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卑弥呼転生 ~妹を女王に、現代知識で邪馬台国を作る~  作者: 露李鈴
● 187年| 冬:九章「揺らぐ道」

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第百八十四話 鼓動編:迷いの森

 森に、足を踏み入れると。


 昼だというのに、

 あたりが暗く沈んでいた。


 ふと、あの日のことを思い出す。



 俺が、この世界に転生した日。


 灰色の空のした。


 ろくに身体を動かせず、

 泥の中へ、沈んでいくような。


 あの、閉塞感を――



――――――――――


 ずぶっ――


 やわらかく湿った土へ、

 裸足が沈みこむ。


 森の落ち葉の下には湿り気が残り。


 踏むたびに冷たさが、

 足の裏へまとわりついてきた。



 聞こえてくるのは土を踏む足音と、

 木々の枝が擦れる音。


 そして、そばにいる者たちの息遣いだけ。



「どうか道を外れぬように」


 アガミから、何度目かの警告を受ける。


「はい」


 俺たちは一列になって歩いている。


 アガミの後ろには、

 山道に慣れているカゲハ。


 最後尾では、イワホコが後ろを警戒する。


 その間を、俺とシラガ、クロイが並んでいた。



 ぱきっ――



「っ」


 右手の茂みで乾いた枝が折れる。


 カゲハは、すぐに足を止め、

 イワホコも背後へ振りかえり警戒をする。


「…………」


 見えるのは木と、枯れ草。


 その隙間に、

 苔むした岩が転がっているだけ。


 どこにも、人の姿は見えない。



「どこだ」


 イワホコが低く言った。


「右に……ひとり……」


 カゲハの目が、ゆっくりと木々の間を動く。


 次の瞬間。


 今度は、左手の斜面で、がさりと葉が揺れた。


「いや……追いきれん……」


 カゲハが、眉を寄せる。



「これでは、なんも、分かりませんね……」


 俺も、目を凝らしてみるけれど、

 まったく見えない。


 青山が俺たちを襲うつもりなら、

 とっくに、その機会はあったことだろう。


 襲うつもりはなさそうだが、

 それでも。


 森の、あちこちから向けられる気配が、

 途絶えることはなかった。



「アガミ殿」


 クロイが声を掛ける。


「これは……おぬしらの手の者か?」


「はい」


「我らを見張っておるのか」


「そうです」


 隠す様子もなく。

 ただ、あっさりとした返事だった。



「油断してられねぇな……」


 イワホコが、斧を握り直す。


「安心して、そのまま、進まれよ」


 アガミは振り返らずに言う。



「道を外れぬ限り、

 こちらから何かすることはありませぬ」


「道から外れたら、どうなるんだ?」


「はてさて」


 それだけだった。



――――――――――


 そのあと、二手の分かれ道を何度も通り、

 似たような木に、似たような岩。


 そして何度目かの分かれ道に辿りつく。



「なるほど……」


 俺は、思わず声を漏らす。


「どうした?」


 クロイが身を寄せてきた。


「この迷いの森が、

 よくできてるなと思って……」


 あたりを振り返る。


 目印になりそうな、

 木も、岩も、いくらでもある。


 だけど。


 似たような形が、

 また、いくらでもあった。


「人の道と、獣の道の区別がつきません」


「何度か道を曲がっただけなのに、

 もう、これまでの道に自信がありません」



「恐ろしいものじゃな……」


 シラガが周囲を見渡しながら、息を吐いた。


「入ることはできても、

 道を知らねば、もう戻れぬか」


「はい」


 名張が、山に四方を守られているのなら。


 この青山は、

 森に守られているのだろう。



「獣が通った道もあれば、

 水が作ったり、他にもありますが……」


 俺たちの会話を聞いていたアガミが、

 ただ、静かに呟いた。


「我らは、それを知っているだけです」


 それだけ言うと、

 アガミは、また森の奥へ歩いていった。



――――――――――


 そのまま、さらに道を進む。


 どれくらい歩いたことだろう。


 相変わらず、周りには、

 変わり映えのしない木々ばかりが見える。



「あれ?」


 道の脇に、細い枝や薪が、

 一か所にまとめて置かれていた。


 そして。


 鼻をくすぐる、ごくかすかな匂い。


「煙……?」


 近くで火が焚かれている。


「村が、近いのか……」


 イワホコが呟いた。



 その時――


「私は、あなた方が、

 このように来てくださったことを……」


 前を歩いていたアガミ、

 その歩みが、ほんの少しだけ緩くなった。


「心から、ありがたく思っております」



「やはり、試してたんですか?」


「はてさて」


「えぇ……」


「ただ、人が何を申すかより、

 その者たちの足取りを我らは見ます」


「その者たちの、足取り……」


 その言葉が、

 妙に、胸へ残った。



 やがて。


 木々の向こうが、

 少しずつ明るくなってきた。



 かすかな煙の匂いも、

 さきほどより、さらに濃くなる。


 遠くから、こつこつと、

 木を打つような音が聞こえてくる。



「着きました」


 アガミが、不意に足を止めて、

 こちらへ振りかえり。


 木々の向こうへ、静かに手を向ける。



「ここが、青山です――」


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