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卑弥呼転生 ~妹を女王に、現代知識で邪馬台国を作る~  作者: 露李鈴
● 187年| 冬:九章「揺らぐ道」

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第百八十二話 鼓動編:★阿保・青山へとむかう道

◇【青山臣阿保(あおやまのおみあぼ)】視点◇



 ざわっ――


 背後で、枝が揺れる。


 森に差し込む光が、

 木々の向こうへ遠ざかっていく。



「はぁ……まいった、まいった……」


 ここまで来れば、あやつらからも見えまい。

 ようやく、まともに息がつける。


「むこうは、三十を越えておりましたな」


 右腕の青山之阿上(あおやまのあがみ)が静かに呟いた。


「あんなのとまともにぶつかれば、

 我ら青山は、持ちませんよ」


 まだ若い青山之阿波根(あおやまのあばね)が、

 軽々に泣き言をこぼす。



「まったく、情けないのぅ……」


 だが、まったくそのとおり。

 青山は決して大きな集まりではないのだ。


「あの数を相手に、真っ向からでは、

 我らに勝ち目は薄いですな」


 アガミは、不敵に笑っていた。


 こいつは昔から不躾な物言いをするが、

 その目は、確かなものを見ている。



「草地では勝てんだろうなぁ……」


 我は、これみよがしにため息をこぼす。


「だが、この森ならば、好きにはさせまいて」



「本当に来るのでしょうか」


 アバネが来た道を振りかえる。


「さてのぅ、さっぱりわからん」


「頭(かしら)ぁ……そんな、適当な……」



 あやつらの兵は――


 普通に考えれば退くだろう。


 あそこまで脅しをかけ、待ちぶせを匂わせ、

 森へ入って来られるはずもない。



――――――――――


「だが、あの童(わらべ)……、

 最後まで我を信じるとは言わなんだな」


「我らを疑っているなど、

 誠に、無礼な話ではありませぬか」


 アバネが眉を寄せて憤る。



「逆じゃ、馬鹿もの……」


 我は首を横に振った。


「簡単に信じますなどと言う方が、

 よほど信用ならぬ……」


 ただ時間を稼ぎ、こちらの隙を伺い、

 自分の利だけに目を光らせているような――


 そんな上辺(うわべ)の言葉に価値はない。


 その点、あの童の言葉には嘘がなかった。



「それに、あの火の巫女……」


「あの童女ですか」


 三十余りの槍の中に混じる、小さな娘。


 その光景はあまりに異質。


 青山を攻めるだけなら、

 わざわざ過酷な山道を連れて来る理由もない。



「では、あの者たちを、

 本当に青山の里へ案内するのですか?」


「誰が、そのようなことを申した」


「は?」


 アバネが足を止める。



――――――――――


「我は、ついて来いと申した、それだけよ」


「では……」


 アバネが、おそるおそる尋ねる。


「あの兵たちが、森へ入ってきたなら?」


「その時は敵だ」


 即座に答えた。



「話をする者だけ前へ出よと、

 そう、我は最初に言ったはずだ」


 そこで、一旦、呼吸を整える。



「その上で、この森へ兵を押し込んでくるなら、

 それ以上、言葉を交わす必要はない」


 話し合いと言いながら、

 兵を押し込む者が、


 この先、交わした約定を守るとも思えぬ。




「では、一人か、二人だけの物見を、

 こちらへ寄越したなら?」


「帰してやれ」


「……帰す?」


「青山の里を見せることはない」


 その時、丁度、

 二手に分かれる獣道に通りかかる。


 我は、迷うことなく右へ折れる。

 後ろの二人も当然のようについてくる。


 これが、外の者なら、

 この分かれ道にすら気づくまい。


「ただ、道を違えさせればよい」


 殺す必要もない。


 自らは、兵の後ろへ隠れ、

 名も知らぬ者だけに青山を探らせるのなら。


 こちらに里を見せる理由はない。




「では、あの場の者たちが、

 兵を置いて、こちらへ来たならば……」


 アガミの声が、少し低くなった。


「…………」


 すぐには答えられなかった。



 * * *

 兵を置き、

 自ら、森へ踏み込む。


 それは、あまりに細い道だ。

 ふつうなら選ばぬ。


 だが、あの童なら――

 * * *



「その時は、青山へ案内(あない)せよ」


「よいのですか?」


 アガミが、驚いた表情を浮かべる。


「青山の里を見せれば我らの数も、

 その暮らしも、知られてしまいます」


 その隣で、アバネが語気を強めた。



「我らの里を見せるのが、

 荷を奪っておらぬことを示すのに一番早い」


 だが同時に、青山の森に隠していたもの、

 そのすべてを知られてしまう。


 その人の少なさも、

 蓄えの乏しさも知られることになる。


 その時から、我らは弱者となり下がるだろう。



「だからこそ試すのだ」


 その覚悟を。


 このような理不尽な要求をまえに、

 その「信」を見せてくれるというのなら――



 どうやら我は。


 あの童が、そうすることを、

 心のどこかで望んでおるらしい。



――――――――――


「アガミ、おぬしは森の入口へ……」


「いかように?」


「思うとおりにせよ」


「はっ」


 アガミは小さく頭を下げると、

 今来た獣道を、冬野の方へと姿を消した。



「さて」


 この細い道――


 あやつらは、

 どこまで来るのやら。

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