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卑弥呼転生 ~妹を女王に、現代知識で邪馬台国を作る~  作者: 露李鈴
● 187年| 冬:九章「揺らぐ道」

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第百七十九話 鼓動編:集うものたち

 何本もの槍が、冬の空へむかって、

 まっすぐと伸びていた。


 吐き出される白い息が、

 冷たい空気の中へ消えていく。



 あの襲撃から、数日。


 いつもなら市庭へ向かう人々で賑わう場所に、

 今日は、三つの集まりができていた。


 名張、三野、そして波多。


 三つの土地から、十人あまり。


 環濠の守り手を残したうえで、

 皆、出せる者だけを連れてきたのだ。


 そのすべてを合わせても、

 四十に届かない。


 それでも。


 三つの土地から集まった者たちが、

 ひとつの場所へ並んでいた。



――――――――――


 波多の一団から、

 ひとりの男が前へ出た。


「……兄上、波多之鳴鳥(はたのなとり)にございます」


 今、ナトリは、波多を名乗っている。


 後ろにはナトリを慕う者たち。


「うむ」


 むかう三野臣黒犬(みののおみくろい)の後ろには、

 三野の本環濠の主要な者たちが並んでいた。



「久しいな、ナトリ」


「そうですね」


 ナトリは、そう頷きかけてから、

 ふっと口元を緩める。


「ですが、知らせでやり取りしているせいか、

 久しいという気もしないですね」


「たしかにな」


 クロイの口元も自然と緩んでいた。



「それにしても波多之鳴鳥(はたのなとり)か……」


 その視線を、

 後ろの波多の者たちにむける。


「おまえには、波多の方が似合っているな」


「ありがとうございます」


 ナトリは、その頭を小さく下げた。


 そんな二人の様子を、

 まわりは嬉しそうに眺める。


 一時は分裂しかけていた兄弟が、

 今日、同じ方角へ向かおうとしているのだ。



――――――――――


「よう、おまえも来たか」


 すこし離れたところで、

 タケが、波多の一団へ声を掛けていた。


「ああ」


 その相手はカゲハである。



「んー……っ?」


 隣で、イバラが、じろじろと、

 カゲハに視線を這わせる。


「なんだ」


「いや、おまえも、ずいぶんと、

 山っぽいほうの顔してんなと思ってよ」


「おぬしには言われたくない」


「なんだと?」



「おいおい、出る前から揉めるなよ」


 イワホコが、呆れ顔で二人の間へ割ってはいる。



「こんなやつと誰が揉めるか!」


「……ふん、同感だ」


 その様子を見ていた近くの男たちは、

 思わず吹き出していた。


 まあ、大丈夫だろう。



――――――――――


 俺は、環濠の内側へ目をむける。


 カヤが、幼い子を抱いたまま、こちらを見ていた。


 名張へ残る「守り手」の男たち、

 また、女衆たちの姿もそこにある。



「にぃに」


 槍の並ぶ隙間から、

 見慣れた小さな頭がひょっこりと現れた。


「イミコ……」


「なぁに?」


「…………」


 なぁに、じゃない。


 まるで最初から自分も行くといった表情で、

 大人たちの間に立っていた。


「イミコは、名張で待っててね」


「……むぅ」


 わかりやすく頬を膨らませる。



「にぃにも、行くんでしょ?」


「行くよ」


「シラガも?」


「行くね」


「タケに、イワホコも?」


「行くねぇ……」


 言えば言うほど、

 自分で逃げ道を塞いでいる気がする。



「別に心配しなくても大丈夫、

 今回は、戦するわけじゃないから」


「…………」


「青山へ、お話をしにいくだけだからね」


 すると、イミコの顔が、ぱっと明るくなった。


「じゃあ、わたしも行く!」


「え?」


「一緒に連れてって!」


「いやいや。でも、危ないから……」


「戦、しないんでしょ?」


「…………」


 しまった。


 まわりの名張の村の者たちは、

 その口元を緩めて、こちらを眺めている。



「お話するだけ?」


「……そうなんだけど」


「なら、わたしも行けるよね?」


「…………」


 まわりからは、

 くすくすと笑い声まで聞こえてきた。



「で、でもね……もしものことも――」


「戦、しないんでしょ?」


 小さな手が、俺の袖を掴んだ。


「…………」


 二回目。


 自分で言った言葉に、

 自分が追いつめられるとは思わなかった。



「にぃにだけで行ったら、

 わたし、ずっと心配するよ?」


「うっ……」


 それを言われると、弱い。



「ほっほ、こりゃ、イミナの負けじゃな」


 隣で、シラガがこらえ切らずに噴出した。

 まわりからも笑い声があがる。


 こうなるともうどうしようもない。


「絶対に、俺から離れないでね」


「うんっ!」


 袖から手を離したイミコは、

 勝ったと言わんばかりに笑っていた。



「うらみますよ」


 俺は、シラガにジト目を向ける。


「ほっほっほ、立派に育ってる証じゃろう」


 シラガは高笑いをしながら、

 周囲に並ぶ槍を見渡し。


 ゆっくりと目を細める。


「これだけの槍を連れていくのなら、

 火の巫女を連れることの意味もあろう」


「まあ、それはそうですが」


 兵を並べれば、どうしても、

 青山のほうが構えてしまうだろう。


 そこに、火の巫女が居れば、

 それだけで話し合いの余地が生まれてくる。


 そのための象徴に「火の巫女」は最適ともいえる。



――――――――――


 そうして。


 出立の準備が進むなか。



「名張臣(なばりのおみ)ッ……!」


 環濠の入り口から声があがった。


 一人の男が、白い息を吐きながら駆けてくる。

 その裾には乾ききらない泥が残っていた。



「三輪君(みわのきみ)から、返事を預かってきました」


 三輪へ出した「知らせ」である。


「なんと?」


「兵は出す、ただし――集めて向かわせるには、

 少しだけの時をいただきたいと」


「ふむ」


 シラガは、俺に視線を向けてきた。


「そうですねえ……」


 ここで三輪を待てば、

 兵は、さらに増えて心強い。


 けれど、どれだけの時間が掛かるのか分からない。


 その間にも、青山や、山の者たちは動ける。



「先を急ぐか……」


 クロイが、俺に声を掛ける。


「一旦、引き返すか……」


 ナトリの視線も、

 また、俺に寄せられていた。




「まず、俺たちで先に進みましょう」


 三つの土地から集まった者たちを、

 ゆっくりと俺は見渡した。


 誰の目にも強い意志がたぎっている。


 せっかくの高まった士気を下げることもない。


「三輪には、準備ができ次第、

 青山へ向かう道を追ってもらいましょう」


「うむ、ではそのように」


 シラガが大きく頷いた。



――――――――――


「行くぞ、皆のもの」


 クロイは槍を手に取り、空高く掲げる。


 その声に応じて、

 三野の者たちが動き出した。



「我らも三野の後に続けっ」


「名張も遅れるな」


 環濠の前で三つに分かれていた人の塊が、

 一つの長い列へ変わり、道のなかに飲まれていく。


 槍の石突きが土を叩き、

 皆の足が、冬の乾いた道を踏みしめる。



 これまで、別々だった足音が、

 青山へ続く道に向かって、


 ひとつに重なった――


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