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卑弥呼転生 ~妹を女王に、現代知識で邪馬台国を作る~  作者: 露李鈴
● 187年| 冬:九章「揺らぐ道」

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第百八十五話 鼓動編:隠された青山のすがた

 木々の間を抜けた途端。


 久しぶりに、

 冬の日差しが顔へ落ちた。


 湿った森の匂いに混じり、

 薪を焚く煙が、鼻先をかすめた。



「…………」


 俺は、思わず言葉を失っていた。



 森の奥深くに隠されていたのは、

 とても小さな環濠だった。


 屋根から立ちのぼる細い煙。

 その向こうには冬枯れした小さな畑。


 軒先には、薪や、干した草が積まれている。



「ここが?」


「…………」


 アガミは静かに頷くだけだった。



 森の中にいた時。


 どれほどの者が木々の陰に潜み。

 どれほどの兵が、この山を守っているのか。


 まるで分からなかった。


 それが、今。


 青山という集落そのもの。

 その、ほとんどが視界に収まっていた。




「また、会うたの、名張の童よ……」


 聞き覚えのある声がした。


 環濠の奥から姿を現した青山臣阿保(あおやまのおみあぼ)が、

 ゆっくりと歩いてくる。


 以前と変わらぬ、

 どこか、人を食ったような笑みだ。



「なぜ、我らをここへ?」


 クロイが、小さな環濠へ目を向けた。


「実際に見てもらうのが、

 一番、手っ取り早いと思うてのぅ」


 アボは笑いながら、

 くるりと、こちらに背を向けた。



 一番手っ取り早い――


 その方法に辿りつくまでの間に、

 どれだけの駆け引きがあったことやら。



――――――――――


 青山の環濠に立ち入ると。



 こん、こん――


 どこかで鳴っていた石の音が、止んだ。



 薪を抱えた女の足も、

 竪穴の前で道具を直していた男の手も。


 一斉に止まった。



 老人が、こちらを見ている。


 小さな子供が、隣の母親の衣を、

 ぎゅっと強く握っていた。


 外の者が、ここまで、

 入ってくることが珍しいのだろう。



「…………」


 そんな、警戒と、

 好奇の入り混じった視線を浴びながら。


 俺たちは、ゆっくりと青山を歩いた。


 何度も手直しされた籠――


 継ぎの当てられた衣――


 軒下へ吊るされた、わずかな干し肉。



 竪穴の隙間からは、

 穀でも煮ているのだろう。


 薄い湯気と、淡い匂いが流れてきた。



 豊かではない――


 だが、名張と同じように、

 確かな人の暮らしがここにはあった。




「…………」


 見れば見るほど。


 なんだか、人の懐を、

 覗き込んでいるような気がしてくる。



 冬を越すための食べもの。


 住んでいる環濠、

 その竪穴の場所に至るまで。


 本来、この人たちが、

 他所の者へ見せたくないものを。


 今、俺たちは見せてもらっている。




「やはり、ないな」


 不意に、クロイが足を止めた。


「え?」


「三野から奪われた荷のあとが、

 どこにも見当たらぬ」


 クロイは、竪穴脇の狭い物置に目をむける。


「この村に、あれだけの荷を運び込めば、

 どこかに溢れているはず」


「そうですね」



「森のどこかへ荷を隠した可能性まで、

 消えるわけではないですが」


 それでも。


 少なくとも。


 この青山で暮らす者たちから、

 奪った荷の匂いは感じられなかった。




「見ての通り」


 少し離れたところで、

 アボが、周囲へ目を巡らせた。


「これが、我らの青山よ」


 その声には、

 恥じるような響きも。


 自分たちを卑下するような色もない。


 ただ。


 自分たちの暮らしを、

 そのまま、俺たちの前にさらけ出していた。



「これが、青山……」


 いつの間にか。


 クロイの槍の穂先は地面へ下がっていた。




「あと気になることが……」


 俺は、腰の袋へ手を伸ばして、

 袋の中へ指を入れる。


 ざらりとした、

 冷たい石の感触が掌に伝わる。



 青山が違うというのなら。


 これは、一体、なんだというのか。



「アボさん、これを見てもらえますか」


 俺は、取り出した石包丁を、

 掌へ載せて差し出す。


 二筋の刻みが残る石包丁。



「三野の荷が襲われた場に、

 この石包丁が、落ちていたんです」



「ふむ、それが……例の……」


 アボが、ゆっくりと近づいてくる。


 そして、

 石包丁に目を向けた。


 ほんの一瞬。



「ほっ」


 その目が、わずかに細くなる。



「これはこれは……」


 次の瞬間。


 アボは。


 声を上げて笑い始めた。


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