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卑弥呼転生 ~妹を女王に、現代知識で邪馬台国を作る~  作者: 露李鈴
● 187年| 冬:九章「揺らぐ道」

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第百八十一話 鼓動編:おくのほそ道

「いるな……」


 カゲハが、小さく呟いた。


「何人だ?」


「分からんが、そこらにいる……」


 カゲハの視線だけが、

 木々の間を、ゆっくり巡っている。



「こちらが不利のようですね」


 遮る物のない冬野では、

 こちらの数も、槍の並びも丸見えである。


 対して、青山の森のなかは、

 ほんの数歩先すら影に隠れていた。



 前回、来た時と同じく。


 俺たちが見つけるよりも先に、

 向こうは、こちらを観察していたようだ。



――――――――――


 やがて。


 わずかに木々の暗がりが動き。


「…………」


 木の影だと思っていたもの。


 そのひとつが、

 ゆっくり、人の形を象っていく。



「アボさん……」


 前に青山を訪れた時、

 青山を代表して俺たちと話した男である。


 その後ろには、

 見覚えのある若い男衆が二人。



「話をする者だけ、前へ出てくるがよい!」


 アボが、冬野に声を響きわたらせた。



「みな、油断するでないぞ」


 シラガが、森を見わたしながら呟き。



「我らで前に出るとしよう」


 クロイが槍を片手に前にでる。



「皆は、ここで待て」


 ナトリは、後ろの波多の者たちへ言いつけた。



 名張臣白髪(なばりのおみしらが)に、三野臣黒犬(みののおみくろい)、波多之鳴鳥(はたのなとり)。


 そんな三人の後に、俺も付いていく。



 一歩。


 また一歩。


 うしろに並ぶ味方の槍が、

 すこしずつ遠くなる。


 だが、それは、むこうも同じである。


 青山のアボたちも背後の森から離れて、

 こちらに向かって草地へ足を踏み出してきた。



 そして。


 なにかあれば退けるだけの距離を残して。


 両者、立ち止まった。



――――――――――


「三野臣黒犬(みののおみくろい)である、そなたは何者だ」


「我は、青山臣阿保(あおやまのおみあぼ)である」



「え」


 俺は、思わず声をこぼす。


「なんと、あやつが……そうであったか……」


 隣のシラガも驚きを隠せずにいる。


 以前会った時には、青山の手の者だと思ったら、

 まさか、青山臣(あおやまのおみ)であったとは……。



「おぬしらは三十を越す槍を連れて、

 この青山の地へ、一体、何をしに来た!」


「こたび、三野の荷が何者かに襲われた」


 クロイが声を張りかえす。


「それを、我らがやったというつもりか」


 声と、声が、

 冬野の真ん中でぶつかりあう。



 このままでは、まずい――



「俺たちは話をしに来たのです!」


 俺は、二人の間に割ってはいる。


「その顔、以前の……名張の童か……」


 アボの熱が、見るからに一段下がった。


「話をしに来たという割には、

 その装い、随分と物々しいようだが……」


「あくまで、こちらが襲われないための備えです」


「…………」


 アボは、しばらく俺の顔を見たあと。


「随分と、疑われたものだな……」



「我ら、三野から、おぬしたち、

 青山へ向けた荷が何者かに襲われたのだ」


「それはこちらでも聞いておる、

 それが、なぜ、我らを疑うことになる」



「青山に荷を運ぶ者には、

 一人の死者も出ておらぬが……」


 そこで一拍、クロイは強く噛み締めていた。


「時を同じくして……、

 三野から、名張へ荷を運んでいた者たちは、

 皆、殺されておった!


「それは……初耳であるが……」


 アボが背後に目をむける。


 後ろに控える二人は、首を横に振った。



「それらの亡骸には、

 両足と、喉に痕が残されていました」


「ふむ、山神のものたちか……」


 アボが小さく頷いてみせる。


「そして、その場にはこれが……」


 俺は、現場に残されていた石包丁を

 頭上高くに掲げる。


「二筋の刻みを持つ石包丁です」


「…………」


 俺の言葉に、

 一度、アボが静かに目を閉じる。


 後ろの若者二人の顔色も、

 はじめとは明らかに変わっていた。



――――――――――


「なるほどな」


 アボが、静かに白い息を吐いた。


「それならばたしかに、

 我らを疑うのも分からぬではない」


 アボは、まっすぐ俺に視線を向ける。



「だが、我らではない」


「…………」


「そう言ったところで、

 おぬしらは、それを信じるのか?」


「それは……」


 俺は、口を開きかけて止めた。


 アボの言葉は信じたい。


 でも――



「難しいです」


 俺は、首を横に振るしかなかった。



「だろうな……」


 アボは、小さく息を吐くと。


 ゆっくりと森へと引き下がっていく。


「我が言葉を信じたいというなら、

 ついて来るがよい」


 背を向けたまま、

 アボは、その声を冬野に響かせた。



 そして、それ以上何も言わずに、

 森の奥へと姿を隠した。


 背後に控えていた青山の若者二人も、

 後を追うように姿を消す。


 そんな、青山の三人が姿を消した。


 その場所。


 木々の間には。



「……道だ」



 人ひとりが、

 ようやく通れるほどの細い獣道が、


 森の奥へと続いていた――

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