↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
卑弥呼転生 ~妹を女王に、現代知識で邪馬台国を作る~  作者: 露李鈴
| 春:十章「イガの山」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
207/229

第二百三話  ★瀬渡・木津川攻防戦

◇【伊賀臣瀬渡(いがのおみせと)】視点◇



 木津川(きづがわ)の水面(みなも)が赤く染まる。


 西へ傾いた夕日が、

 川の流れに長い光の筋を落とす。



 城之越(じょうのこし)の環濠を出て、すぐの川辺。


 ヒコと、ミナセを傍らに、

 これからの戦について話し合っていた。




「日を重ねるごとに、こちらばかりが、

 消耗しているように見えます」


 息子の伊賀之水瀬(いがのみなせ)は、

 怪訝な表情を浮かべていた。


「うむ」


 三夜続けて敵を追い払った。


 だが、戦の終わる道のりが見えてこない。


 対して、川向こうの陣は、

 日を追うごとに肥大化している。


 ミナセの言うことは、もっともである。



「だからよ、オヤジ!」


 ヒコが、待ちかねたように口を開いた。


「あいつらは弱兵だ。

 今夜こそ、あいつらを打ち払うしかない」


 そう言って、対岸へ顎をしゃくる。


「むこう岸にまで、

 そのまま、奇襲を仕掛けてやろうぜ!」



「それはならぬ」


「なんでだよ」


「対岸には、三輪の兵がおるからだ」


 遠くに並ぶ陣の柵が、

 今では、もう手に負えないほど厚い。


「あやつらと槍を交えるのは避けたい」


「ちっ」


 ヒコが、不満げに舌を鳴らす。



 三輪は、山神の猛攻を退けながら、

 着々と陣の守りを固めている。


 あの者たちと槍を交えれば、

 我らも無事では済むまい。




「……だが、ヒコの言うとおり、

 我らが動かなければいけないのも確かだ」


 我は、ヒコの目を見る。


「どうするってんだよ」



「やつらは、攻めと、

 守りの役目を分けておるのでな……」


 対岸へ手をかざしながら。


「攻め手、三野を徹底的に仕留めればよい」


 今、三輪は、

 山神を抑えるだけで手一杯だろう。


 そこで。


 三野の兵が打ち破られたとなれば、

 三輪だけでの城之越に難色を示すことは必至。


 この戦を諦め、引き返すことも考えられる。



「つまり、攻めてくる三野の奴らを、

 叩き潰せってことだな」


 ヒコが、にやりと歯を見せた。



「しかし、こちらが矢を射かければ、

 すぐに退いてしまうでしょう」


 ミナセが、川へ目をむける。


「なあに、簡単なことよ、

 我らが間に合わなければいいのだ……」


 おもわず口元の端がゆがむ。



「間に合わないとは……」


 ミナセが首を傾げる。


 頭は切れるが正攻法から脱しない、

 真面目な息子だ。


 まあ、お前は、そのままでいい……。



「昨夜、奴らは城之越から距離を離して、

 渡河をしようとしたではないか」


 我は、ゆっくりと口を開く。


「今夜、我らは不覚をとり、

 やつらに渡河をさせてしまうのだ」


 そして、足元に流れる川の流れに目を落とす。


「一度、岸に上げてしまえば木津川を背に、

 そうなれば、容易に逃げることもできないだろう」



「たしかに、川を渡ったあとの兵ならば、

 足も疲れ、隊列も乱れますね」


 ミナセは、川面を見つめながら静かに頷いた。


「まさに、絶好の機会ということだな」


 ヒコの目が、大きく見開かれる。



「そういうことよ」


 この数日、

 我らは矢を射かけ続けてきた。


 それらは追い払うのが目的の矢だ。


 しかし、今宵、我らが手にするのは槍である。



「皆の者、これまで、よく耐えてくれた」


 我は、周囲の兵を見渡した。


 弓を握る指に、痛ましく布を巻いてる者もいる。


 肩を落としていた若者も、

 我の声に、その背筋を伸ばした。



「今宵、我らは、打って出るぞ」



――――――――――


 そう話している間にも、

 夕日は、西の山の端へ沈みかけていた。



 赤かった川面が色を失い、

 どっぷりと闇に覆われていく。


 木津川の流れる音ばかりが、耳に残る。



 その時。



「敵が来たぞ――っ!」


 見張りの兵から、声が上がった。


 対岸に、いくつもの松明が浮かび上がる。


 明かりの向かう先は、

 昨夜よりも、さらに川上である。




「ふっ、どうあっても、

 我らの弓を避けたいようだな……」


 だが、それならば都合がよい。



 望み通り矢を避けてやろう。

 狙い通り川を渡らせてやろう。


 その先が、貴様らの死地となるのだ――




「皆のもの、槍を持て」


 我は、兵たちへ声を掛ける。


 川辺に控えていた者たちが、

 一斉に、こちらへ、目をむける。



「今宵で、すべてを決めるぞ――っ」



 兵たちが、

 それぞれ槍を握り直し。


 ヒコが、我の隣へ進み出る。


 ミナセも、静かに頷いていた。



「「 おおおおお――っ 」」


 我らは腹の底から声を張り上げた。


 環濠の意思がひとつに重なる。



 それら城之越の声で、


 我らは、木津川の水音をかき消した――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。