第百九十一話 はじめての飾りもの
「これで、飾りものを作れますか?」
名張の環濠。
そのひとつの竪穴。
昨日の兎から残した骨を、
俺は、イワホコの目のまえに置いた。
「飾りもの?」
イワホコが、
俺と、骨を交互に見る。
「そりゃ、作れるだろうが……」
その小さな骨を手に取り、
日に透かすように裏表を眺めた。
「これ、昨日、お前が獲ったやつか?」
「はい」
「誰にやるんだ?」
「イミコに」
「そりゃそうか……、
で、なんの飾りにする気だ?」
イワホコは手の中で、
その骨を、あれこれと見てまわす。
「そうですねぇ」
イミコの首には翡翠の勾玉。
その腕には、市庭で一緒に手に入れた腕輪。
それなら、次は。
「髪飾りがいいかな……」
以前、市庭で見かけた――
牙を削って作った、
小さな髪飾りを思い出す。
「こんな感じで」
俺は、自分の前髪を、
くるっと指で横に寄せてみせる。
「横髪を少し、留められるくらいのものを」
「それなら、大きくする必要はねえな」
イワホコが骨を指先で測る。
「あまり細くしすぎんなよ、すぐ折れる」
「難しそうですね」
「まあ、やってみればいいさ」
イワホコは、そう言いながら。
骨を削るための石具を、
俺の前へ置いた。
――――――――――
ごりごりと、
骨を少しずつ削っていく。
先を細長く、角を落とし。
「なかなか思った形になりませんね」
「先の方は、こう……丸めるんだ……」
イワホコも、隣で骨を削りはじめて、
その手本を見せてくれる。
俺のより、ずっと綺麗に整っていた。
「にぃにー?」
その声に。
「……い、イミコっ」
俺は、反射的に手元を隠した。
「なにしてるの?」
「えーっと、イワホコの手伝い……かな……」
「……むぅ、なんで、かくすの」
イミコは覗き込もうとしてくる。
「あとで分かるから……」
「……ほんと?」
「ほんとほんと」
「むぅ……」
イミコは、少し不満そうな顔を浮かべながら、
竪穴から出ていった。
「見つかってんじゃねえか」
イワホコは口元を緩めていた。
「まだ、何を作ってるかは、
ばれてませんよ」
「どうだかな」
そんなことを話しながら、
削った骨へ穴を開け。
細い紐を通せるように整えていく。
「そういや、それ、
初めて獲った獣なんだよな」
イワホコが、俺の手元へ視線をむける。
「そうですけど」
「大事に作れよ」
「それは、もちろん……」
なにを当然のことを――
「そうじゃなくて」
イワホコが骨を指差す。
「初めて自分の手で獲った獣から、
作るもんは特別なんだよ」
「特別?」
「ああ」
「それはどういう?」
「一番、大事な奴にやるもんだ」
「…………」
なるほど。
以前、市庭でも。
自分の手で作った品を、
大切な相手へ贈る風習があると聞いた。
その中でも。
初めて獲った獣から作ったものは、
さらに、特別だということか。
「男の人が、女の人に渡すことも?」
「……そりゃあるだろ」
「その場合は?」
「できるだけ、
良いのを作るだろうな」
「…………」
イワホコの顔と、手元を見比べる。
お手本に作っているのかと思っていた、
その骨の装飾品だが……。
ずいぶん丁寧に作っているな。
それは、まるで誰かに贈るために――
「なんだよ」
「いえ、別に……」
――――――――――
しばらく無言で。
俺たちは骨を磨き続け。
「……できた」
掌には、白く小さな髪飾り。
細い紐も通してある。
一応、形にはなった。
だけど。
「でも、いまいちだな」
「そうか?」
「どうも、形がいびつで……」
左右の形が違う。
その髪飾りの表面部分にも、
よく見れば、削った跡が残っていた。
「それがいいんだよ」
イワホコが、俺の掌を覗き込む。
「大事な奴に贈る、初めての品なんだろ?」
「はい」
「だったら、そのくらいでいいんだよ」
「そんなもんですかね」
「何年も経って、また、作るだろ……」
「また?」
「二つ目、三つ目ってな……」
俺の髪飾りへ、顎を向ける。
「作るたびに上手くなるんだよ」
「…………」
「その時、最初のと並べてみるんだ」
こり――
骨を削る音。
「そこに、二人で重ねてきた月日が、
見えてくるんだよ」
「なるほど」
俺は、改めて掌の髪飾りを見返す。
さきほどまで気になっていた歪みが、
少しだけ違って見えてくる。
「イワホコさん……」
「ん?」
「案外、ロマンチックなんですね」
「……ろま……なんだって?」
イワホコは眉を寄せていた。
「いえ、なんでもないです」
俺が、完成した髪飾りを眺める。
その隣で。
こり。
こり――
「…………」
イワホコは、今も骨を磨いていた。
それはもう丁寧に。




