

 そんな希望に胸が膨らんだ。


村長の「氏上」と、その一族による「氏人」たち。

労働者層となる「部民」など……後の「氏姓制度」に繋がる村の制度化。

その基礎に繋がる物語として描いてみました。

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