第百七十八話 ひろがる痛み
弔い。
それは、亡くなった者へ、
最後に何かしてやりたいという。
生きる者からの「贈り物」なのかもしれない。
どうか、苦しみから解放されるように――
そんな願いだけは。
遥か太古から、
現代、そして未来へと。
絶えることなく受け継がれていくのだろう。
――――――――――
ざくっ――
鍬の先端が湿った土に食いこんだ。
「ふぅ……まだまだですね……」
一度、俺は顔をあげる。
あの惨状を見つけた翌日。
三野へ続く道の外れに、
新しい盛土が、いくつも並んでいた。
「あと少しか」
イワホコが、石鍬についた土を払う。
三野まで亡骸を運ぶには、
その数が多すぎた。
だから。
道の外れへ、ひとりずつ、土へ返す。
昨日まで人だった姿が、
土を掛けるたびに見えなくなっていった。
――――――――――
「イミナ殿、少しよいか?」
三野之岩根に呼ばれた。
知らせを受けた三野から、
イワネが、男衆を率いて来ていた。
「知らせねばならぬことがある」
「なんでしょう」
「昨日、修羅以外にも、
青山へ向かった荷も襲われたのだ……」
「青山への荷も……?」
俺は、思わず作業の手を止める。
青山も襲われた側なのか――
「その荷は奪われ、
護衛に傷を負った者もおるのだが……」
そこで、イワネの歯切れが悪くなる。
「他になにか?」
「誰も、死んでおらんのだ」
イワネの目が、道沿いに並んだ墓へ落ちる。
「一人もですか?」
イワネが静かに頷いた。
「…………」
俺は、まわりの盛土に目を落とした。
一つ、二つ……。
墓は、視線の向こうにも続いてる。
こちらには、これだけの墓が必要だったのに。
青山には――
「向こうを襲ったのは、山の奴らなのか?」
離れた所から話を聞いていたイバラが、
こちらに寄ってきた。
「分からぬ」
「奪う相手に手心を加えるような、
甘い奴らじゃないぞ」
「もし、青山への襲撃が、
別の手によるものだというなら……」
シラガが、静かに口を開いた。
「誰がそんな真似を」
「青山自身が、
己の荷を襲わせた可能性もあります」
「なんでそんなことを?」
「…………」
正直、そんなことは考えたくない。
考えたくもないのに――
昨夜、イワホコが泥の中に見つけた、
二筋の石包丁が脳裏に浮かぶ。
「青山と、三野を結ぶ道を、
わざわざ壊すとは思えんがのう……」
隣で、シラガが声をあげる。
「だからこそ、直接、
確かめなければいけません」
――――――――――
「今回の件、三野臣はなんと?」
「名張と共に動けと……」
イワネは、そう言いながら顔を伏せた。
「まずは青山ですね」
「ならば、兵を用意せねばなるまいな」
「三野からも兵は出すが……」
続く、イワネの語尾が小さかった。
その目は、さっき埋め終えたばかりの、
盛土に向けられている。
「…………」
分かっている。
簡単に出せるほどの人手が、
今の三野にはない。
かつて、名張から
見上げるほど大きかった三野も。
今は、名張や、波多と、
そう変わらぬ手勢しか動かせないのだろう。
「波多にも声を掛けてみましょう」
俺はまわりを見渡す。
「名張、三野、波多の、
それぞれから兵を出しあうのです」
「うむ」
「そうじゃな……」
イワネと、シラガが顔を見合わせた。
「それと、今朝のうちに、
三輪にも応援を求めました」
「三輪か」
イワネが驚きの声をあげる。
「この道は、三輪へも繋がっています」
「来てくれるかは分かりませんが、
それでも、他人事ではないはずです」
「そこまでして……、
青山と本気で戦うつもりなのか?」
イワネが、わずかに眉を寄せた。
「あくまで話をするためです」
俺は、北の山に視線をむけた。
「ですが、相手と対等に話すには、
こちらにも相応の武が必要ですから」
「そうだな、かたじけない……」
イワネは、短く頷いた。
――――――――――
それから。
俺たちは残りの墓を埋めて。
散らばった荷や、
壊れた修羅を片付けているうちに。
冬の陽は、西へ傾いていた。
「これで最後だな」
ごとり――
最後に、墓へ置かれた石。
その向こうには、
青山へと続く道が伸びていた。
その道を。
次は、多くの兵を引き連れて。
歩くことになるだろう。




